概要

日本取引所グループは、東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所、日本証券クリアリング機構、JPX総研などを抱える市場インフラ企業である。

収益源は、現物・デリバティブ取引、清算、上場、情報、システム利用料が中心となる。

2026年3月期は、日本株市場の売買代金拡大と清算関連収益の伸びが全体を押し上げた。

売上:1,987億35百万円 営業利益:1,162億89百万円 最終利益:791億39百万円 YoY:増収増益

相場活況の恩恵を強く受けた1年だったが、同時に金利・データ・新商品の拡張も進んだ。

決算ハイライト(簡易表)

指標内容
売上1,987億35百万円、前期比22.5%増
営業利益1,162億89百万円、同29.0%増
最終利益791億39百万円、同29.5%増
要因①現物売買代金の増加で取引関連収益が20.0%増
要因②金利スワップ取引の担保管理関連で清算関連収益が57.5%増

営業利益率は58.5%まで上昇し、ROEも23.1%に達した。

何が起きたか(最重要)

数量

数量面では、現物市場の拡大が最も大きい。

2025年度の株券等の1日平均売買代金は7.52兆円で、前年度比31.9%増となった。 プライム市場内国株も同30.0%増の5.74兆円だった。

取引関連収益は773億99百万円と前期比20.0%増。 現物取引料は552億65百万円で同28.2%増となり、取引関連収益全体を押し上げた。

一方、金融デリバティブは通期でみるとやや弱く、取引料は前期比1.0%減だった。 日経225先物は減少したが、日経225オプションは22.5%増と強弱が分かれた。

清算関連では、金利スワップ取引の担保管理収益などが大きく伸びた。 これは単なる株式売買の追い風だけでなく、金利関連サービスの拡大という構造要因も含んでいる。

価格

JPXの価格面は、小売企業の値上げのような単純な単価改定ではなく、上場料、情報提供料、システム利用料の積み上がりでみる必要がある。

2026年3月期は、上場関連収益が186億82百万円と前期比7.9%増となった。 新規・追加上場料と年間上場料がともに増えたことが背景である。

また、補足資料では情報関連収益が前年度比17億円強増え、データサービス収益は35億円と前年度比11%増だった。 市場売買だけでなく、情報そのものを販売する収益の厚みも少しずつ増している。

コスト

営業費用は835億98百万円で前期比11.4%増だった。

主因は、金利スワップ取引等の担保管理に伴う清算参加者への返戻額の増加などで、その他の営業費用が大きく増えた点にある。 つまり、清算関連収益の拡大は利益押し上げ要因である一方、対応コストも同時に増える構造だ。

それでも営業利益は29.0%増で、収益増加がコスト増を十分吸収した。

為替

JPXは国内市場インフラが中心のため、製造業のように為替が直接売上総利益を振らす構造ではない。

ただし、為替は間接的には重要である。 2026年4月13日には大阪取引所でドル/円、ユーロ/円、オフショア人民元/円の通貨先物を上場しており、為替変動が大きい局面ほどヘッジ需要や新商品の利用拡大余地が生まれやすい。

この会社では、為替は直接要因というより、市場活性化と商品需要を通じて効く外部要因とみるほうが実態に近い。

構造要因と一時要因の切り分け

2026年3月期の増益には、日本株売買代金の増加という市況要因が大きく効いた。 これは地合い次第で反動もありうる。

一方で、金利スワップ関連収益の拡大、データサービス収益の増加、通貨先物など新商品の追加、AIを活用した情報サービスの進展は、収益基盤の多様化につながる構造要因である。

株価をみるうえでは、相場活況だけでなく、この構造要因がどこまで定着するかが重要になる。

直近材料(3ヶ月)

2026年4月13日、大阪取引所は通貨先物とポケットゴールド100先物、ポケットプラチナ100先物を上場した。 デリバティブの裾野を広げる動きであり、日本株以外の収益拡大余地を示す材料である。

2026年4月28日には、2026年3月期通期決算、2025年度決算補足資料、中期経営計画2027の2026年度アップデート、自己株式取得の決定を同日に公表した。 自己株式取得は上限4,000万株、取得総額上限200億円、取得期間は2026年6月1日から10月26日で、資本効率と還元姿勢を意識した内容といえる。

同じ4月28日には、AI利活用の進展も公表された。 J-LENS、JPX Market Explorer、JPxData Portalなど、開示情報の検索や理解を助けるサービス拡充を進めており、社内ではAI活用により1人当たり月平均約12時間の業務削減効果が示された。

2026年5月1日には4月の売買状況が公表され、東証プライム市場内国普通株の1日平均売買代金は8兆9,031億円、ETF市場は4,657億円、デリバティブ合計取引代金は293兆円だった。 2025年度通期の高水準が期初にも続いていることを示すデータで、短期的には取引関連収益の追い風として読める。

なお、決算公表後の株価反応を定量的に示す二次データは本稿作成時点で十分に確認できていない。 そのため、足元の市場評価は売買統計と会社開示の組み合わせでみる必要がある。

ビジネス構造

収益源

JPXの収益源は大きく6つある。

  • 取引関連収益
  • 清算関連収益
  • 上場関連収益
  • 情報関連収益
  • システム関連収益
  • その他の営業収益

2026年3月期は、取引関連収益773億99百万円と清算関連収益542億42百万円が中核だった。 つまり、現在の利益は株式・デリバティブ売買とポストトレード機能が支えている。

利益率

営業利益率は58.5%と非常に高い。

市場インフラは固定費型の性格が強く、売買やデータ需要が増える局面では利益率が上がりやすい。 そのため、取引量が強い年は利益の伸びが大きく出やすい。

強み

強みは明確で、国内資本市場の基幹インフラであることだ。

東証・大証・TOCOM・JSCCを抱え、取引、清算、上場、情報提供まで一体で持つため、単一商品会社より収益源が広い。 加えて、ETF純資産残高100兆円突破や金利スワップ清算の拡大など、既存市場の厚みが大きい。

弱み

弱みは、依然として相場環境に対する感応度が高いことである。

現物売買代金が落ち着けば取引関連収益は鈍る。 また、高収益企業であるぶん、システム障害や市場制度変更が与える信頼面の影響も大きい。

株価への意味

ポジティブ

2026年3月期は増収増益で、営業利益率58.5%、ROE23.1%と収益性・資本効率の両面が強い。

さらに、年間配当は2026年3月期実績61円、2027年3月期会社予想も61円で据え置きである。 加えて、2026年4月28日には上限200億円の自己株式取得も決めており、還元姿勢は明確だ。

ネガティブ

他方で、2027年3月期会社予想は営業収益2,050億円と増収を見込む一方、営業利益は1,150億円で前期比1.1%減、親会社の所有者に帰属する当期利益は775億円で同2.1%減を見込む。

相場活況の反動や投資負担を吸収しながら、利益水準を維持できるかが次の論点になる。

織り込み

市場がこの会社を評価する際は、単年度の売買活況だけでなく、金利関連、データ、システム、新商品の寄与をどこまで持続的な利益とみなせるかが重要になる。

4月の売買統計は強いが、それが通年で続く前提まで織り込むと評価はやや不安定になりやすい。

ギャップ

今後のギャップは、日本株売買代金の高止まりではなく、非株式・非単発の収益の比率が上がるかにある。

通貨先物、金利スワップ関連、データサービス、AI活用型サービスが利益への寄与を増やせれば、相場依存度の低下として評価されやすい。 逆に、売買代金の追い風が一巡した後に伸びが鈍れば、業績の見え方は変わりやすい。

短期(6ヶ月)

短期の注目点は3つである。

1つ目は、月次の売買状況が4月並みの高水準を維持できるか。 2つ目は、自己株式取得が予定通り進むか。 3つ目は、夏場以降の四半期決算で、金利関連やデータ関連の伸びが継続して確認できるかである。

短期では、日本株地合いと還元策の進捗が株価の支えになりやすい。

中期(1年)

中期では、中期経営計画2027の2年目として、収益基盤の多様化がどこまで前進するかが焦点になる。

会社は、グローバルな総合金融・情報プラットフォームへの進化を掲げている。 現物市場の強さだけでなく、金利関連商品・サービス、データ・デジタルサービス、AI活用、新アセットクラスの育成が中期の評価軸になる。

2026年3月期はデータサービス収益35億円、金利関連収益209億円まで積み上がった。 この流れが来期以降も続けば、相場依存の一段の緩和につながる。

シナリオ分析

強気:30% 売買代金の高水準が続き、金利関連・データ関連・新商品が上積みとなる場合、業績の安定成長期待が高まり株価は上向きやすい。

中立:50% 現物市場の活況はやや落ち着くが、還元策と基盤収益が支える場合、株価は大きく崩れずレンジ推移になりやすい。

弱気:20% 売買代金が想定以上に鈍化し、非取引収益の拡大も追いつかない場合、増益期待が後退して株価は調整しやすい。

リスク(簡易表)

リスク内容
市況株式売買代金やデリバティブ取引高の鈍化で取引関連収益が減少
制度・規制上場制度や清算制度の変更が収益構造に影響
システム基幹システム障害やトラブルが信用と業績の両面に影響
新規事業通貨先物やデータ・AI関連サービスの収益化が想定より遅れる可能性
金利関連金利スワップ担保管理関連収益の伸びが平準化する可能性

まとめ

日本取引所グループの2026年3月期は、日本株市場の活況を追い風に大幅増益となった。 特に現物売買代金の増加と清算関連収益の伸びが大きかった。

一方で、投資家が次に見るべき点は、2027年3月期の微減益予想の中でも、金利関連、データ、AI、新商品といった非伝統的な収益源をどこまで伸ばせるかにある。

短期は月次売買状況と自己株式取得の進捗。 中期は収益の多様化が焦点になる。 相場活況企業としてだけでなく、市場インフラの拡張企業として見直せるかが評価の分岐点である。

ファイル名

2026-05-04-japan-exchange-group-analysis.md

本記事は、公開情報に基づいた教育的・情報提供のみを目的としており、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容や将来の投資成果を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけますようお願い申し上げます。