開示資料の位置づけ

今回の資料は、株式会社LASSICのコーポレート・ガバナンス報告書である。

決算短信ではないため、四半期の売上高、営業利益、純利益、EPSのような業績数値は中心ではない。

ただし、新規上場前後の企業を見るうえでは、ガバナンス報告書はかなり重要である。特にTOKYO PRO Market銘柄の場合、一般市場の銘柄よりも流動性や情報量に差が出やすい。だからこそ、誰が株を持ち、誰が経営を監督し、少数株主にどう配慮するのかを事前に見ておきたい。

項目内容
会社名株式会社LASSIC
証券コード574A
市場区分TOKYO PRO Market上場予定
業種情報・通信業
決算期4月
報告書日付2026年4月23日
代表者代表取締役社長 若山幸司
問い合わせ先執行役員コーポレート本部長 白石孝太郎

LASSICは、リモートワーク特化型IT人材サービスやシステム開発支援を軸に、地方創生とIT人材不足というテーマを持つ企業である。

事業テーマは分かりやすい。だからこそ、投資家は「成長ストーリー」と「上場会社としての管理体制」を分けて見る必要がある。

株主構成:創業者・経営陣色が強い

まず目立つのは、株主構成の集中度である。

主要株主は次の通りである。

株主保有株式数保有比率
若山幸司1,070,000株33.65%
株式会社レジョイス1,000,000株31.45%
西尾知宏790,000株24.84%
鎌田和彦270,000株8.49%
株式会社S・M・R・T30,000株0.94%
関根隆行10,000株0.31%
牛尾昭昌10,000株0.31%

若山氏本人の保有比率は33.65%である。さらに、株式会社レジョイスは、若山氏および同氏の近親者が議決権100%を保有する資産管理会社とされている。

ここをどう見るか。

ポジティブに言えば、経営者の持株比率が高く、経営と株主利益が一致しやすい。短期的な株価よりも、中長期の企業価値向上を優先しやすいとも言える。

一方で、少数株主から見ると、支配株主の影響力が非常に強い。上場後に、配当政策、資本政策、関連当事者取引、役員報酬、M&Aなどで、どこまで透明な説明がなされるかは重要なチェックポイントになる。

LASSICは、支配株主との取引について、原則として行わない方針を示している。仮に取引が発生する場合は、取締役会で必要性、合理性、取引条件の妥当性を検討するとしている。

この方針自体は妥当である。ただし、方針があることと、運用が厳格であることは別である。上場後は、関連当事者取引の開示と説明姿勢を見たい。

取締役会:少人数で意思決定は速いが、独立性は課題

LASSICは監査役会設置会社である。

取締役会の構成は、取締役3名、うち社外取締役1名である。取締役会議長は社長が務める。

項目内容
機関設計監査役会設置会社
取締役人数3名
社外取締役1名
取締役任期1年
取締役会議長代表取締役社長
独立役員なし
任意の指名・報酬委員会なし

少人数の取締役会は、意思決定が速い。特にLASSICのような成長フェーズの企業では、スピードは強みになる。

ただし、上場会社として見ると、独立役員がいない点はやはり気になる。TOKYO PRO Marketという市場特性を踏まえれば直ちに問題とは言えないが、将来的に一般市場へのステップアップを意識するなら、独立社外取締役の拡充は避けて通れないテーマになる。

また、指名委員会や報酬委員会は設置されていない。役員報酬については、取締役会決議により代表取締役社長へ具体的な配分が委任される形である。

創業者主導企業としては自然な設計だが、投資家としては「経営の速さ」と「監督の独立性」のバランスを見る局面である。

監査役会:外部専門家3名でチェック体制を補強

一方で、監査役会の構成は比較的しっかりしている。

監査役は3名で、全員が社外監査役である。内訳は、公認会計士2名、弁護士1名である。

監査役属性
浦川絵里子社外監査役、公認会計士
池原浩一社外監査役、公認会計士
加藤淳也社外監査役、弁護士

これは、上場準備企業としては好印象である。

会計と法務の専門家を外部監査役として置くことで、決算、内部統制、コンプライアンス、関連当事者取引などへのチェック機能を持たせている。

もちろん、社外監査役がいるから安心という話ではない。重要なのは、実際に取締役会や経営会議にどれだけ関与し、経営陣に対して必要な指摘ができるかである。

ただ、少なくとも形式面では、取締役会の独立性不足を監査役会で一定程度補う設計になっている。

内部統制とリスク管理

LASSICは、内部監査、監査役監査、会計監査人監査の連携を図る体制を示している。

内部監査については、独立した内部監査室は置かず、代表取締役が任命した内部監査担当者2名が監査を実施する形である。

ここは注意点である。

会社規模を考えれば、独立部署を持たないこと自体は珍しくない。ただ、成長と上場後の開示負荷を考えると、将来的には内部監査機能の独立性と人員強化が課題になりやすい。

リスク管理面では、代表取締役社長を委員長とするリスク管理・コンプライアンス委員会を設置している。開催頻度は少なくとも四半期に1回とされている。

主なリスク領域としては、次のような項目が整理されている。

リスク領域見方
信用リスク取引先の信用管理
事務・オペレーションリスク業務手続きや運用ミスへの対応
情報セキュリティリスクIT企業として特に重要
コンプライアンスリスク法令・社内規程の遵守
人的リスク人材サービス企業としての労務・採用面
風評リスクサービス品質や情報漏えい時の信用低下

LASSICはIT人材サービスを扱う企業である。顧客企業とエンジニア人材の情報を扱う以上、情報セキュリティと個人情報管理はかなり重要になる。

上場後は、売上成長だけでなく、セキュリティ事故、労務トラブル、コンプライアンス違反がないかも投資家のチェック対象になる。

IR・開示体制

LASSICは、IR情報を自社ホームページに掲載する方針を示している。IR担当部署は経営企画部である。

また、株主総会招集通知の早期発送や、集中日を避けた株主総会開催への姿勢も示されている。

一方で、電子議決権行使、議決権電子行使プラットフォーム、招集通知の英訳などは今後の検討事項である。

TOKYO PRO Market銘柄として見るなら、最初から一般市場並みのIR体制を求めるのは現実的ではない。

ただし、LASSICはリモートワーク、IT人材、地方創生という投資家に伝わりやすいテーマを持つ。だからこそ、月次や四半期でどこまでKPIを開示できるかが、上場後の評価を左右しやすい。

特に見たいのは、次のような項目である。

確認したいKPI理由
Remoguの登録者数プラットフォームの成長を見る
稼働エンジニア数売上に近い実需を見る
法人顧客数需要側の広がりを見る
粗利益率人材サービスとしての収益性を見る
採用・営業費用成長投資の重さを見る

決算数値だけではなく、事業の先行指標が見えるかどうかが大事である。

投資家目線の評価

今回のガバナンス報告書から見るLASSICの評価は、強気一辺倒ではなく「慎重に前向き」が妥当だと思う。

良い点は分かりやすい。

鳥取発のIT人材サービス企業として、リモートワーク、地方創生、IT人材不足というテーマ性がある。経営陣の持株比率も高く、オーナー経営の強さは残っている。監査役会には会計・法務の専門家を置いており、外部チェックを意識している。

一方で、懸念点もはっきりしている。

支配株主色が強く、独立役員はいない。指名・報酬委員会もなく、内部監査も独立部署ではない。TOKYO PRO Market銘柄であるため、流動性や売買機会、情報取得のしやすさにも注意が必要である。

つまりLASSICは、短期売買向きというより、上場後の開示姿勢と事業KPIを確認しながら評価していく銘柄である。

まとめ

LASSIC(574A)のコーポレート・ガバナンス報告書を見ると、同社は創業者・経営陣主導の色が濃い企業である。

若山氏本人と、同氏および近親者が議決権を持つレジョイスの存在を踏まえると、資本構成はかなり集中している。これは意思決定の速さにつながる一方、少数株主保護と透明性は上場後の重要テーマになる。

監査役会は、社外監査役3名、公認会計士2名、弁護士1名という構成で、外部チェック体制は一定程度整えられている。

ただし、独立役員不在、任意委員会なし、内部監査の独立性という課題は残る。

投資家としては、LASSICを「地方発リモートワーク人材プラットフォーム」という成長ストーリーだけで買うのではなく、支配株主、IR開示、内部統制、事業KPIをセットで確認したい。

上場後に本当に見たいのは、Remoguの成長が売上と利益にどう落ちるか、そして上場会社としてどれだけ透明な説明を続けられるかである。

参考情報

本記事は、公開情報に基づいた教育的・情報提供のみを目的としており、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容や将来の投資成果を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけますようお願い申し上げます。