貸付と同時に預金が記録される
企業が設備資金を借りると、銀行から紙幣の束を渡される代わりに、自分の口座へ入金される場合があります。このとき、銀行の貸出という資産と、預金という負債が同時に増えます。銀行の貸付によって預金通貨が生まれる仕組みが、信用創造を考える基本です。
イングランド銀行の2014年の解説も、銀行は単に先に集まった預金を又貸しするだけではないと説明しています。以下はその仕組みを読むための独自の円建て仮例で、日本の銀行の実際の取引や英国の制度条件をそのまま示したものではありません。
120万円を新しく貸す仮例
銀行が企業へ120万円を貸し、その企業が同じ銀行に持つ預金口座へ入金したとします。貸付直後の増減だけを取り出すと、次の関係です。利息、手数料、貸倒れの見積りなどは省いています。
| 主体 | 増える資産 | 増える負債 |
|---|---|---|
| 銀行 | 企業への貸出120万円 | 企業の預金120万円 |
| 企業 | 銀行預金120万円 | 銀行からの借入120万円 |
企業の預金は増えますが、同額の借入も増えるので、この時点で純資産が増えたことにはなりません。銀行も、貸出額がそのまま利益や自己資本として増えるわけではありません。両側の記録を読むことで、預金が生まれることと富が無条件に増えることを区別できます。
支払いと元本返済では、動きが異なる
企業が借りた資金で仕入先へ払えば、預金は受取人へ移ります。別の銀行の口座へ送る場合には、銀行間で決済する資金も必要になります。一つの銀行の口座残高だけを見て、銀行全体の預金が同じだけ増え続けると考えることはできません。
一方、預金を使って借入元本を返せば、銀行側の貸出と預金は対応して減るという逆向きの動きになります。新規貸付だけを足し、返済を無視すると、預金や信用の増え方を読み違えます。
銀行が無制限に貸せるわけではない
借り手の返済能力、銀行の収益性や自己資本、資金の流出への備え、規制などが貸出を制約します。借りたい相手がいなければ、貸出だけを増やすこともできません。中央銀行が供給する資金が、固定倍率で必ず貸出へ増幅されるという説明では、こうした条件が抜けます。
銀行株を見る場合も、貸出残高が増えたことだけでは利益増を判断できません。利息収入と調達費用、返済されないリスクへの負担が関わります。信用創造はお金の量を考える土台ですが、それだけで景気や銀行の採算が決まるわけではありません。
出典
参考資料の確認日:2026年10月23日。