「5月に売り逃げろ」とは
「5月に売り逃げろ」は、株式市場でよく知られた季節性の格言である。
英語では次のように言われる。
Sell in May and go away.
より長い形では、次の表現も使われる。
Sell in May and go away, come back on St. Leger's Day.
St. Leger's Dayは、英国の競馬イベントに由来する表現だ。昔のロンドン市場では、夏になると市場参加者が休暇で減り、秋に戻ってくるという感覚があった。そこから、夏場の株式市場は動きが鈍くなりやすい、という格言として広まった。
今の市場は、アルゴリズム取引、ETF、グローバル資金、中央銀行政策、企業決算で動く。昔のままの理由で市場が止まるわけではない。それでも「5月から10月は弱くなりやすい」という季節性として、いまでも投資家の会話に出てくる。
なぜ「5月から10月は弱い」と言われるのか
セル・イン・メイの根拠としてよく挙げられるのが、11月から4月と、5月から10月のリターン差である。
イメージは次の通り。
| 期間 | よく言われる傾向 | 格言での見方 |
|---|---|---|
| 11月から4月 | 相対的に強い | 株式を持つ期間 |
| 5月から10月 | 相対的に弱い | 株式から離れる期間 |
Bouman and Jacobsenの2002年の研究は、この「Halloween indicator」と呼ばれる季節性を国際市場で検証した代表的な論文として知られている。研究では、国によって強弱はあるものの、11月から4月のリターンが相対的に強い傾向が観測された。
とはいえ、ここで読み違えてはいけない。
これは「平均的な傾向」の話であり、「毎年5月に売れば勝てる」という意味ではない。市場は年ごとに違う。金融政策、景気、企業業績、為替、戦争・地政学、AIブーム、インフレ率など、季節性より大きな材料はいくらでもある。
実際に機能するのか
セル・イン・メイは、研究対象としては面白い。過去データでは一定の季節性が見えることがある。
ただ、個人投資家がそのまま売買ルールにするには難しい。
理由は3つある。
| 難しい点 | 内容 |
|---|---|
| 年によって違う | 5月以降も株価が上がる年がある |
| 国や指数で違う | 米国株、日本株、新興国株で同じ動きとは限らない |
| 売買コストがある | 税金、手数料、スプレッド、買い戻し失敗が効く |
たとえば米国株では、2020年、2021年、2024年のように、5月以降も上昇局面が続いた年がある。2023年も、夏にかけてはAI関連株や大型テック株が相場を引っ張った。
「5月だから売る」と決めてしまうと、こうした上昇を取り逃す可能性がある。
市場の格言は、当たる年にはとても分かりやすく見える。問題は、外れた年にどうするかだ。秋に買い戻すつもりでも、8月に上がり、9月に下がり、10月に反発するような動きになれば、実際の売買はかなり難しくなる。
長期投資家はどう考えるべきか
長期投資家にとって、セル・イン・メイは「売買サイン」ではなく、「季節性を意識するためのメモ」くらいに扱う方がよい。
特にNISAや投資信託の積立では、毎年5月に売って秋に買い戻すより、積立を続ける方がシンプルで再現性が高い。
長期投資で優先したいのは、次のような点である。
- 積立を継続できる金額にする
- 株式、債券、現金の比率を決める
- 1つの国やテーマに集中しすぎない
- 相場格言より投資期間を重視する
- 暴落時に売らなくて済む生活資金を残す
セル・イン・メイを見て不安になるなら、全売却ではなく、リスク資産の比率を少し見直す、現金比率を確認する、買い増しペースを調整する、といった使い方の方が現実的だ。
よくある失敗
セル・イン・メイで一番多い失敗は、格言を知った瞬間に「今年もそうなる」と思ってしまうことだ。
主な失敗は次の3つ。
| 失敗 | 何が起きるか |
|---|---|
| 売った後に上がる | 上昇相場に戻れず、機会損失が大きくなる |
| 買い戻し時期を外す | 秋に買うつもりが、高値で追いかける形になる |
| 税金とコストを忘れる | 売却益課税や取引コストで、理論上の効果が削られる |
特に課税口座では、利益が出ている投資信託やETFを売ると税金が発生する。NISA口座でも、一度売った枠の扱いや再投資タイミングは制度上の条件を確認する必要がある。
短期売買が好きな人なら、季節性をひとつの材料にしてもよい。ただし、長期資金で毎年タイミングを当てようとすると、投資の難易度はかなり上がる。
図解:格言を売買ルールにしない
初心者向けチェックリスト
セル・イン・メイを見て売りたくなったら、先にこの5つを確認したい。
- 売る理由は「5月だから」だけではないか
- 売った後、いつ買い戻すかを決めているか
- 税金と売買コストを計算したか
- 長期積立の目的と矛盾していないか
- 上昇した場合に後悔して追いかけ買いしないか
この5つに答えられないなら、格言だけで売買するのは避けた方がいい。
投資で大事なのは、相場の言葉をたくさん覚えることではない。自分の資金、目的、時間軸に合う行動に落とせるかどうかである。
まとめ
「5月に売り逃げろ」は、市場の季節性を表す有名な格言である。
押さえるポイントは次の通り。
- 11月から4月が強く、5月から10月が弱いという季節性を示す格言
- 研究では一定の傾向が確認されているが、毎年当たるわけではない
- 5月以降も株価が上がる年はある
- 売却後の買い戻し、税金、コストが実際の難所になる
- 長期投資では積立、分散、継続を優先した方がよい
格言は、相場を少し立ち止まって見るための道具である。ルールとして盲信すると、かえって投資判断が荒くなる。
セル・イン・メイは「知っておくと役に立つ」。ただし、「そのまま売買する」には足りない。初心者はこの距離感で読むのがちょうどよい。
出典
- American Economic Association「The Halloween Indicator, 'Sell in May and Go Away': Another Puzzle」
- EconPapers「The Halloween Indicator, 'Sell in May and Go Away': Another Puzzle」
- Fidelity「Sell in May and go away」