まず結論

東京エレクトロンの競争優位性は、5つに分けて見た方がわかりやすい。

論点見るべきポイント
装置ポートフォリオパターニング周辺工程に広く入り込む
シェアコータ/デベロッパで世界シェア90%級
参入障壁顧客の量産条件、歩留まり、保守に深く組み込まれる
成長余地AI、HBM、3D積層、工場分散で工程数が増える
リスク中国規制、設備投資サイクル、期待値の高さ

半導体装置株を見るとき、売上成長率だけを追うと見誤りやすい。

重要なのは、どの工程を押さえているか、その工程が顧客にとってどれだけ替えにくいか、装置納入後も収益が続くかである。

TELはこの3点が強い。だからこそ、世界の大型半導体装置メーカーの中でも、ASML、Applied Materials、Lam Researchと並んで語られる。

ただ、ASMLの露光装置のような単一の超ボトルネック企業とは少し違う。TELは、露光の前後を含む複数工程に入り込むマルチプロダクト型の強さを持つ会社だ。

1. TELは何を売っている会社か

東京エレクトロンは、半導体製造装置の中でも前工程の広い範囲をカバーしている。

代表的な装置は次の通りだ。

装置領域役割
コータ/デベロッパフォトレジストを塗布し、露光後に現像する
エッチング不要な膜を削り、微細な回路形状を作る
成膜絶縁膜や導電膜などをウェーハ上に形成する
洗浄微粒子や不要物を除去し、歩留まりを守る
テスト・3次元実装関連後工程・先端パッケージ周辺の需要に対応する

公式製品ページでも、TELはパターニングの4連続工程に装置を持つ会社と説明している。ここが大きい。

半導体の微細化では、露光装置だけを高性能にしても足りない。塗布、現像、成膜、エッチング、洗浄が連動しなければ、歩留まりは上がらない。

顧客から見ると、装置は単なる機械ではない。量産品質そのものだ。

だから、いったん工程に入り込んだ装置メーカーは強い。プロセスレシピ、装置データ、保守履歴、改善ノウハウが積み上がり、次世代ラインでも同じメーカーが呼ばれやすくなる。

2. 世界シェア90%級の中身

東京エレクトロンの象徴的な製品が、コータ/デベロッパである。

コータ/デベロッパは、リソグラフィ工程でフォトレジストをウェーハに均一に塗り、露光後に現像する装置だ。ASMLの露光装置が光でパターンを焼き付けるなら、その前後で「塗る」「現像する」部分を担うのがTELの装置である。

同社の公式ブログでは、コータ/デベロッパ装置の世界シェアを90%、EUVリソグラフィ向けではHigh NAを含めてほぼ100%と説明している。

この数字は強い。かなり強い。

ただし、記事としては「独占」とだけ書いて終わらせない方がいい。市場の定義や世代によって見え方は変わるし、半導体装置の競争は常に次世代プロセスで塗り替えが起こり得る。

それでも、コータ/デベロッパで90%級というのは、単なる高シェアではない。最先端ロジック、DRAM、NAND、High NA EUVの量産条件に深く関わる「標準装置」に近いポジションだ。

3. なぜシェアが崩れにくいのか

TELの強さは、製品カタログのスペックだけでは説明しきれない。

半導体メーカーは、量産ラインの数年前から装置メーカーと共同でプロセスを詰める。新しい材料、新しい膜厚、新しいパターン、欠陥制御、スループット、薬液使用量、装置の稼働率。全部がつながっている。

一度採用されると、装置は工場の運用に深く組み込まれる。

組み込まれる要素顧客側の意味
製造条件同じ品質を安定して出すための前提になる
プロセスレシピ装置変更で再検証が必要になる
歩留まりデータ不良率改善の履歴が蓄積される
保守・部品稼働率を落とさないために継続契約が必要
ソフトウェア・装置データ工場全体の運用改善に関わる

顧客は安いからといって簡単に別メーカーへ切り替えない。切り替えで歩留まりが落ちれば、装置価格の差どころではない損失になる。

ここが半導体装置ビジネスの面白いところだ。高いシェアは、販売力だけでなく、顧客工場の中にどれだけ深く入っているかで守られる。

4. 2026年3月期決算から見る現在地

東京エレクトロンの2026年3月期は、強さと注意点が両方出た決算だった。

項目2026年3月期実績前年比
売上高2兆4,435億円+0.5%
営業利益6,249億円-10.4%
親会社株主に帰属する当期純利益5,745億円+5.6%
EPS1,254.57円+6.1%
ROE29.6%-
自己資本比率71.5%-
営業キャッシュ・フロー5,397億円-

営業利益率は25.6%。装置メーカーとしてかなり高い収益性である。

財務も厚い。自己資本比率71.5%、営業キャッシュ・フロー5,397億円という数字を見ると、研究開発、設備投資、株主還元を同時に進められる体力がある。

ただし、営業利益は減益だった。

ここを無視して「AI半導体で全部追い風」と書くと、記事が軽くなる。市場はすでに半導体装置株をAIテーマとして見ている。良い会社であることはかなり織り込まれているため、ここからは受注、ミックス、利益率、次期見通しの質が見られる。

数字は強い。問題は、期待値も強いことだ。

5. 2027年以降の成長シナリオ

TELの中長期成長は、AI需要だけで決まるわけではない。

むしろ大きいのは、半導体製造プロセスそのものが複雑化していることだ。

HBMとメモリ投資

AIサーバー向けGPUでは、HBMが不可欠になっている。

HBMは単にメモリ容量を増やす話ではない。積層、接続、歩留まり、検査、洗浄など、製造工程の難度が上がる。メモリメーカーの設備投資が続けば、TELの成膜、エッチング、洗浄、周辺工程にも需要が出やすい。

3D化と工程数増加

微細化だけで性能を上げる時代は難しくなっている。

3D NAND、GAA、先端パッケージ、チップレットなど、半導体は立体構造と異種集積に向かっている。構造が複雑になるほど、膜を作る、削る、洗う、測るという工程が増える。

工程数が増えるほど、装置メーカーには追い風だ。

工場分散

米国、日本、欧州、インドなどで半導体工場の分散投資が進んでいる。

これは地政学リスクへの対応でもあるが、装置メーカーにとっては新設ラインの商機になる。既存工場の増強だけでなく、新しい地域に同じ品質の量産ラインを作る必要があるからだ。

ただし、工場建設は発表から量産まで時間がかかる。受注、出荷、検収、売上計上のタイミングはずれる。株価は先に動き、業績は後から出る。この時間差は意識しておきたい。

図解:AI需要がTELに届くまで

AI需要が東京エレクトロンに届く流れ GPU・HBM・先端ロジックの増産は、前工程装置とサービス需要に波及する AI投資 データセンター 半導体増産 GPU・HBM 工程数増加 成膜・エッチング TEL需要 装置・保守 ポイント AI需要そのものではなく、量産工程の複雑化が装置需要を厚くする

最大のリスク

強い会社ほど、リスクもはっきり書いた方がいい。

中国向け売上と輸出規制

中国は半導体装置市場として大きい。

米中対立が強まり、先端装置や関連技術への輸出規制が広がれば、TELの売上成長に影響が出る。特に中国向け需要が市場の下支えになっている局面では、規制ニュースだけで装置株全体が売られやすい。

シリコンサイクル

半導体装置は、顧客の設備投資サイクルに左右される。

AI関連投資が強くても、メモリやロジックの投資が一時的に過剰になれば、受注は鈍る。装置株は、良いニュースが続いている時ほど先に買われやすく、減速の兆しが出ると調整も速い。

期待先行のバリュエーション

TELは高品質な会社だが、高品質であることは市場も知っている。

つまり、投資判断では「良い会社か」だけでは足りない。「今の株価がどれだけ先の利益を織り込んでいるか」を見る必要がある。

良い会社でも、期待が高すぎる局面では株価が伸びないことがある。半導体装置株ではよくある話だ。

総合判断

東京エレクトロンは、AI時代の半導体インフラ企業として非常に強いポジションにいる。

コータ/デベロッパで世界シェア90%級、EUV/High NA EUV向けではほぼ100%に近い支配的ポジション。さらに、成膜、エッチング、洗浄まで含めて顧客工程に入り込む。

この会社の競争優位性は、装置の性能だけでなく、顧客との共同開発、量産プロセスへの深い組み込み、保守・改良まで続く関係性にある。

個人的には、TELを「AI半導体の周辺銘柄」と見るより、「最先端半導体を量産するための工程インフラ」と見た方がしっくりくる。

ただし、株価はストーリーだけでは動き続けない。

2027年以降は、HBM、3D化、工場分散という追い風が続く一方で、中国規制、シリコンサイクル、期待値の高さが重しになる場面もあるだろう。

強い銘柄ほど、良い材料は早く織り込まれる。TELを見るなら、シェアの高さだけでなく、受注、利益率、キャッシュ、そして市場がどこまで先回りしているかをセットで確認したい。

出典・参考資料

本記事は、公開情報に基づいた教育的・情報提供のみを目的としており、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容や将来の投資成果を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけますようお願い申し上げます。