家計調査が示した2025年の日本家計
総務省統計局の家計調査報告によると、2025年の二人以上の世帯における消費支出は、1世帯当たり1か月平均314,001円だった。
前年比では名目4.6%増、実質0.9%増。2023年、2024年と実質減少が続いていたため、2025年は3年ぶりに実質増加へ戻った形になる。
ここだけ見ると、家計は少し回復したように見える。
ただし、中身はそこまで楽観できない。
総務省は、2025年も「食料」が実質減少となった一方、自動車等関係費の反動増、大阪・関西万博の影響などによる交通や教養娯楽サービスの増加が消費を押し上げたと説明している。
つまり、生活必需品の重さが消えたというより、他の支出項目の増加で全体が押し上げられた面がある。
家計の体感としては、「消費が増えたから余裕が出た」というより、「支出しないと生活や移動が回らない部分も増えた」と読む方が近い。
賃上げしても生活が楽になりにくい理由
より厳しいのは勤労者世帯のデータだ。
二人以上の世帯のうち勤労者世帯では、実収入が1世帯当たり月平均653,901円。前年比では名目2.8%増だった。
賃上げは確かに起きている。
しかし、物価変動を除くと実質0.9%減少している。さらに、可処分所得は532,408円で、名目1.9%増、実質1.7%減だった。
この差が、いまの家計の違和感そのものだ。
収入の名目額は増える
↓
でも物価も上がる
↓
税・社会保険料などを引いた可処分所得の実質感は弱い
↓
生活が楽になった実感が出にくい
この局面で「年収が上がれば解決」と考えるのは少し危うい。
もちろん賃上げは重要だ。だが、賃金上昇より物価や社会保険料負担の方が重く感じられる局面では、手元に残るお金をどう守るか、どう育てるかまで考えないと家計は強くならない。
新NISAが家計戦略の中心に入ってきた
2024年から新NISAが始まり、家計の資産形成はかなり変わった。
金融庁の説明では、2024年からのNISAは非課税保有期間が無期限となり、制度も恒久化された。年間投資枠はつみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円、合計で年間360万円。非課税保有限度額は最大1,800万円で、成長投資枠はそのうち1,200万円までとなっている。
これは家計にとってかなり大きい。
以前のNISAは、制度の期限や非課税期間を気にしながら使う面があった。新NISAでは、長期で保有しやすくなった分、家計の資産形成ルールに組み込みやすい。
ただし、新NISAは魔法の制度ではない。
NISAは利益を非課税にする箱であって、利益を保証する商品ではない。ここを間違えると、資産形成ではなく、単なる高値づかみの入口になる。
今回のテーマで大事なのは、NISAを使えば必ず勝てるという話ではない。
インフレ環境で、現金・生活防衛資金・長期投資をどう配分するかという家計戦略の話である。
投資する家計としない家計で何が変わるのか
投資する家計としない家計の違いは、単に「株を持っているかどうか」ではない。
本質は、家計の中に資産成長のエンジンがあるかどうかだ。
給与だけに依存する家計では、資産形成のスピードは主に次の3つで決まる。
- 収入
- 支出
- 貯蓄率
もちろん、これだけでも十分に大切だ。むしろ生活防衛資金がないまま投資する方が危ない。
ただ、現金だけで積み上げる場合、インフレには弱い。預金額は減らなくても、買えるものが減るからだ。
一方で、株式や投資信託などの金融資産を長期で持つ家計は、価格変動リスクを受ける代わりに、企業利益の成長、配当、分配金、複利効果を取り込める可能性がある。
ここから差が出る。
同じ年収でも、毎月の黒字を預金だけに置く家計と、一部を長期投資へ回す家計では、10年後、20年後の資産構成が変わってくる。
30年積み立てると差はどれくらい出るか
毎月5万円を30年間積み立てるケースで見る。
投資元本は、5万円×12か月×30年で1,800万円。ちょうど新NISAの非課税保有限度額と同じ水準だ。
預金だけの場合
利息をほぼ考えない場合、30年後の資産は約1,800万円となる。
これは悪いことではない。元本を確保しやすく、生活防衛資金や近い将来の支出には預金が向いている。
ただし、30年間で物価が上がれば、1,800万円の実質的な購買力は下がる。
年率3%、5%、7%で運用できた場合
毎月5万円を30年間積み立て、税金や手数料を考慮せず、年率3%、5%、7%で運用できたと仮定すると、概算は次のようになる。
| 年平均リターン | 投資元本 | 30年後の資産額 |
|---|---|---|
| 0% | 1,800万円 | 約1,800万円 |
| 3% | 1,800万円 | 約2,914万円 |
| 5% | 1,800万円 | 約4,161万円 |
| 7% | 1,800万円 | 約6,100万円 |
年率7%は、かなり強い株式市場を長く取り込めた場合の数字だ。毎年安定して7%増えるという意味ではない。
実際の相場では、暴落もある。円高・円安もある。積立中に大きな含み損を抱える時期もある。
それでも、長期で見た複利の差は大きい。
「30年後に必ず3倍になる」と読むのではなく、「現金だけと長期投資では、資産形成の構造が違う」と読むべきだ。
年収500万円世帯で比較するとどうなるか
ここまでの話を聞いても、「投資できるのは高収入の人だけではないか」と感じる人はいると思う。
実際、家計に余裕がなければ投資は続かない。ここを無視して、NISAだけを強くすすめる記事はかなり危ない。
そこで、年収500万円の会社員世帯を例に考える。
仮に手取り収入から生活費、住宅費、保険料、通信費などを差し引き、毎月3万円を資産形成に回せるとする。
毎月3万円を30年間積み立てた場合
税金や手数料を考慮せず、同じく年率3%、5%、7%で運用できたと仮定すると、概算は次のようになる。
| 年平均リターン | 積立元本 | 30年後の資産額 |
|---|---|---|
| 0% | 1,080万円 | 約1,080万円 |
| 3% | 1,080万円 | 約1,748万円 |
| 5% | 1,080万円 | 約2,497万円 |
| 7% | 1,080万円 | 約3,660万円 |
もちろん、将来の運用成果は保証されない。
ただ、この表で見たいのは「年率7%ならいくら増えるか」ではない。同じ収入でも、余剰資金を現金だけで置く家計と、一部を長期投資へ回す家計では、資産形成の軌道が変わるという点だ。
重要なのは、高収入かどうかだけではない。
家計の黒字をどう使うかである。
年収500万円でも、家計を壊さない範囲で積立を続けられれば、将来の資産形成にはかなり効いてくる。逆に高収入でも、黒字が残らず、投資も続かなければ資産は積み上がりにくい。
30代・40代・50代では資産形成戦略が違う
NISAは便利な制度だが、誰にとっても同じ使い方が正解ではない。
年齢によって、投資期間、家計イベント、取れるリスクが違うからだ。
30代の場合
30代の最大の武器は時間である。
老後まで30年以上ある人も多く、全世界株式、S&P500、低コストのインデックスファンドなどを中心に、長期積立を組みやすい。
途中で相場が大きく下がっても、回復を待つ時間がある。もちろん、子育て、住宅購入、転職などで家計が揺れやすい年代でもあるため、生活防衛資金は先に分けておきたい。
時間を味方にできるが、無理な積立額で家計を締めすぎると続かない。ここは地味だが大事だ。
40代の場合
40代は、教育費、住宅関連費用、老後資金が重なりやすい。
収入が伸びる一方で、支出も膨らみやすい年代である。
この年代では、投資だけに寄せるより、目的別にお金を分けた方が現実的だ。
| お金の目的 | 置き場所の考え方 |
|---|---|
| 数年以内の教育費 | 現金中心 |
| 住宅修繕・車・大型支出 | 現金または低リスク資産中心 |
| 老後資金 | NISAやiDeCoを含む長期運用 |
40代は「増やす」だけでなく、「使う時期を間違えない」ことが重要になる。
50代の場合
50代は、資産形成と資産防衛のバランスが変わる。
退職までの期間が短くなるため、30代と同じリスクの取り方をする必要はない。
特に注意したいのは、退職直前や退職直後に大きな下落を受けるケースだ。相場が戻るまで待てる資金なら問題は小さいが、すぐ生活費として使う予定のお金まで値動きの大きい資産に置くと苦しくなる。
50代から投資を始めるのが遅いわけではない。
ただし、目的は「一気に増やす」よりも、現金、債券、投資信託、年金、退職金をどう組み合わせるかに移っていく。
年齢によって、最適な戦略は変わる。
NISAを始める前に確保すべき生活防衛資金の目安
投資を始める前に最も重要なのは、生活防衛資金である。
生活防衛資金とは、病気、失業、収入減、家電の故障、引っ越し、家族の急な支出などが起きたときに、生活を維持するための現金だ。
一般的な目安
目安は家族構成と収入の安定度で変わる。
| 家計のタイプ | 生活防衛資金の目安 |
|---|---|
| 独身会社員 | 生活費の3〜6か月分 |
| 子育て世帯 | 生活費の6〜12か月分 |
| 自営業・フリーランス | 生活費の1年分程度 |
例えば毎月の生活費が25万円なら、6か月分で約150万円、12か月分で約300万円が目安になる。
なぜ生活防衛資金が必要なのか
投資でつまずく原因は、商品選びだけではない。
実際には、お金が必要になって売らされることがかなり大きい。
相場が下がっているときに生活費が不足すると、本来は長期保有する予定だった資産を売却せざるを得なくなる。
その結果、損失確定、積立の中断、資産形成計画の崩れにつながる。
NISAは余裕資金で行う。この原則はかなり強い。
新NISAの年間投資枠は大きいが、枠を使い切ることが目的ではない。生活防衛資金を確保し、近い将来に使うお金を分けたうえで、10年以上使う予定のないお金を少しずつ積み立てる。
資産形成は短距離走ではない。
無理なく続けられる金額で、市場に長く残ることの方がずっと大事だ。
本当のリスクは現金だけを持つことかもしれない
多くの人は、投資のリスクを値下がりとして考える。
これは正しい。株式も投資信託も普通に下がる。NISAで買っても損は出る。
ただ、2025年の家計調査を読むと、もう一つのリスクも見えてくる。
現金だけを持つリスクだ。
賃金が名目で増えても、実質収入や実質可処分所得が減る。これは、物価上昇が家計の購買力を削っているということでもある。
現金は短期の安全性が高い。だが、長期の購買力を守る力は弱い。
ここで必要なのは、現金か投資かの二択ではない。
生活費
生活防衛資金
近い将来に使うお金
長期で育てるお金
この4つを分けることだ。
近いうちに使うお金を株式市場に置く必要はない。むしろ置かない方がいい。
しかし、20年、30年使わない可能性が高いお金まで全て現金で置くなら、インフレに対してかなり無防備になる。
家計調査から見える「新しい格差」
2025年の家計調査は、NISA利用者と未利用者の将来資産を比較した資料ではない。
それでも、この統計から読み取れることはある。
家計は、名目収入が増えても実質では圧迫されている。可処分所得の実質減少も起きている。勤労者世帯の平均消費性向は65.0%で、前年から2.8ポイント上昇した。黒字率は35.0%だった。
つまり、家計に残る余力をどう使うかが、以前より重くなっている。
ここで差が出る。
残ったお金を何となく普通預金に置く家計。
生活防衛資金を確保したうえで、余裕資金をNISAやiDeCo、課税口座も含めて長期運用へ回す家計。
10年では差が見えにくいかもしれない。20年、30年になると、資産構成の差はかなり大きくなる。
これは年収格差とは別の格差だ。
同じ年収でも、資産を持つ家計と持たない家計で、インフレへの耐性、老後資金の余裕、教育費や住宅費への対応力が変わってくる。
資産格差は、ある日突然広がるのではない。
毎月の黒字をどう扱ったか。その積み重ねで、静かに広がる。
では、どう動くべきか
まずやるべきことは、いきなりNISA枠を埋めることではない。
順番がある。
- 毎月の固定費を把握する
- 生活防衛資金を分ける
- 近い将来に使うお金を現金で残す
- 10年以上使わないお金を少額から積み立てる
- 暴落時に売らない金額に抑える
図解:NISAを家計に入れる順番
文章だけだと、「現金を減らして投資すべき」という話に見えやすい。実際には逆で、先に現金を分け、最後に長期資金をNISAへ回す順番になる。
特に大事なのは、5つ目だ。
長期投資で失敗しやすいのは、商品選びだけではない。家計が苦しくなり、下落中に売らされることだ。
家計調査が示しているように、実質可処分所得が弱い環境では、無理な積立額は続かない。
NISAの非課税枠は大きいが、枠を使い切ることが目的ではない。
続けられる金額で、家計を壊さず、長く市場に残ること。この方が現実的だ。
まとめ:将来の資産格差は年収だけでは決まらない
2025年の家計調査から見えるのは、かなりはっきりしている。
名目収入は増えている。だが、実質収入や実質可処分所得は弱い。消費支出は増え、家計の余力は削られやすい。
この環境では、年収だけで将来の家計を語りにくい。
これから重要になるのは、収入から残ったお金をどう扱うかだ。
現金は必要。生活防衛資金も必要。投資にはリスクがある。
それでも、インフレが続く社会で現金だけに偏ると、購買力は静かに削られる。
新NISAは、そのリスクに向き合うための有力な制度になった。ただし、NISAは利益を保証しない。あくまで、長期で資産を育てるための非課税口座である。
将来の資産格差を決めるのは、年収だけではない。
家計を把握し、現金を残し、余裕資金を長期で育てる。その地味な選択が、10年後、20年後の家計に効いてくる。
出典
本記事は、2026年5月31日時点で確認できる公的情報を基に作成しています。