何が開示されたか
上場申請者は長江存儲控股(CCSH)です。主力子会社の長江存儲科技(YMTC)は3D NANDの設計・製造・販売を担い、2025年の売上高は親会社連結ベースの9割超に相当します。以下の財務数値は、特記しない限り長江存儲控股の連結数値です。
YMTCはメモリーチップからSSDなどのシステム製品までを手掛けます。親会社の申請資料には、連結業績、製品別売上、募集資金の使途が記載されています。
IPOの主な条件は次の通りです。
| 項目 | 開示内容 |
|---|---|
| 上場市場 | 上海証券取引所 科創板 |
| 新規発行株式数 | 19.8億〜24.3億株(グリーンシュー行使前) |
| 発行後株式数に占める割合 | 10〜12% |
| 募集資金の予定額 | 330億元(約7,920億円) |
| 量産ライン技術更新 | 208億元(約4,992億円) |
| 研究開発 | 122億元(約2,928億円) |
| グリーンシュー | 基本発行株数の最大15% |
公開価格、証券コード、上場日は2026年8月27日時点で未確定です。申請稿の提出は発行や上場の完了を意味しません。
1〜3月期利益334億元の正体
業績の振れ幅は大きく、NAND市況に左右される収益構造が表れています。
| 決算期 | 売上高 | 親会社株主に帰属する純利益 | 営業キャッシュフロー |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 187.4億元<br>(約4,498億円) | ▲191.8億元<br>(▲約4,603億円) | 9.9億元<br>(約238億円) |
| 2024年 | 452.0億元<br>(約1兆848億円) | 67.7億元<br>(約1,625億円) | 217.2億元<br>(約5,213億円) |
| 2025年 | 631.8億元<br>(約1兆5,163億円) | 142.1億元<br>(約3,410億円) | 326.8億元<br>(約7,843億円) |
| 2026年1〜3月期 | 470.4億元<br>(約1兆1,290億円) | 333.8億元<br>(約8,011億円) | 267.4億元<br>(約6,418億円) |
2026年1〜3月期の売上高は、3カ月だけで2025年通期の74.4%に達しました。親会社株主に帰属する純利益は同通期の2.35倍です。
販売価格の上昇が利益率を大きく押し上げました。申請稿によると、NAND製品の容量当たり平均単価は2025年通期平均から172.72%上昇。製品別では、ストレージチップが218.00%、スマート端末向けが127.75%、SSDが141.40%上昇しています。連結粗利率は2025年の35.30%から2026年1〜3月期に76.77%へ上がり、同四半期の親会社株主に帰属する純利益は売上高の約71.0%でした。
会社は、2025年10〜12月期から2026年1〜3月期に生じた需給ギャップでNAND価格が大幅に上昇したと説明しています。単価上昇に加え、単位当たりコストも下がりました。
主力事業売上の96%はNAND
2026年1〜3月期の主力事業売上高469.2億元(約1兆1,261億円)のうち、NAND製品は452.4億元(約1兆858億円)、構成比は96.42%でした。
| 製品 | 売上高 | 円概算 | 主力事業に占める割合 |
|---|---|---|---|
| ストレージチップ | 238.5億元 | 約5,724億円 | 50.84% |
| スマート端末向け | 166.7億元 | 約4,001億円 | 35.53% |
| SSD | 47.1億元 | 約1,130億円 | 10.05% |
| その他製品・サービス | 16.8億元 | 約403億円 | 3.58% |
主力事業のほとんどがNAND製品で、販売単価の変化が連結業績に響きやすい構成です。
販売先の登録地域では、中国本土外が63.28%です。ただし、申請稿は香港・マカオ・台湾や米ドル決済の取引が中心であることも示しています。この比率だけで顧客基盤が世界各地域へ均等に分散しているとは判断できません。
販売形態では代理店経由が70.17%、直販が29.83%です。代理店経由の比率が高いため、売上高の伸びが最終需要に沿っているかは流通在庫と合わせて見ます。ただし、代理店在庫は申請稿に継続的な指標として示されていません。
330億元の調達と将来の供給量
募集資金330億元(約7,920億円)のうち、208億元(約4,992億円)は量産ラインの技術更新、122億元(約2,928億円)は研究開発へ充てる計画です。生産技術と次世代製品への投資ですが、計画額だけで将来の出荷量は決まりません。
2026年3月末の総資産は2,615.9億元(約6兆2,782億円)、固定資産は1,316.8億元(約3兆1,603億円)、建設仮勘定は241.4億元(約5,794億円)でした。半導体製造装置への投資負担が重い事業であり、技術世代の更新が続く限り、大規模な資金需要は残ります。
研究開発費は2023〜2025年の3年間で合計141.9億元(約3,406億円)。2025年末の研究開発人員は4,704人で、全従業員の30.70%を占めます。2026年3月末時点の発明特許は5,611件。第6世代3D NANDに加え、PCIe Gen5対応の企業向け・消費者向けSSDなどを開発中です。
技術更新でウエハー当たりの記憶容量や歩留まりが高まれば、ビット供給は増え得ます。ただし、設備の稼働時期や実際の出荷量は募集資金額からは読めません。
財務は改善したが、循環リスクは消えていない
申請稿が示す連結の「資産負債率」は、総資産に占める負債の割合です。2023年末の61.30%から2026年3月末の43.65%へ低下しました。営業キャッシュフローも2024年以降はプラスです。
それでも、2026年3月末には34.0億元(約816億円)の累積損失が残ります。2023年のNAND不況では、在庫評価損などを113.5億元(約2,724億円)計上しました。2025年は6.9億元(約166億円)、2026年1〜3月期は2.5億元(約60億円)まで縮小しています。市況が反転すれば、評価損が再び利益を押し下げ得ます。
1〜3月期の営業キャッシュフロー267.4億元(約6,418億円)から、有形・無形固定資産などの取得支出78.7億元(約1,889億円)を差し引くと、簡易的なフリーキャッシュフローは188.7億元(約4,529億円)です。
キオクシアと日本株への影響を考える
日本株では、同じNAND市場で事業を営むキオクシアホールディングス(285A)が比較対象になります。
長江存儲控股の好業績は、同社が高い販売価格を得られたことを示します。キオクシアの販売単価や製品構成、契約条件まで同じとは限りません。
今後、YMTCの技術更新がビット供給の増加につながれば、競合の価格や利益率を圧迫する余地があります。申請稿は輸出規制による設備・材料調達の制約も挙げており、調達予定額と実際の供給増を同一視できません。
半導体製造装置や材料の日本企業についても、申請稿の投資計画だけでは個別企業の受注増を判断できません。
次に見る指標
| KPI | 確認する意味 |
|---|---|
| NAND製品の容量当たり平均販売単価 | 1〜3月期の価格上昇が続くかを見る |
| 出荷量・ビット供給量(開示される場合) | 価格効果を除いた販売・供給の変化を見る |
| 粗利率 | 販売価格、歩留まり、稼働率、製品構成をまとめて見る |
| 企業向けSSDの売上・出荷(開示される場合) | 製品構成の変化を測る |
| 在庫残高と評価損 | 市況反転の兆候を早期に捉える |
| 設備投資と建設仮勘定 | 将来の生産能力と固定費負担を確認する |
| 営業キャッシュフロー | 会計上の利益が投資原資に変わっているかを見る |
| 輸出規制と調達状況 | 装置・材料・ソフトウェア制約の実務的な影響を追う |
次の開示では、容量当たり単価・粗利率・出荷量がどう動くか。YMTCの技術更新がいつ出荷増につながるかも、長江存儲控股の利益と競合への供給圧力を分けて考える材料です。
関連ページ
出典
- 上海証券取引所|長江存儲控股の招股説明書(申請稿)(2026年8月21日)
- 上海証券取引所|長江存儲控股のIPO審査履歴
- 長江存儲科技|会社概要
- 日本銀行|基準外国為替相場及び裁定外国為替相場(2026年8月適用)(2026年7月17日)