ソフトが安くなっても、家計全体はどうか
AIを使ったサービスの価格が下がると、世の中全体も安くなるように感じる場合があります。しかし、家計はそのサービスだけにお金を使っているわけではありません。住居や食料など別の支出が増えれば、合計の負担は増えることもあります。
個々の商品の価格関係と、物価全体の変化は区別します。AIによる効率化が特定の仕事で確認できても、そのまま経済全体がデフレになるという結論にはなりません。
架空の固定バスケットで考える
支出の10%をソフトウェア、残り90%をその他の商品・サービスとする独自の仮例を置きます。購入数量と構成比を固定し、ソフトウェアの価格が20%下がり、その他が3%上がる設定です。
合計の価格は、元を1とすると「0.10×0.80+0.90×1.03=1.007」です。ソフトウェアが大きく値下がりしても、全体では0.7%上がります。
これは消費者物価指数の実際のウエイトや予測ではなく、加重平均の仕組みを説明する計算です。実際の統計には品目の定義や品質の調整なども関わります。また、個人の支出構成が違えば、体感する負担も変わります。
時間短縮を、そのまま人件費削減としない
仕事の一部が速くなっても、担当者の給与が直ちに減るわけではありません。空いた時間で別の仕事をする場合も、人による確認ややり直しが増える場合もあります。利用料、教育、導入の負担まで含めると、作業単位の改善率と会社全体の費用削減率は違う数字になります。
さらに、企業が費用削減分を利益として残せば、その分だけ販売価格が下がるわけでもありません。効率化の数字から物価への影響を読むには、普及する範囲と価格へ反映される経路が必要です。
一方向の因果にしない
AIへの投資は、関連する設備や人材への需要を増やす場合があります。一方、普及後の供給力の増加は価格上昇を抑える可能性があります。どちらが先に、どの程度広がるかを省いた「AIだからインフレ」「AIだからデフレ」という説明は粗くなります。
研究を使う場合も、モデルの条件と実際の観測を分けます。BIS掲載の2024年の論文はモデル分析で、AIと物価の関係がすべての国や時期に同じだと示したものではありません。
投資の記事を読む際は、どの商品の価格なのか、費用なのか売値なのか、実績なのか仮定なのかをたどると、結論までの飛躍を見つけやすくなります。
出典
- 参議院「我が国における物価の現状と物価の変動要因の整理」(2013年、一般物価と相対価格)
- Aldasoroほか「The impact of artificial intelligence on output and inflation」BIS Working Paper 1179(2024年、モデル分析)
参考資料の確認日:2026年10月23日。