将来の効率化を待つ間も、支払いは続く
AI設備を導入しても、最初から十分な稼働率や削減効果が出るとは限りません。利用者を増やす間も、機器代金や運用費用が必要になります。長期で技術が普及するという見通しだけでは、導入する企業が途中の支払いに耐えられるかは分かりません。
経済全体でも、設備投資が需要を増やす時期と、生産性の向上で供給が増える時期にはずれが生じ得ます。AIが将来物価上昇を抑える可能性と、足元の投資が関連資源の価格を押し上げる可能性は両立します。
利益と現金を分ける設備の仮例
独自の仮例として、導入時に設備代金1億円を現金で払い、5年間、残存価値ゼロの定額で費用配分すると置きます。これは計算の仮定で、税法上の耐用年数や実際の会計処理を指定していません。借入れ、税、追加投資は除きます。
年間の作業費用削減を3,000万円、運用費用を1,200万円とすると、年ごとの現金の改善は1,800万円です。ここから年間2,000万円の減価償却費を引くと、会計上の増分利益はマイナス200万円になります。
導入時の1億円の支払いと、年ごとの減価償却費は同じ設備を違う時間軸で見る数字です。毎年の現金支出に償却費まで足すと二重計上になります。また、この設定では5年間の現金改善だけで当初の支払いを回収できません。実際の投資評価には、効果の継続期間や設備の更新まで含める必要があります。
物価を考えるモデルと、個社の予想は違う
BISが公表した2024年の研究論文は、複数部門を含むモデルでAIの影響を分析しています。その結果でも、供給力と需要の変化がいつ起きるかや、将来の生産性を家計・企業がどう予想するかによって物価の反応が変わります。
これは著者らのモデルによる分析で、日本企業の利益成長率や日本のインフレ率を実績で証明したものではありません。長期の技術普及を、すべてのAI関連銘柄が上がる根拠へ置き換えることはできません。
回収の前提が変わった場所を読む
企業の計画で利用単価や稼働率が示されるなら、実績との差を追えます。競争による値下げや機器の陳腐化が早ければ、当初の回収期間は延びる場合があります。反対に、既存業務で安定した削減効果が出る利用もあります。
長く持つ理由を「AIは成長する」で止めず、誰が代金を払い、どの費用が減り、その差がいつ残るかまで言葉にできると、計画を見直す条件も明確になります。
出典
- Aldasoroほか「The impact of artificial intelligence on output and inflation」BIS Working Paper 1179(2024年、モデル分析)
- イングランド銀行「How will AI affect the economy?」
参考資料の確認日:2026年10月23日。