30年ルールは何を制限するのか
家族信託では、父の死亡後は母、母の死亡後は子というように、受益者を順番に指定することがあります。これは「受益者連続型信託」と呼ばれる仕組みです。
信託法91条は、この死亡による連続承継の効力を無期限には認めていません。信託開始から30年を経過した後に、指定により新たに受益権を取得した受益者については、その人が死亡するか、受益権が消滅するまで効力が続きます。その先の人には、同じ連続承継の指定による効力は続きません。
したがって、30年は信託そのものの一律の満期ではなく、連続承継に線を引く基準です。信託が実際にいつ終わるかは、受益者の交代時期と契約に定めた終了事由によって変わります。
年表で見る具体例
2026年に父を最初の受益者として信託を始めた例を考えます。
| 時期 | 受益者 | 30年ルール上の扱い |
|---|---|---|
| 2026年 | 父 | 信託開始。ここから30年を数える |
| 2046年 | 母 | 30年経過前に受益権を取得 |
| 2056年 | 母 | 30年経過後も、そのまま受益者 |
| 2061年 | 子 | 30年経過後に新たに受益権を取得 |
| 子の死亡時 | 孫 | 孫への連続承継の指定は効力が続かない |
この例では、2061年に受益権を得た子が、この連続承継の指定による最後の受益者になります。子の受益権は取得直後に消えるのではなく、子が死亡するか、契約上の事由で受益権が消滅するまで続きます。結果として、信託が30年を大きく超えて続くこともあります。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 |
|---|---|
| 契約から30年で信託財産が自動的に戻る | 30年だけを理由に一律終了する規定ではない |
| 最初の受益者が死亡してから30年を数える | 起算点は信託がされた時 |
| すべての家族信託に同じ問題が生じる | 死亡による受益権の連続承継を定める場合のルール |
| 子、孫、ひ孫へ永久に承継できる | 30年経過後の承継には限界がある |
| 30年ルールを使えば相続税を避けられる | 民事上の効力と税務上の課税は別問題 |
税金は承継のたびに別途確認する
受益者連続型信託に関する権利を対価なしで取得すると、税務上は前の受益者から贈与または遺贈で取得したものとみなされ、贈与税や相続税の対象になる場合があります。30年ルールは、非課税期間を設ける制度ではありません。
受益権を収益受益権と元本受益権に分ける設計、受益者を変更する時期、不動産の評価や債務の扱いによっても課税関係が変わります。家族関係図だけで決めず、契約案を作る段階で法律と税務の両方を確認する必要があります。
契約前に確認したいこと
- 30年の起算日を契約書から特定できるか
- 30年経過時点で誰が受益者になっている想定か
- その後、誰が最初に受益権を取得する可能性があるか
- 連続承継の指定が効かなくなった後、信託をどう終了するか
- 残った財産を誰に帰属させるか
- 各承継時の相続税・贈与税を検討したか
実際の日付は死亡時期によって動きます。契約書に名前を順番に並べるだけでは足りません。受託者が交代できない場合や、最後の受益者が予定より先に死亡した場合も含めて設計しておくことが大切です。
まとめ
家族信託の30年ルールは、「30年で自動終了」ではなく、受益者を死亡順に承継させる指定の効力を制限する仕組みです。30年は信託開始から数え、30年経過後に新たに受益権を取得した受益者は、その受益権が消滅するまで受益者でいられます。
契約の終了時期、残余財産の帰属、税金は別々に確認しなければなりません。長期間にわたる契約ほど、家族構成や税制が変わる前提で、見直し方法まで用意しておく必要があります。
出典
- e-Gov法令検索「信託法」(第91条、2026年7月31日確認)
- 法務省「信託制度のパンフレットの公表について」(2026年7月31日確認)
- 国税庁「第9条の2(贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利)関係」(2026年7月31日確認)
- 国税庁「第9条の3《受益者連続型信託の特例》関係」(2026年7月31日確認)