家族信託の仕組み
この記事でいう家族信託は、信託法に基づく民事信託のうち、家族が受託者になる形を指します。登場人物は三者です。
- 委託者:財産を託す人
- 受託者:契約に従って財産を管理・処分する人
- 受益者:信託財産から生じる利益を受ける人
たとえば、父を委託者兼受益者、長男を受託者とし、自宅や賃貸不動産を信託する形があります。父は家賃などの利益を受け続け、長男は契約で認められた範囲で修繕や売却を行います。
ポイントは、父の判断能力が低下した後も、受託者が信託契約に沿って対象財産を管理できることです。もっとも、信託していない預貯金や財産まで自由に扱えるわけではありません。
成年後見・遺言との違い
| 制度 | 主な役割 | 効力を使う時期 | 苦手なこと |
|---|---|---|---|
| 家族信託 | 特定財産の管理・承継 | 契約後から設計可能 | 身上保護、契約外の財産管理 |
| 成年後見 | 判断能力が不十分な本人の保護・法律行為の支援 | 判断能力低下後 | 本人財産を家族の都合で動かすこと |
| 遺言 | 死亡後の財産の分け方を示す | 死亡後 | 生前の財産管理 |
家族信託は財産管理の仕組みです。介護方針の決定や医療同意などを、受託者に一括して任せる制度ではありません。本人の生活や契約の支援まで必要なら、任意後見などとの組み合わせを検討します。
なお、成年後見制度を見直す改正法は2026年6月24日に公布されましたが、成年後見部分は2026年7月31日時点で未施行です。制度を実際に利用する時点の法務省情報を確認してください。
家族信託でつまずきやすい点
節税制度ではない
家族信託を作るだけで相続税が減るわけではありません。受益権を無償で他人へ移す設計や、受益者が死亡して次の人に権利が移る場面では、贈与税や相続税の対象になり得ます。
受託者に負担が集中する
受託者には、契約に従った管理、帳簿や書類の整理、受益者への報告などが求められます。家族だから曖昧でよい、とはなりません。受託者を監督する人や後継の受託者も考えておくと、長期の管理が安定しやすくなります。
すべての財産を信託できるとは限らない
不動産では所有権移転と信託の登記が必要になります。預貯金や有価証券は金融機関ごとに取扱条件が異なるため、契約を作る前に受入可否を確認します。遺留分や他の相続人との関係も、信託だけでは消えません。
検討前に家族で決めること
- 管理に困りそうな財産は何か
- 誰が受託者を担い、代わりの人をどうするか
- 生活費や家賃収入を誰のために使うか
- 委託者の死亡後、財産を誰に渡すか
- 遺言、任意後見、税務申告とどう組み合わせるか
契約内容は家族関係、財産の種類、相続人、税務によって変わります。ひな型をそのまま使うより、弁護士・司法書士・税理士など、それぞれの範囲を扱える専門家に確認するほうが安全です。
まとめ
家族信託は、判断能力があるうちに、特定の財産を誰がどの目的で管理するか決める方法です。認知症による財産管理の停滞に備えやすい一方、身上保護、節税、相続人間の調整を一つの契約で解決するものではありません。
まず財産と目的を絞り、成年後見と遺言で補う部分を分ける。そこまで整理してから契約内容と税務を確認するのが、現実的な進め方です。
出典
- e-Gov法令検索「信託法」(2026年7月31日確認)
- 法務省「成年後見制度について」(2026年7月31日確認)
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」(2026年7月31日確認)
- 国税庁「第9条の2 贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利」(2026年7月31日確認)