上場概要

まずIPOの条件を整理する。

項目内容
会社名チャットプラス株式会社
証券コード598A
市場区分東証グロース
上場承認日2026年6月11日
上場予定日2026年7月15日
主幹事丸三証券
想定価格1,050円
上場時発行済株式数4,650,000株
想定時価総額約48.8億円
公募株数650,000株
売出株数500,000株
OA売出172,500株
想定吸収金額約13.9億円
オファリングレシオ約28.4%

想定時価総額は、1,050円に上場時発行済株式数4,650,000株を掛けた約48.8億円である。

想定吸収金額は、公募650,000株、売出500,000株、OA172,500株の合計1,322,500株に1,050円を掛けた約13.9億円となる。

グロースIPOとしては重くない。しかも黒字SaaS、AIチャットボット、生成AIエージェントというテーマは個人投資家にも伝わりやすい。

ただし、公開株式数のうち売出しも一定程度ある。公募650,000株に対し、売出し500,000株、OA172,500株である。完全な成長資金調達型というより、既存株主の一部換金も含む案件として見る必要がある。

IPOスケジュール

ブックビルディングから上場までの日程は次の通りである。

日程内容
2026年6月25日仮条件決定
2026年6月29日〜7月3日ブックビルディング期間
2026年7月6日公開価格決定
2026年7月7日〜7月10日申込期間
2026年7月14日払込期日
2026年7月15日上場日・受渡期日

幹事団は、丸三証券、SMBC日興証券、岡三証券、東海東京証券、SBI証券、マネックス証券、松井証券、楽天証券、岩井コスモ証券、極東証券、東洋証券である。

ブックビルディングで見るべきは、仮条件の上限がどこに置かれるか、公開価格が上限で決まるか、そして同時期のIPO地合いである。

この案件は需給だけなら悪くない。公募割れリスクは低めに見える。ただし、上場日に初値が大きく跳ねるかどうかは、仮条件、公開価格、直近IPOの初値結果、グロース市場の地合いに左右される。

事業モデル:低価格チャットボットからAIエージェントへ

チャットプラスの主力は、問い合わせ対応を自動化、省人化するSaaSである。

主なプロダクトは3つある。

サービス内容価格帯の目安
ChatPlus有人チャット、シナリオ型チャットボット、自社開発AIを活用したフリーワード型チャットボット公式サイトでは月額1,500円(税別)から、Iの部では月契約の場合1,980円から88,000円
AI AgentPlusChatPlusにChatGPT等の生成AIを連携したAIエージェント型サービス月額170,000円から
FAQPlusFAQ記事の作成・管理・検索性向上を支援するヘルプサイト運用サービスAI AgentPlusとのクロスセル中心

ここで重要なのは、単なる「低価格チャットボット会社」ではなくなりつつある点だ。

もともとのChatPlusは、導入しやすく、価格も低く、機能が多い。Webサイトの問い合わせ対応、社内問い合わせ、ECサイトの接客、有人チャットの補完など、幅広い用途に入れる。

一方で、生成AI時代の成長ドライバーはAI AgentPlusである。

従来型のシナリオチャットボットは、あらかじめ用意した分岐や回答に強いが、想定外の質問には弱い。AI AgentPlusは、顧客企業が登録したデータやナレッジをもとに、生成AIを使って自然な対話で回答する。さらにFAQPlusと連携すれば、FAQ記事をAI AgentPlusが学習し、訪問者が検索しなくても対話で解決できる。

つまり、チャットプラスの投資ストーリーはこうなる。

低価格・多機能のChatPlusで広く導入
↓
AI AgentPlusで高単価化
↓
FAQPlusをクロスセル
↓
ARRとARPUを引き上げる

この構造が本当に回るなら、2027年にかけて市場の見方は変わる。

ただし、ここは期待だけで買う場所ではない。ChatPlusのアカウント数は2025年6月の2,182件から2026年3月には2,037件へ減っている。一方で、AI AgentPlusは136件から197件、FAQPlusは10件から15件へ増えている。下位プランが減る一方で、上位・AI・FAQが伸びるなら、アカウント数の減少だけを弱材料とは言い切れない。

投資家が見るべきは、アカウント数の総量ではなく、ARRと単価構成である。

ARR:社数より単価構成を見る局面

チャットプラスは導入実績24,000社超を掲げているが、投資分析では「導入実績」と「課金アカウント数」は分けて見たい。

Iの部に記載されたARRとサービス別アカウント数は次の通りである。

時点ARR
2021年12月4.23億円
2022年12月5.30億円
2023年6月5.80億円
2024年6月7.88億円
2025年6月10.77億円
2025年12月11.71億円
2026年3月11.98億円

ARRは着実に積み上がっている。2025年6月時点では前期比36.7%増だった。

サービス別アカウント数は次の通りである。

時点ChatPlusAI AgentPlusFAQPlus合計
2024年6月2,2047042,278
2025年6月2,182136102,328
2025年12月2,128175122,315
2026年3月2,037197152,249

表面上、合計アカウント数は2025年6月をピークに減っている。

しかし、会社側は「ChatPlus」の下位プラン減少がある一方、「ChatPlus」上位プラン、「AI AgentPlus」「FAQPlus」の増加によりARRは毎期増加傾向と説明している。

これはかなり大事だ。

SaaS企業の評価は、ユーザー数だけでは決まらない。低単価ユーザーが減り、高単価ユーザーが増え、ARRが伸びるなら、むしろ事業の質は上がっている可能性がある。

逆に、AI AgentPlusの伸びが鈍り、ChatPlus下位プランの減少だけが続けば、成長鈍化として見られる。

チャットプラスは、上場後にこのKPIをどこまで継続開示するかで評価が変わる。特に見たいのは、ARR成長率、ARPU、解約率、AI AgentPlusの契約数、FAQPlusのクロスセル率である。

業績:小さいが高収益

直近の業績はかなり強い。

決算期売上高経常利益当期純利益自己資本利益率
2024年6月期7.49億円1.62億円1.05億円79.9%
2025年6月期10.22億円3.69億円2.46億円81.6%
2026年6月期3Q累計9.12億円4.37億円2.87億円-

2025年6月期の経常利益率は36.1%。売上規模10億円前後の会社としては、かなり高い。

2026年6月期第3四半期累計では、売上高9.12億円、経常利益4.37億円、四半期純利益2.87億円まで進んでいる。すでに経常利益と純利益は前期通期を上回っている。

ここだけを見ると、かなり魅力的に見える。

ただし、この会社の高ROEを美談化しすぎてはいけない。

2025年6月期の自己資本利益率81.6%は、人的資本投資の成果だけを示す数字ではない。SaaSで有形固定資産を大きく持たず、2025年6月期末の純資産が4.19億円と小さいことも、ROEを押し上げている。

つまり、ROE80%超の本質は「人的資本投資が完璧に成功した」というより、「極めて軽い資本構造で、高い利益を出している」ということだ。

これは弱点ではない。むしろ強みである。

ただ、投資家としてはROEの高さだけで中長期の成長性を語るべきではない。上場後に採用、開発、広告宣伝を増やすなら、利益率は一時的に下がる可能性がある。高収益を維持しながらAI AgentPlusを伸ばせるかが本当の勝負になる。

バリュエーション:想定価格1,050円は高いのか

想定価格1,050円ベースのバリュエーションを確認する。

指標内容
想定時価総額約48.8億円
2025年6月期売上高10.22億円
2025年6月期当期純利益2.46億円
実績PSR約4.8倍
実績PER約19.8倍
2026年6月期3Q累計純利益年換算ベースの参考PER約12.8倍

実績PER約19.8倍は、黒字AI SaaS IPOとしては極端に高く見えない。

さらに、2026年6月期第3四半期累計の純利益2.87億円を単純年換算すると約3.83億円となる。これを想定時価総額48.8億円で割ると、参考PERは約12.8倍まで下がる。

もちろん、四半期累計の単純年換算は雑な計算である。4Qに広告宣伝費、採用費、上場関連費用、開発投資が増える可能性もある。だからこの12.8倍をそのまま適正PERとして扱うべきではない。

それでも、少なくとも想定価格1,050円に対して「AI SaaSだから過剰に割高」とは言いにくい。

PBRは前提でかなり変わる。2025年6月期末の純資産4.19億円だけで見ると約11.7倍だが、公募増資による純資産増加をざっくり考慮すると4倍台まで下がる。PBRは計算前提に左右されるため、この記事ではPER、PSR、ARR倍率を重視したい。

2026年3月末ARR11.98億円に対する想定時価総額の倍率は約4.1倍である。高成長SaaSとして見れば、ここも過熱感は強くない。

問題は、上場後にAI AgentPlusの成長が続くかである。

初値シナリオ:公募割れリスクは低め、上値は地合い次第

チャットプラスの初値は、需給とテーマの両方から見て堅いスタートになりやすい。

強材料は次の通りである。

  • 吸収金額が約13.9億円で、グロースIPOとして軽い
  • 黒字で、2026年6月期第3四半期までの利益進捗が強い
  • AI、生成AI、SaaS、問い合わせ自動化というテーマが分かりやすい
  • 想定PERが実績で約19.8倍と、過度な割高感が出にくい
  • 1単元10.5万円で個人投資家が参加しやすい

弱材料は次の通りである。

  • 売上規模はまだ10億円前後と小さい
  • 従業員22名の小規模組織で、上場後の採用・開発体制拡張が課題
  • 売出し500,000株とOA172,500株があり、需給が完全に軽いわけではない
  • 生成AI領域は大手参入による競争激化が速い
  • AI関連テーマは初値が過熱しやすく、セカンダリーで反動が出やすい

初値のイメージは、仮条件が強く、公開価格が上限で決まり、直近IPO地合いが崩れていなければ、公開価格比でプラス圏の可能性が高い。

ただし、初値が大きく跳ねた場合は話が変わる。想定価格から50%以上上がると、短期の需給妙味より、2027年の成長をかなり先取りする価格になってくる。

初値買いを考えるなら、初値後2-5営業日の出来高、下値の切り上がり、AI SaaSテーマへの資金継続を見たい。

2027年シナリオ

チャットプラスの中期評価は、生成AIシフトをどう収益化するかで分かれる。

ここでは3つのシナリオで整理する。

強気シナリオ:AI AgentPlusが主力化する

強気シナリオでは、ChatPlusの広い顧客基盤を入口に、高単価のAI AgentPlusとFAQPlusのクロスセルが進む。

条件見方
AI AgentPlusの契約数が加速2026年3月197件から、2027年に大きく伸びる
ARR成長率が30%前後を維持単価上昇とクロスセルが効く
FAQPlus連携が進むナレッジ管理とAI応答を一体化
人材採用が計画通り進む開発、営業、カスタマーサクセスを拡張
利益率を大きく崩さない成長投資をしながら高収益を維持

この場合、チャットプラスは単なるチャットボット企業ではなく、顧客接点AIエージェントの小型高収益SaaSとして評価される。

時価総額100億円を目指すには、公開価格ベースから約2倍が必要になる。東証グロースの中期基準を意識しても、上場後に100億円企業へ育つ道筋を示せるかは重要である。

強気シナリオでは、2027年6月期に売上高15億円以上、経常利益5億円台後半から6億円台が見えてくるかが一つの目安になる。

中立シナリオ:高収益キャッシュマシンとして安定

中立シナリオでは、AI機能の差別化は一定程度あるが、爆発的な成長にはならない。

それでも、既存顧客の継続、上位プラン移行、FAQPlusの一部クロスセルにより、ARRは年率15-20%程度で伸びる。

条件見方
ARRは安定成長高成長ではないが積み上がる
ChatPlus下位プラン減少を上位プランが吸収アカウント数より単価構成が改善
利益率は高水準を維持小規模組織の効率性が残る
競争激化はあるが解約率は低い既存運用のスイッチングコストが効く

この場合、株価はテーマ株として急騰するより、決算ごとに評価される地味なSaaS株になる。

IPO後に過熱した株価で買うより、上場後の最初の決算とKPI開示を確認してからのほうが判断しやすい。

弱気シナリオ:生成AIが差別化を壊す

弱気シナリオでは、生成AIの進化が追い風ではなく、価格競争の圧力になる。

条件見方
大手CRMやクラウド企業がAI問い合わせ機能を標準搭載独立系チャットボットの差別化が弱まる
LLM API価格の低下で参入障壁が下がる低価格競争に巻き込まれる
AI AgentPlusの伸びが鈍る高単価化のストーリーが崩れる
採用・開発投資で利益率が低下高収益IPOの魅力が薄れる
ChatPlusの下位プラン減少が続くアカウント数減少がARR鈍化につながる

この場合、公開価格ベースのPERは安く見えても、成長鈍化を織り込みにいく。

SaaS株は、成長率が落ちるとPERもPSRもすぐに縮む。チャットプラスの最大リスクは、赤字ではなく、「高収益だが成長余地が小さい会社」と見られることだと思う。

投資家が見るべきKPI

上場後に見るべきKPIはかなりはっきりしている。

KPI見方
ARR2026年3月末11.98億円からどれだけ伸びるか
AI AgentPlusアカウント数高単価化の主役
FAQPlusアカウント数クロスセルの進捗
ChatPlus上位プラン比率低価格モデルからの単価改善
解約率SaaSとしての粘着性
ARPU導入実績を売上へ変換できているか
従業員数22名体制から成長投資へ移れるか
営業利益率成長投資後も高収益を維持できるか

特に、AI AgentPlusの契約数は重要である。

2026年3月時点で197件。月額170,000円からの高単価サービスなので、ここが伸びるとARRに与える影響は大きい。

一方で、AI AgentPlusを伸ばすには、顧客ごとのデータ整備、FAQ構築、運用支援、カスタマーサクセスが必要になる。完全にセルフサーブで勝手に伸びるSaaSではない可能性がある。

だから、人員拡大と利益率のバランスを見る必要がある。

調達資金の使途

公募増資による調達資金は、次の用途に充当する予定とされている。

  • 機能強化
  • 機能追加開発
  • 新技術の研究開発
  • 人材投資
  • 販売促進活動

方向性は正しい。

チャットプラスに必要なのは、単に広告を増やして導入社数を伸ばすことではない。AI AgentPlusとFAQPlusを、顧客企業の業務フローへ深く入り込むプロダクトへ育てることである。

そのためには、生成AIの回答精度、ハルシネーション抑制、外部システム連携、FAQ自動生成、運用負荷の低減、カスタマーサクセスの強化が必要になる。

ただし、資金使途にはリスクもある。研究開発や広告宣伝、人材採用へ投資しても、想定した売上につながらない可能性がある。目論見書でも、調達資金の投資効果が期待通り得られない可能性はリスクとして示されている。

ここは上場後の決算で確認したい。

投資戦略:初値より「AI化の単価上昇」を見る

チャットプラスは、短期IPOとしては見栄えが良い。

黒字、AI、SaaS、小型、利益率の高さ。想定価格ベースのPERも高すぎない。吸収金額も軽い。

そのため、ブックビルディング人気は出やすいと思う。

ただし、セカンダリーで買う場合は、初値の上振れ幅に注意したい。初値が公開価格比で大きく上がるほど、短期的な期待は織り込まれる。

中期で見るなら、論点はかなりシンプルである。

チャットプラスは、低価格チャットボットの会社から、AIエージェントSaaSの会社へ進化できるか。

ここに尽きる。

「導入実績24,000社超」は入り口としては強い。しかし、株価を決めるのは、導入実績そのものではなく、ARR、ARPU、解約率、AI AgentPlusの伸びである。

2027年に向けて強い株になる条件は、次の3つだ。

  1. AI AgentPlusとFAQPlusが伸び、ARR成長率が維持されること
  2. 採用・開発・販売促進を増やしても利益率が大きく崩れないこと
  3. 大手生成AI・CRM企業との競争の中で、顧客企業の運用現場に残る理由を示せること

この3つが確認できるなら、時価総額50億円弱からのアップサイドはある。

逆に、ChatPlusの下位プラン減少、AI AgentPlusの伸び鈍化、利益率低下が同時に出るなら、上場時の好印象は急速に剥がれる。

IPOでは「良い会社」と「良い株価」は別物である。

チャットプラスは良い会社に見える。問題は、初値後の株価がどこまで未来を織り込むかだ。

まとめ

チャットプラス(598A)は、2026年7月15日に東証グロース市場へ上場予定のAIチャットボットSaaS企業である。

想定価格1,050円ベースの時価総額は約48.8億円、OA込みの吸収金額は約13.9億円。2025年6月期純利益を基準にした実績PERは約19.8倍で、黒字AI SaaS IPOとしては見やすい水準にある。

最大の魅力は、軽い資本構造と高い利益率である。2025年6月期の経常利益率は36.1%、ROEは81.6%。ただし、このROEはアセットライトで自己資本の分母が小さいことも反映しているため、過度にストーリー化しないほうがよい。

上場後の本丸は、AI AgentPlusとFAQPlusによる単価上昇である。2026年3月末ARRは11.98億円、AI AgentPlusは197アカウント、FAQPlusは15アカウント。ここが2027年にかけて伸びるなら、チャットプラスは単なる低価格チャットボット企業から、生成AI時代の顧客接点AI企業へ評価が変わる。

短期では初値が堅くなりやすい案件に見える。

中期では、初値より最初の決算とKPI開示が大事だ。ARR、ARPU、AI AgentPlus、FAQPlus、解約率、採用進捗。このあたりを確認してから、2027年シナリオの確度を見極めたい。

参考情報

本記事は、公開情報に基づいた教育的・情報提供のみを目的としており、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容や将来の投資成果を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけますようお願い申し上げます。