ETF分配金売りは「待てば買える」イベントとは限らない
7月相場でまず意識されるのは、国内株ETFの分配金売りである。
ETFは決算日に分配金を支払うため、運用会社が原資を確保する。その過程で現物株や先物の売りが出る。これは企業の業績悪化ではなく、需給の問題だ。
ここまでは教科書どおり。
問題は、このイベントがあまりにも知られすぎていることだ。毎年のように「7月上旬はETF売りに注意」と言われるため、短期投資家も機関投資家も先回りする。売りが本格化する前に指数が重くなることもあれば、逆に実際の売りが出る頃には買い戻しが入ることもある。
この需給イベントは、売りそのものよりも、市場がどう構えているかの方が難しい。
もし日経平均やTOPIXが高値圏で、信用買いも積み上がっているなら、ETF売りは利益確定の口実になる。逆に、すでに警戒で下げていた銘柄なら、売りが出た瞬間に悪材料出尽くしのような動きになることもある。
だから、7月上旬にやることは「指数が何%下がったら買う」という作業ではない。むしろ、下げた時に投げられている銘柄と、業績不安で売られている銘柄を分ける作業になる。
この差は大きい。
需給で売られた好業績株は戻る余地がある。業績の不安が出ている銘柄は、安くなってもなかなか戻らない。
内需・ディフェンシブは、通信と医薬に少し寄せたい
7月に内需・ディフェンシブを見るという考え方自体は、かなり普通だ。
外需ハイテクの値動きが荒くなり、夏枯れで売買代金も細る。そういう時に、情報通信、医薬品、生活必需系、通信サービスへ資金が逃げるのは自然な流れである。
ただ、内需なら何でもいいわけではない。
個人的には、7月は通信と医薬を少し厚めに見たい。通信は派手さこそないが、業績のブレが小さく、相場が荒れた時に大型資金が置きやすい。医薬品も同じで、為替や景気敏感の議論から少し距離を取れる。
一方で、生活必需品や小売の一部は、すでにディフェンシブとして買われている銘柄も多い。安心感があるから買われるのだが、その安心感が株価に乗りすぎると、決算で少し利益率が鈍っただけで売られる。
このあたりが面倒だ。
ディフェンシブ株は「下がりにくいから買う」銘柄ではなく、「下がりにくいと市場が思っている分、失望に弱い」銘柄でもある。7月に狙うなら、売上の安定よりも、利益率が保てているか。ここで評価が決まる。
猛暑関連は分かりやすい。でも長く引っ張りすぎない
猛暑関連は、記事にも動画にも向いているテーマだ。
飲料、ドラッグストア、空調、日焼け止め、制汗剤、冷感商品、屋内レジャー。気温が上がれば需要が出る。月次売上にも出やすい。読者にも伝わりやすい。
ただ、投資テーマとしては短い。
猛暑関連は、材料が分かりやすいぶん、株価も先に動きやすい。7月に入ってから「暑いから買う」では遅いことがある。特に小売は、売上が伸びても利益が残らないと市場は評価しない。客数が増えても値引きが増える。物流費が上がる。人件費も重い。夏物在庫が読み違うと、あとで処分売りが出る。
ここは正直、主力テーマとして長く持つより、月次で強さが見えた銘柄を短めに見るくらいが現実的だと思う。
猛暑は材料として強い。ただし、決算で効くのは気温ではなく粗利率だ。
7月に意外と見たいのは建設・設備工事
4業種の中で、個人的に一番じっくり見たいのは建設・インフラ関連だ。
ゼネコン、設備工事、プラント、電力インフラ、防災、老朽化対策。どれも派手ではない。SNSで盛り上がるタイプでもない。だが、7月のように指数の上値が重くなりやすい局面では、こういう銘柄の方が資金の居場所になりやすい。
特に設備工事は面白い。
データセンター、半導体工場、電力設備、都市再開発、空調、配電。AIや半導体という派手なテーマの裏側で、実際に工事を請ける会社がある。市場は半導体製造装置やAI関連に目が行きがちだが、設備投資の波は周辺にも広がる。
海運や素材のように外部市況で大きく振れる銘柄より、7月は設備工事の方が読みやすい場面がある。受注残が見える。価格転嫁の進捗も決算に出る。赤字工事が減っている会社なら、利益率の改善がそのまま評価されやすい。
もちろん、建設株にも落とし穴はある。
売上は立っているのに利益が残らない会社は珍しくない。資材価格、人件費、工期遅延、採算の悪い過去案件。見た目の受注残だけで飛びつくと、決算で粗利率の悪さに気づくことになる。
それでも、7月の相場では「受注が読めて、利益率の改善が見える」銘柄は強い。派手なテーマ株が決算で失速する局面ほど、こういう地味な銘柄が残る。
ここは、少し丁寧に掘りたい分野だ。
機械・電気機器は、Q1進捗率より「上方修正の匂い」
機械・電気機器は、7月後半から一気に面白くなる。
半導体製造装置、FA、自動化、検査装置、電子部品。AIやデータセンター投資の流れが続いている限り、この分野に資金は戻りやすい。
ただ、ここは市場の期待値が高い。
良い決算を出しても、株価が上がらないことがある。なぜか。市場がもう良い数字を待っているからだ。特に半導体・AI関連は、受注回復や円安メリットをある程度織り込んでいる銘柄も多い。数字が良いだけでは足りない。
Q1決算で市場が見るのは、単なる進捗率ではない。
「会社がどこまで保守的なままなのか」
「この数字なら上方修正が近いのではないか」
「受注残は本当に次の四半期につながるのか」
ここだ。
日本企業は期初予想を慎重に出すことがある。第1四半期で高い進捗率が出ても、会社が通期予想を据え置くことは珍しくない。市場はその据え置きをどう読むかで動く。保守的な据え置きなら買われる。需要の鈍さを隠した据え置きなら売られる。
この見分けが難しい。
為替も同じだ。円安で利益が上振れても、それだけなら評価は長く続かない。受注、価格、利益率がそろって初めて、機関投資家が本気で買いやすくなる。
7月の機械・電気機器は、テーマ株ではなく決算株として見るべきだと思う。
Q1決算で市場が本当に見ているもの
Q1決算でよく言われるのは進捗率だ。
もちろん大事だ。通期計画に対して25%を超えているか、30%に近いか、業種の季節性を考えてどうか。この見方は基本になる。
でも、市場が本当に反応するのは、進捗率そのものではない。
上方修正の匂いがあるかどうかだ。
例えば、売上が計画線でも粗利率が上がっている会社は見直されやすい。販管費が想定より抑えられている会社も強い。受注残が積み上がっている会社なら、Q2以降の数字を先に買われる。
逆に、進捗率が高くても評価されない決算もある。季節要因でQ1に利益が偏っただけ。円安だけで利益が出ただけ。値上げは進んだが数量が落ちている。こういう数字は、見た目ほど強くない。
市場はそこを見ている。
7月の決算相場では、会社が通期予想を据え置いた時の読み方が大事になる。保守的に据え置いたのか、上振れに自信がないから据え置いたのか。決算短信の数字より、説明資料と質疑応答のトーンに答えが出ることがある。
リスクは多いが、全部を恐れる必要はない
7月はイベントが多い。
米国では6月分の雇用統計が7月2日、CPIが7月14日に予定されている。FOMCは7月28日から29日。日本では7月30日から31日に日銀金融政策決定会合がある。
ここで為替が動けば、日本株の見え方も変わる。急な円高になれば輸出株は重い。米金利が上がれば高PERグロースは売られやすい。日銀がタカ派に見えれば、REITや不動産、高配当株の一部に圧力がかかる。
ただ、リスクを全部並べても投資判断は進まない。
7月に本当に怖いのは、イベントそのものより、流動性が落ちたところに悪材料が重なることだ。夏枯れで出来高が減る。そこに米金利、円高、ETF売り、決算失望が重なる。こうなると、小型株やテーマ株は思った以上に動く。
逆に言えば、流動性のある大型株で、決算の質が良い銘柄は拾われやすい。相場全体が弱いから全部を避ける、という月でもない。
ここも少し難しい。
7月の結論
7月は、焦って動く月ではない。
ただし、待ちすぎる月でもない。
ETF分配金売りを警戒している投資家は多い。つまり、その警戒自体がすでに相場に入っている可能性がある。下がるのを待っていたら下がらない。下がったと思ったら、今度は業績不安だった。そういう月になりやすい。
だから見るべきは、指数より個別の決算だ。
内需では通信と医薬。猛暑関連は短期テーマとして割り切る。建設・設備工事は、受注残と採算改善が見える銘柄を少し厚めに見る。機械・電気機器は、Q1進捗率そのものより、上方修正の匂いと受注の質を読む。
結局のところ、7月は「何を買うか」より「なぜ下がったのか」を見分ける月だと思う。
需給で下がっただけなら拾える。業績が疑われて下がったなら、まだ早い。期待だけで買われた銘柄は、好決算でも売られる。
この差を見分ける時間が、7月の一番大事な仕事になる。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断では、最新の株価、決算、会社開示、為替、金利、需給、リスク許容度を必ず確認してください。
参考資料
- Federal Reserve: FOMC calendars
- 日本銀行: 金融政策決定会合等の日程
- U.S. Bureau of Labor Statistics: Employment Situation release schedule
- U.S. Bureau of Labor Statistics: Consumer Price Index release schedule
- JPX: 決算発表予定会社一覧
- 松井証券: ETFの分配金捻出売りの解説