まず結論
DMMが上場しない理由について、会社が公式に一つの答えを示した資料は確認できない。したがって、「成人向け事業があるから上場できない」「資金が余っているから上場する必要がない」と単純化するのは危うい。
公開情報から確認できるのは、次の三点である。
- 2018年に株式会社から合同会社へ組織変更した
- 現在も60以上の事業を束ねる多事業グループである
- 2018年以降、出資やM&Aを含む事業開発を強化してきた
ここから先は分析になる。DMMにとって非上場は「上場できない事情」より、不確実な事業へ繰り返し資本を振り向けるための経営設計と見る方が理解しやすい。ただし、その合理性は、公開市場を使わなくても十分な資金を確保できる間に限られる。
合同会社化は「現在の非上場」を強く固定する
DMMの公式発表によると、株式会社DMM.comは2018年5月25日に合同会社へ組織変更し、同年6月1日に株式会社DMM.comラボを吸収合併した。公式沿革でも、2018年6月の出来事として合同会社DMM.comへの組織変更と合併が記録されている。
会社法では、合同会社は合名会社・合資会社とともに「持分会社」とされる。出資者が持つのは株式ではなく持分である。そのため、合同会社のまま自社の株式を上場することはできない。
ただし、ここには重要な留保がある。合同会社から株式会社へ再び組織変更する道は制度上残る。2018年の変更を「将来にわたり上場しないという不可逆な宣言」とみなすのは言い過ぎだ。正確には、上場を選ぶなら、まず会社形態そのものを変える必要がある状態を自ら選んだ、ということになる。
開示負担にも差がある。会社法440条が定める定時株主総会後の貸借対照表等の公告は株式会社を対象とし、合同会社には同じ形の年次決算公告義務はない。上場会社に求められる有価証券報告書や適時開示も、非上場のDMMには適用されない。
もっとも、合同会社なら会計・税務・登記などの義務がなくなるわけではない。非上場は「説明不要」ではなく、説明相手と公開範囲を限定しやすい制度設計だと捉えるべきだろう。
なぜDMMの多事業経営と相性がよいのか
新規事業を「会社の中のポートフォリオ」として扱える
DMMは動画、電子書籍、金融、英会話、ゲームなどから事業領域を広げ、公式には60以上の事業を展開している。こうした企業では、個別事業の成功率より、複数の試行から一部の大きな成功を生み、資金と人材を次へ再配分できるかが重要になる。
上場会社でも新規事業への投資はできる。ただし、投資額、赤字期間、減損、撤退判断が連結業績と開示へ反映され、少数株主を含む市場への説明が継続的に必要になる。非上場で所有と経営が近ければ、短期の利益を悪化させる投資でも、意思決定者が納得する限り続けやすい。
DMMが公式に出資やM&Aを積極展開してきたと説明している点も、このポートフォリオ型の経営と整合する。合同会社であること自体が成功を保証するのではなく、試行、選別、撤退、再投資を同じ支配構造の中で回しやすいことが利点である。
四半期利益より「選択肢の価値」を取りやすい
公開市場は長期投資を否定する場所ではない。それでも、業績予想を下回る投資、収益化時期が読めない事業、既存事業と関係の薄い買収には説明が要る。投資家が期待する資本効率を下回れば、株価や経営陣への評価にも影響する。
DMMのように事業領域を固定しない企業では、将来の選択肢を増やす投資が多くなる。非上場なら、事業ごとの短期収益よりグループ全体の学習、人材、顧客接点を優先しやすい。これは株主から逃げるというより、外部株主を迎えないことで、資本配分の評価軸を社内に保つ選択である。
「資金が不要」ではなく、公開株式が必須ではない
ここで最も注意したいのは、DMMが潤沢な内部留保だけで投資を賄っているという断定だ。非上場会社であるため、上場会社と同じ粒度の連結財務、事業別利益、営業キャッシュフロー、借入構成は公開されていない。外部から資金余力を正確に測ることはできない。
確認できるのは、60以上の事業を運営し、出資やM&Aを実行してきたという事実までである。資金源は事業キャッシュフローに限らず、銀行借入、共同出資、子会社単位の調達、事業売却などもあり得る。
したがって、DMMに上場メリットが「ない」のではない。現時点では、株式市場からの資金調達、株式の流動性、上場株式を使ったM&Aよりも、上場準備・維持コストと経営裁量の縮小を避ける価値が大きい、と推測できるだけだ。
成人向け事業は理由の一部になり得るが、主因とは断定できない
DMM.comの公式サイトからは成人向けサービス「FANZA」への導線が確認できる。成人向け事業では、年齢・権利・同意の確認、広告出稿、決済会社の審査、取引先のブランド基準など、一般向けコンテンツとは異なる管理課題が生じる。
上場すれば、これらは法令順守だけでなく、投資家、金融機関、広告主、提携先に対する継続的な説明課題にもなる。投資方針によっては機関投資家の投資対象から外れ、企業価値評価に割引がかかる可能性もある。
しかし、成人向け事業があること自体は上場禁止事由ではない。また、DMMが合同会社化の理由として成人向け事業を挙げた一次資料も確認できない。レピュテーション管理は、非上場を合理的にする要因の一つとは考えられるが、因果関係を確定する材料ではない。
非上場であることの代償
経営の自由度だけを見れば、非上場は常に有利に見える。実際には、DMMも次のコストを負う。
| 論点 | 非上場・合同会社の利点 | 代償 |
|---|---|---|
| 資本配分 | 少数の意思で迅速に決めやすい | 外部の市場規律が弱くなりやすい |
| 資金調達 | 開示範囲を抑えて個別交渉できる | 公募増資や上場株式を使えない |
| 事業評価 | 赤字事業を長期で育てやすい | 事業別の採算が外部から見えにくい |
| 持分 | 支配権を維持しやすい | 換金性が低く、価値の客観評価が難しい |
| ガバナンス | 事業方針を一貫させやすい | キーパーソン依存や承継が課題になり得る |
| 信用・採用 | 独自文化を守りやすい | 上場という知名度・信用補完を使えない |
合同会社は「最強の鎧」ではない。意思決定を速める一方、判断の誤りを市場や独立役員が早期に修正する仕組みは弱くなり得る。公開情報が少ないため、取引先や金融機関が個別審査へかけるコストも高まる。
上場が合理的になる条件
DMMが将来も必ず非上場を続けるとは限らない。次の条件が重なれば、株式会社化と上場の便益は大きくなる。
- 海外展開や大型設備投資で、既存の資金調達手段を超える資本が必要になる
- 大規模M&Aで、自社株を買収対価として使う必要が生じる
- 創業者・既存持分保有者の承継や流動化が経営課題になる
- 事業ポートフォリオが整理され、連結業績と成長戦略を市場へ説明しやすくなる
- 成人向けを含む事業・ブランド・ガバナンスの境界を明確にできる
逆に、既存事業と相対調達で十分な資金を確保でき、事業の試行回数と意思決定速度が競争力の中心である限り、非上場を維持する合理性は残る。
投資家がDMMから読み取れること
DMM自体の株式は買えない。それでも、同社は上場プラットフォーム企業を考える比較対象になる。
第一に、事業数の多さは企業価値ではない。重要なのは、成功事業が生む現金をどの事業へ振り向け、失敗案件からどれだけ早く撤退できるかである。上場会社なら、営業キャッシュフロー、投下資本利益率、のれん、減損、事業別利益から資本配分の巧拙を追える。
第二に、成人向けを含むコンテンツ事業では、売上成長だけでなく、決済の継続性、権利管理、ブランド分離、広告チャネルの安定性が利益の持続性を左右する。非上場のDMMで見えにくい項目ほど、上場同業を評価するときの確認点になる。
第三に、上場は企業の到達点ではない。公開市場が提供する資金、流動性、信用が、開示、ガバナンス、短期業績への説明責任を上回るときに初めて合理的になる。DMMの選択は、「巨大企業なら上場する」という前提が必ずしも成り立たない例である。
まとめ
DMMは合同会社であるため、現在の会社形態のまま株式上場することはできない。しかし、それは将来の上場を制度的に永久封印したことを意味しない。
非上場を続ける合理性は、60以上の事業を横断して、開始・撤退・出資・M&Aを機動的に進める経営モデルにある。上場会社として四半期ごとに説明するより、所有と経営を近づけ、資本配分の裁量を保つ方がDMMには合っている、という見方だ。
ただし、内部留保の規模も事業別採算も公開情報からは十分に検証できない。成人向け事業が合同会社化の主因だったとも言い切れない。DMMの非上場戦略は「資金が余る巨大企業の特権」ではなく、公開市場を使わない便益が、資金調達力、流動性、透明性を失うコストを上回っている間に成立する条件付きの選択である。
関連ページ
出典
- DMM.com ビジネスクリエーション部「組織概要」
- DMM.com「亀チョク募集ページ」(60種類以上の事業・サービス、新規事業開発に関する記載を確認)
- DMM.com「DMM.com、合同会社化及び吸収合併に関するお知らせ」
- DMM.com「DMMならではのM&A指針を示した『DMM M&A』ページを新たに公開」
- DMM.com公式サイト(成人向けサービス「FANZA」への導線を確認)
- e-Gov法令検索「会社法」