説明が簡潔なことと、説明が足りないことは違う
売上が伸びた理由を「人気があるから」の一言で済ませれば短くなります。しかし、販売数量が増えたのか、値段が上がったのかも分からないなら、投資判断に使う説明としては情報が足りません。
オッカムの剃刀は、同じ事実を十分に説明できる候補を比べる際、不要な仮定を増やさないという発想です。短い言葉、少ない資料、少ない計算をいつでも優先する規則ではありません。説明する範囲と、証拠に合っていることが先にあります。
販売数量だけで説明できる範囲を区切る
独自の仮例で、同じ商品の単価が1,000円、ある期間の販売数量が1,000個なら、売上は100万円です。次の同じ長さの期間に単価が変わらず2,000個売れたなら、売上は200万円になります。返品や値引き、ほかの商品の売上はない条件です。
この売上増加の計算には、新事業が成功した、値上げが通った、といった別の条件は要りません。資料にない理由を加えず、確かめた数量と単価で説明できます。ただし、数量が増えた原因そのものは、この掛け算では分かりません。
さらに、製造費や販売費、代金の回収状況は示していないので、利益や手元の現金が2倍になったとは言えません。株価がどう動くかも未確定です。説明できた対象を売上にとどめることが、この使い方の要点です。
仮定を置かないことは、存在を否定することではない
売上の計算に新事業の仮定が必要なかったからといって、その会社に新事業が存在しないと証明されたわけではありません。今回の説明に使う必要がないことと、現実にないことを分けます。
哲学者Elliott Soberは、オッカムの剃刀には複数の使い方があり、単純な説が理解しやすいことだけでは真偽の根拠にならないと論じています。この考えを投資に移すなら、説明の便利さより、何を観測して何を追加したかを確かめる姿勢になります。
一つの要因では新しい数字に合わなくなったなら、必要な要因を増やします。最初に単純な説を選んだことを理由に、反例や会社の注記を切り捨てるのは逆の使い方です。
投資仮説を、確かめられる文章にする
売上についての仮説なら、商品、数量、単価、比較期間をそろえます。利益についてなら費用も含め、資金繰りについてなら現金の出入りまで対象を広げます。必要な資料の範囲は、答えたい問いによって変わります。
最後に、まだ確認できない条件を残しておくと、次の開示で何を読み直すかが決まります。オッカムの剃刀は買いと売りを自動で選ぶ手法ではなく、説明を根拠の届く範囲へ戻すための補助になります。