「1ドル」には複数の意味がある
USDTについて「1ドル」と聞いたとき、少なくとも3つの価格を分けます。
- 取引所で他の参加者と売買する価格
- 発行体が条件付きで購入・償還する価格
- 日本円など別の通貨に換算したときの価値
取引所の価格が一時的に0.99ドルや1.01ドルになっても、それだけで発行体が破綻したとは限りません。逆に、取引所価格が戻っても、準備資産や償還の仕組みに問題がないと断定はできません。
Depegとは何か
Depegは、ステーブルコインの市場価格が目標とする通貨価値から離れることです。売り注文が集中する、取引所の流動性が薄くなる、送金ネットワークが止まる、発行体への不安が広がるといった要因で起こります。
Depegの大きさと長さが、利用者の損失を左右します。短時間の価格差なら裁定取引や市場の流動性で戻る可能性がありますが、償還が止まる、準備資産を売りにくい、取引所から出金できないとなれば、問題は価格差から信用・流動性危機へ移ります。
準備金があってもリスクは消えない
Tetherの規約では、トークンは準備資産で裏付けられます。準備資産には現金、現金同等物、その他の資産、関係会社向けの貸付債権が含まれる場合があります。
ここで見るべきは、金額だけではありません。
| 見る点 | 問い |
|---|---|
| 資産の質 | 現金化しやすく、価値が大きく動きにくいか |
| 満期 | 短期間で償還資金を用意できるか |
| 開示 | 何がどの範囲で報告されているか |
| 債権 | 借り手の信用と担保はどうか |
| 償還 | 誰が、いくらから、どの手数料で償還できるか |
「準備金100%」という表示も、預金保険や政府保証を意味しません。発行体の規約にある権利と、利用者が取引所で持つ残高の関係を確認します。
破綻までのリスク連鎖
発行体の信用不安が広がると、利用者はUSDTを売るか、発行体に償還を求めます。取引所では売りが先行し、価格差が拡大します。発行体が対応できても、準備資産の売却や銀行送金に時間がかかれば、利用者の不安はさらに強まります。
この連鎖は、発行体だけでなく取引所、銀行、ブロックチェーン、DeFiプロトコルにも波及します。USDTを担保に借りていた場合、価格下落が強制清算を引き起こす可能性もあります。
日本円で見るときの注意
USDTがドルに連動していても、円に対して安定するわけではありません。1ドルが円高・円安に動けば、USDTの円換算額も変わります。円で生活する人がUSDTを「値動きのない円預金」と捉えると、為替リスクを見落とします。
確認の順番
- 取引所価格と発行体の償還条件を分ける
- 最新の準備資産の開示と報告範囲を見る
- 取引所の流動性・出金停止条件を確認する
- 利用するネットワークと、DeFiの清算条件を確認する
- 日本の取扱制度と税務を別途確認する
まとめ
USDTの「1ドル」は、設計上の連動目標、発行体の償還条件、取引所の市場価格をまとめた表現です。Depegは一時的な価格差から信用危機まで幅があり、準備金の存在だけで損失リスクが消えるわけではありません。
価格を見るときは、どの市場の、誰に対する、どの条件の1ドルなのかを確認します。