2026年5月の日本株市場で起きたこと

5月の日本株は、指数だけを見ればかなり強かった。

2026年5月25日、日経平均株価は前営業日比1,819円12銭高の65,158円19銭で引けた。65,000円台の終値は史上初であり、海外投資家の日本株買い、AI関連株への資金流入、原油安によるリスク選好が重なった。

しかし、半導体関連株の中身はきれいな全面高ではない。

これまで日本のAI半導体相場を牽引してきたレーザーテック、アドバンテスト、ディスコは、月間ではそろってマイナスだった。一方で、東京エレクトロンとキオクシアは大きく上昇した。

ここが5月相場の一番おもしろいところだ。

半導体株が強いのに、従来の主役は下がっている。表面だけ見ると矛盾しているが、実際には資金の逃避ではなく、半導体テーマ内でのローテーションが起きていた。

主要半導体株の5月騰落率

比較期間は2026年4月30日終値から2026年5月29日終値までとした。ゴールデンウィークを挟むため、5月1日終値や日中安値と混同しやすいが、ここではすべて4月30日終値に統一している。時価総額増減は、5月29日時点の時価総額と株価から発行株式数を逆算した概算である。

まず、相場の主役交代を読むための中核5銘柄を確認する。

証券コード銘柄名4/30終値5/29終値騰落率時価総額増減の概算5/29売買代金
285AキオクシアHD37,560円65,850円+75.3%約+15.5兆円約2兆7,231億円
8035東京エレクトロン44,390円52,420円+18.1%約+3.8兆円約1,870億円
6920レーザーテック42,690円40,130円-6.0%約-2,413億円約896億円
6857アドバンテスト28,260円26,170円-7.4%約-1.5兆円出来高940.9万株
6146ディスコ74,010円65,090円-12.1%約-9,676億円約1,378億円

次に、半導体相場の裾野を確認するため、追加で5銘柄を見る。

証券コード銘柄名位置づけ4/30終値5/29終値騰落率時価総額増減の概算5/29売買代金
4062イビデンパッケージ基板・AIサーバー周辺13,480円23,000円+70.6%約+2.7兆円約2,189億円
6723ルネサス半導体デバイス・車載/産業向け3,212円4,500円+40.1%約+2.4兆円約1,063億円
6525KOKUSAI ELECTRIC成膜装置・前工程装置6,378円8,211円+28.7%約+4,364億円約677億円
7735SCREEN HD洗浄装置・前工程装置10,230円11,120円+8.7%約+1,698億円約378億円
5803フジクラ光通信・データセンター周辺インフラ5,971円4,771円-20.1%約-2.1兆円約3,415億円

この表で見るべきは、キオクシアの突出した上昇率だけではない。

東京エレクトロンも大型株として約18%上昇し、時価総額を大きく押し上げた。一方で、レーザーテック、アドバンテスト、ディスコは調整した。特にアドバンテストとディスコは、株価下落率以上に時価総額インパクトが大きい。

追加5銘柄を見ると、5月相場の広がりはさらに分かりやすい。イビデンとルネサスは大きく上昇し、KOKUSAI ELECTRICも前工程装置の一角として強かった。SCREEN HDは上昇率こそ控えめだが、洗浄装置という重要工程の銘柄として資金流入が続いた。一方、フジクラは月中に急騰した後、5月29日時点では4月30日比で下落しており、周辺インフラ株のボラティリティの大きさを示した。

それでも日経平均と半導体テーマは崩れなかった。

理由は、半導体セクター内で資金の受け皿が残っていたからである。

東京エレクトロンが買われた理由

東京エレクトロンは、AI半導体相場の中でも「前工程装置」の本命として見られやすい。

GPU、HBM、先端ロジック、3D NANDの需要が増えるほど、半導体メーカーは成膜、エッチング、洗浄、塗布・現像などの工程を増やし、歩留まりを上げる必要がある。東京エレクトロンはこの前工程の広い領域に装置を持つ。

5月相場で同社が買われた背景には、次の3点がある。

  • AI半導体向け設備投資がまだ続くという見方
  • 前工程装置はAIサプライチェーンの中でも大型資金が入りやすいこと
  • レーザーテックやアドバンテストから一部資金が移ったこと

重要なのは、東京エレクトロンが単なるテーマ株ではなく、実際に半導体量産プロセスのボトルネックを握る企業だという点である。

AI需要が強いというだけなら、投資家はまずNVIDIAやTSMCを見る。しかし、その需要を量産能力に変えるには装置が必要になる。東京エレクトロンは、その「需要を設備投資に変換する場所」にいる。

キオクシアが5月の主役になった理由

5月の最大の主役は、キオクシアだった。

4月30日終値37,560円から5月29日終値65,850円まで上昇し、月間騰落率は約75%に達した。5月29日の売買代金は約2兆7,231億円と、個別株として極めて大きい。

背景にあるのは、NANDフラッシュメモリ市況の改善と、AIデータセンター向けストレージ需要への期待である。

AIサーバーではGPUやHBMが注目されやすいが、実際には学習データ、推論ログ、モデル管理、バックアップ、動画・画像データの保管などで大容量ストレージが必要になる。エンタープライズSSD需要が強まれば、NANDメーカーの収益には大きなレバレッジがかかる。

キオクシアは、2026年3月期決算で売上収益2兆3,376億円、営業利益8,704億円、親会社の所有者に帰属する当期利益5,545億円を発表した。さらに2027年3月期第1四半期見通しも強く、米国預託株式(ADS)の上場準備も発表された。

これらが重なり、市場はキオクシアを「AI時代のNAND市況株」として再評価した。

ただし、ここは冷静さも必要だ。NANDは構造的な成長テーマであると同時に、市況循環の影響を強く受ける。競合の増産、価格下落、在庫調整が起きれば、利益率は大きく振れる。

5月の急騰は強い材料を反映したものだが、今後は利益水準の持続性が問われる。

なぜ半導体三羽烏は下がったのか

レーザーテック、アドバンテスト、ディスコは、いずれも日本のAI半導体相場で存在感の大きい銘柄である。

それでも5月は月間で下落した。

これは、各社の事業が急に悪くなったというより、期待値と需給の調整と見る方が自然だ。

レーザーテック

レーザーテックは、EUV関連の検査装置で強いポジションを持つ。5月25日には前日比12.8%高と大きく反発した日もあった。

ただ、月間では4月30日終値42,690円から5月29日終値40,130円へ下落した。高成長期待が強い銘柄ほど、PERや受注回復への期待が先に織り込まれやすい。強い材料が出ても、短期では利益確定売りが出やすい局面だった。

アドバンテスト

アドバンテストは、AI半導体向けテスター需要の代表銘柄である。

しかし、4月30日終値28,260円から5月29日終値26,170円へ下落した。テスター需要そのものへの期待は残っているが、これまでの上昇で株価に相当程度織り込まれていた。半導体テーマ内で資金がキオクシアや東京エレクトロンへ移ったことも重しになった。

ディスコ

ディスコは、半導体製造の切断・研削・研磨装置で高い競争力を持つ。

ただ、5月は4月30日終値74,010円から5月29日終値65,090円へ下落した。AI関連の中核企業であることは変わらないが、高収益企業ゆえにバリュエーションへの要求も高い。期待値が少しでも緩むと、株価調整は大きくなりやすい。

5月相場の本質は「半導体内ローテーション」

5月の半導体株を一言で言えば、主役交代である。

従来の市場では、レーザーテック、アドバンテスト、ディスコが下がると、半導体株全体のムードが悪化しやすかった。

しかし2026年5月は違った。

それらが調整しても、東京エレクトロンとキオクシアに資金が入り、さらにAIデータセンター周辺ではフジクラ、古河電工、住友電工のような電線・光通信関連にも資金が向かった。

これは、AI投資の見方が少し変わってきたことを示している。

また、イビデンやKOKUSAI ELECTRIC、SCREEN HDの動きは、AI相場が「完成品のAIチップ」だけではなく、基板、成膜、洗浄といった製造プロセス側にも広がっていることを示している。ルネサスの上昇は、AI一辺倒ではなく、半導体デバイス全体へのリスク許容度回復としても読める。

2024年から2025年にかけては、「AIチップそのもの」「EUV」「テスター」が強く意識されやすかった。2026年5月は、そこから一歩広がり、

  • AIチップを量産する前工程装置
  • AIサーバーを支えるNAND・SSD
  • データセンターをつなぐ光通信・電線
  • 電力、冷却、パッケージング、基板材料

へと物色が広がった。

つまり、半導体相場が弱くなったというより、AIインフラ相場の解像度が上がったと見る。

セクター別に見た5月の評価

セクター5月の評価見方
メモリ強いキオクシアが主役。NAND市況とAIストレージ需要を織り込んだ
前工程装置強い東京エレクトロンに資金。AI設備投資の本流として再評価
成膜・洗浄装置強いKOKUSAI ELECTRIC、SCREEN HDにも買いが広がった
パッケージ基板強いイビデンが大幅高。AIサーバー周辺のボトルネックとして評価
検査・テスター調整レーザーテック、アドバンテストは高値警戒と利益確定が優勢
精密加工・後工程調整ディスコは強い会社だが、期待値調整が出た
周辺インフラ荒い電線、光通信、電力、冷却などへ物色が拡散。ただしフジクラのように急騰後の反動も大きい

この構図は、6月以降も重要になる。

半導体株を見るときに、「上がるか下がるか」だけでは粗い。どの工程に資金が向かっているのか、どの銘柄が利益確定の受け皿になっているのかを見た方がよい。

6月以降のチェックポイント

1. キオクシアの上昇が業績確認相場へ移るか

キオクシアは5月に大きく上昇したため、6月以降は期待だけで上がり続ける局面ではなくなる。

見るべきは、NAND価格、エンタープライズSSD需要、競合の増産姿勢、ADS上場準備の進捗、普通株式への還元方針である。

急騰後は、良い決算でも「期待ほどではない」と見られると売られやすい。ここからは、テーマ性より利益の持続性が重要になる。

2. 東京エレクトロンがセクターの柱になれるか

東京エレクトロンは、半導体装置株の中でもグローバル投資家が買いやすい大型株である。

6月以降は、受注、利益率、地域別売上、中国向け規制、先端パッケージング関連の売上見通しが焦点になる。株価が上がった後ほど、単なるAIテーマではなく、受注の質と利益率が問われる。

3. レーザーテック、アドバンテスト、ディスコに資金が戻るか

5月の調整が単なる利益確定なら、6月以降に資金が戻る可能性はある。

ただし、戻るためには材料が必要だ。レーザーテックなら受注、アドバンテストならテスター需要と利益率、ディスコなら生成AI向け加工需要と受注残が確認点になる。

4. AIデータセンター周辺インフラの物色が続くか

5月相場では、半導体の外側にあるインフラ関連にも資金が向かった。

AIデータセンターは、チップだけでは動かない。電力、冷却、光通信、電線、基板、ストレージがそろって初めて機能する。6月以降もこの見方が続くなら、日本株のAIテーマはさらに広い銘柄群へ波及する。

まとめ

2026年5月の日本半導体株は、単純な全面高ではなかった。

キオクシアと東京エレクトロンが大きく買われる一方、レーザーテック、アドバンテスト、ディスコは月間で下落した。

追加で見ると、イビデン、ルネサス、KOKUSAI ELECTRIC、SCREEN HDも上昇し、半導体物色の裾野はかなり広がっていた。一方、フジクラはAIデータセンター周辺インフラの代表銘柄として売買代金は大きかったが、月間では下落した。

この動きは、「半導体相場が終わった」というより、半導体テーマの中で主役が入れ替わったことを示している。

AI投資の焦点は、GPUや先端検査だけではなくなっている。前工程装置、NANDメモリ、SSD、電線、光通信、電力、冷却へと広がっている。

だから5月相場の本質は、半導体バブルの終焉ではなく、AIインフラ相場への拡張である。

6月以降は、上昇率だけでなく、資金がどの工程に向かっているかを見る必要がある。キオクシアの急騰が業績確認相場へ移れるか、東京エレクトロンが装置株の柱として資金を受け止められるか、そして調整した半導体三羽烏に再び資金が戻るか。

日本の半導体株を見る目線は、銘柄単体からサプライチェーン全体へ移っている。

出典

本記事は、公開情報に基づいた教育的・情報提供のみを目的としており、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容や将来の投資成果を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけますようお願い申し上げます。