飲食店開業・経営シリーズ

このシリーズでは、個人飲食店の開業から資金繰り、融資、物件選び、店舗投資、利益の再投資までを順番に整理しています。

結論だけ先に

飲食店の創業計画書で、特に見られやすいのは次の5点です。

見られる点なぜ重要か
自己資金開業に向けて計画的に準備してきたかを見る
飲食業の経験売上・仕入れ・人員配置を現実的に読めるかを見る
必要資金と調達方法内装費、設備費、運転資金の使い道が明確かを見る
売上・利益予測席数、客単価、回転率から説明できるかを見る
返済余力利益とキャッシュで毎月返済できるかを見る

公庫の創業融資は、プレゼンのうまさだけで決まるものではありません。

大事なのは、数字の整合性です。

「この物件で、この席数で、この客単価なら、売上はこのくらい。原価、人件費、家賃を払っても、返済原資が残る」

ここまで算数で説明できる計画書が強いです。

日本政策金融公庫が見ているのは「返済できる店か」

日本政策金融公庫は、創業期の資金調達を支援する政府系金融機関です。

公庫の公式ページでも、新たに事業を始める人や、事業開始後まだ税務申告を2期終えていない人は、営業実績が乏しいため資金調達が難しい場合が少なくないと説明されています。

つまり、公庫は創業者を支援する存在です。

ただし、それは「誰にでも希望額を貸す」という意味ではありません。

審査で見られるのは、基本的には返済可能性です。

飲食店なら、次のような問いに答えられる必要があります。

なぜこの店を開くのか
↓
なぜあなたが運営できるのか
↓
なぜこの場所で売上が立つのか
↓
なぜこの費用で足りるのか
↓
なぜ返済できるのか

創業計画書は、この問いに数字で答えるための書類です。

審査で見られやすい4つのポイント

1. 自己資金は「金額」より準備プロセスが見られる

自己資金は、創業融資でかなり重要です。

もちろん金額も大切です。

ただ、それ以上に見られやすいのは、そのお金をどう準備したかです。

毎月の給与から少しずつ貯めてきた自己資金なら、開業に向けて計画的に準備してきたことを説明しやすい。

反対に、申込直前にまとまったお金が急に入っているだけだと、その資金の出どころや実態を確認されやすくなります。

創業計画書では、自己資金を単なる数字として書くだけでなく、次のように説明できると強いです。

説明できること
いつから貯めたか3年前から開業資金として毎月積立
何で貯めたか給与、賞与、副業収入、退職金など
どこに残っているか預金口座、証明できる資金
使い道内装、保証金、運転資金の一部

自己資金は、開業者の本気度を見る材料でもあります。

同時に、開業後の資金繰りを守るクッションでもあります。

2. 飲食業の経験は、売上予測の信頼性になる

飲食店開業で見られるのは、料理の腕だけではありません。

仕入れ、仕込み、原価管理、シフト管理、接客、クレーム対応、衛生管理、閉店作業、棚卸し、予約管理。

店を回すには、かなり広い実務が必要です。

公庫の創業計画書記入例でも、経営者の略歴には勤務先名だけでなく、担当業務、役職、身につけた技能などを書く形になっています。

つまり、見られるのは「飲食店で働いたことがあるか」だけではありません。

どの業態で、どのポジションを、どれくらい経験し、何を任されていたかです。

経験計画書で説明したいこと
調理経験メニュー開発、仕込み、原価管理ができるか
ホール経験客単価、回転率、接客品質を理解しているか
店長経験人件費、仕入れ、売上管理、シフト作成ができるか
仕入れ経験取引先、支払条件、食材ロスを管理できるか

未経験に近い場合は、不利になりやすいです。

その場合でも、研修、共同創業者、経験者の採用、外部専門家の支援など、弱点を補う設計を書けるかが大事になります。

3. 必要資金と調達方法は、左右を一致させる

創業計画書でかなり重要なのが、「必要な資金」と「調達方法」です。

これは、資金の使い道と、資金の出どころを対応させる欄です。

考え方はシンプルです。

必要な資金 = 調達方法

たとえば、次のように整理します。

必要な資金金額調達方法金額
内装工事600万円自己資金250万円
厨房機器・備品200万円公庫からの借入700万円
保証金・礼金100万円親族からの借入50万円
運転資金100万円
合計1,000万円合計1,000万円

ここで怖いのは、どんぶり勘定です。

内装費、厨房機器、看板、レジ、家具、保証金などは、できるだけ見積書や契約条件で裏付けたいところです。

日本政策金融公庫の創業計画書記入例でも、見積書などの添付に触れられています。

数字に根拠があるか。

ここを見られます。

4. 家賃比率と運転資金で、生存確率が見られる

飲食店では、家賃が重すぎると資金繰りが一気に苦しくなります。

創業計画書上の売上が強気でも、家賃比率が高いと、閑散期に耐えにくい店に見えます。

目安としては、家賃は売上の10%以内に収めたいところです。

家賃比率見方
5〜8%余裕を作りやすい
10%前後個人店の現実的な上限ライン
15%前後売上が弱い月に苦しくなりやすい
20%以上高単価・高回転でないとかなり重い

運転資金も同じです。

内装や厨房に資金を使い切り、開業後の手元現金が薄い計画は危険です。

キャッシュレス売上の入金遅れ、仕入れ、人件費、家賃、税金、借入返済を考えると、固定費数か月分の現金を運転資金として残す設計にした方が現実的です。

売上予測は「希望」ではなく「席数の算数」で作る

創業計画書で最も差が出るのが売上予測です。

弱い計画書は、こう書きがちです。

周辺にオフィスが多いため、ランチは毎日満席になり、月商300万円を見込む。

これでは、根拠が足りません。

強い計画書は、売上を分解します。

売上 = 席数 × 回転率 × 客単価 × 稼働率 × 営業日数

たとえば、ランチならこうです。

20席 × 1.5回転 × 客単価1,000円 × 稼働率80%
= 日商24,000円

ディナーなら、別に計算します。

20席 × 1.0回転 × 客単価4,500円 × 稼働率60%
= 日商54,000円

このように、ランチとディナー、平日と休日、通常月と弱い月を分けて考えると、かなり現実に近づきます。

大事なのは、満席前提にしないことです。

開業初期は話題性で入る日もあります。

しかし、天候、曜日、季節、周辺イベント、競合店、店主の体調で売上は揺れます。

審査担当者が見たいのは、夢の最高月ではなく、普通の日でも返済できるかです。

コスト計画はFLR比率で見る

飲食店の利益計画では、FLR比率を見ます。

F = Food:材料費
L = Labor:人件費
R = Rent:家賃

業態によって適正値は変わります。

それでも、個人飲食店では次のような感覚を持っておくと、計画書を作りやすくなります。

項目目安
原材料費売上の30%前後
人件費売上の25〜30%前後
家賃売上の10%以内

もちろん、寿司店、焼肉店、カフェ、ラーメン店、バーでは原価率も人件費率も違います。

それでも、あまりに低すぎる原価率や人件費率は、逆に不自然に見えます。

たとえば、席数が多く営業時間も長いのに、人件費が極端に低い。

高品質食材を使うと言っているのに、原価率が妙に低い。

こういう計画は、現場を知らない数字に見えやすいです。

売上計画と同じくらい、コスト計画も現実感が必要です。

なぜ公庫は返済余力を見るのか

融資審査で最終的に見られるのは、返済余力です。

売上が大きくても、返済後に現金が残らない計画は弱いです。

ここで使える考え方がDSCRです。

DSCR = 返済原資 ÷ 年間返済額

返済原資は、ざっくり言えば「返済に回せる現金」です。

個人飲食店なら、次のように考えると理解しやすいです。

返済原資
= 税引後利益
+ 減価償却費
− 店主の生活費として必要な分

目安は次の通りです。

DSCR見方
1.0倍未満返済原資が返済額に足りない
1.0倍前後ほぼ余裕がない
1.5倍以上返済余力を説明しやすい
2.0倍以上かなり安心感がある

たとえば、年間返済額が180万円で、返済原資が270万円なら、DSCRは1.5倍です。

270万円 ÷ 180万円 = 1.5倍

この数字が低いと、少し売上が落ちただけで返済が苦しくなります。

逆に、DSCRに余裕がある計画なら、審査担当者に「弱い月でも返済できる」ことを説明しやすくなります。

ただし、DSCRは万能ではありません。

税金、キャッシュレス入金の遅れ、設備故障、追加仕入れ、店主の生活費を見落とすと、数字上は足りていても現金が詰まります。

DSCRは、資金繰り表とセットで見るべきです。

創業計画書に添えたい資料

創業計画書だけで説明しきれない部分は、添付資料で補います。

飲食店なら、次のような資料があると説明しやすくなります。

資料役割
内装・厨房機器の見積書必要資金の根拠
物件資料・賃貸条件家賃、保証金、立地の確認
メニュー表案客単価と原価率の根拠
近隣競合の調査価格帯、客層、空白地帯の説明
店主の職務経歴飲食経験、店長経験、仕入れ経験の補強
資金繰り表返済可能性と運転資金の説明
営業許可・資格の準備状況開業準備の進捗

資料は多ければ良いわけではありません。

大事なのは、計画書の数字を裏付けることです。

よくある落とし穴

最後に、創業計画書でよくある落とし穴を整理します。

落とし穴なぜ危ないか
売上予測が満席前提普通の日の返済余力が見えない
家賃が重い固定費が高く、閑散期に弱い
自己資金の説明が弱い開業準備の計画性を説明しにくい
内装費が見積もりなし必要資金の根拠が弱い
店主の生活費を入れていない事業は黒字でも生活できない
税金と返済を見ていない黒字でも現金が残らない
運転資金が薄い開業直後の入金ズレに耐えにくい

創業計画書は、きれいに見せる書類ではありません。

弱点を先に見つけ、開業前に直すための書類です。

まとめ:創業計画書はラブレターではなく返済可能性の説明書

飲食店の創業計画書で問われるのは、情熱の大きさだけではありません。

料理への思いは大切です。

しかし、融資審査では、思いだけでは足りません。

自己資金はどう準備したのか。

飲食業の経験はどこにあるのか。

その物件で、なぜ売上が立つのか。

原価、人件費、家賃を払っても、なぜ返済できるのか。

ここを数字で説明する必要があります。

創業計画書は、金融機関へのラブレターではありません。

返済可能性の説明書です。

そして同時に、開業者自身を守るための設計図でもあります。

開業前に数字の矛盾を見つけられれば、物件を変える、初期投資を下げる、席数を見直す、メニューを絞る、運転資金を厚くする、という修正ができます。

融資を通すためだけでなく、店を潰さないために、創業計画書を作る。

その視点で書ける人ほど、開業後の生存確率は高くなります。

本記事は、飲食店開業時の創業計画書と融資審査の考え方を整理する一般的な解説であり、融資承認、満額融資、税務・法務・会計処理を保証するものではありません。実際の申込では、日本政策金融公庫、金融機関、税理士、商工会議所、自治体の創業相談窓口などに確認してください。

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参考

本記事は、公開情報に基づいた教育的・情報提供のみを目的としており、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容や将来の投資成果を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけますようお願い申し上げます。