飲食店開業・経営シリーズ
このシリーズでは、個人飲食店の開業から資金繰り、融資、物件選び、店舗投資、利益の再投資までを順番に整理しています。
- 飲食店のビジネスモデルとは
- 個人飲食店の開業で失敗しない財務設計
- なぜ飲食店は黒字なのに潰れるのか(この記事)
- 飲食店の創業計画書の書き方
- 日本政策金融公庫の面談で聞かれる質問10選
- 飲食店の家賃比率は何%が適正か
- 飲食ビジネスは料理業ではなく資本配分業である
結論だけ先に
飲食店オーナーが毎月見るべきものは、利益だけではありません。
最低限、次の3つを分けて見ます。
| 見るもの | 意味 |
|---|---|
| 売上 | お客さんが払った金額 |
| 利益 | 売上から会計上の経費を引いた数字 |
| 現金 | 銀行口座とレジに実際に残っているお金 |
店が止まるのは、利益がゼロになった瞬間ではありません。
支払日に現金が足りなくなった瞬間です。
だから、飲食店経営では「今月いくら儲かったか」より先に、「月末にいくら現金が残るか」を見なければなりません。
利益は計算式、現金は銀行口座
まず、利益と現金は別物です。
利益 = 売上 − 経費
現金 = いま口座とレジにあるお金
この2つを混同すると、店は危なくなります。
帳簿上の利益が出ていても、現金がないと支払いはできません。家賃も、仕入れも、給料も、税金も、借入返済も、最後は現金で出ていきます。
ここで大事なのは、会計上の利益が「悪い数字」ではないということです。
利益は事業の採算を見るために必要です。
ただし、店を今日も明日も開けるためには、現金の動きまで見なければ足りません。
罠1:キャッシュレス売上の入金は遅れてくる
個人飲食店で最初に起きやすいのが、入金と支払いのズレです。
現金払いなら、その場でレジにお金が入ります。
しかし、クレジットカード、QRコード決済、電子マネーでは、売上が立っても、実際の入金は後日になることがあります。
| 決済方法 | 現金の入り方 |
|---|---|
| 現金 | その場で入る |
| クレジットカード | 決済会社の入金サイクル次第 |
| QRコード決済 | サービスごとの入金日次第 |
| グルメサイト経由決済 | 手数料や入金タイミングに注意 |
たとえば、月商300万円のうち8割がキャッシュレスだったとします。
売上は300万円です。
でも、240万円分の入金が翌月以降なら、今月の口座にはまだ入っていません。
その間にも、仕入れ代、家賃、アルバイト代、水道光熱費は出ていきます。
売上はある
↓
でも入金はまだ
↓
支払いだけ先に来る
↓
現金が詰まる
これがキャッシュギャップです。
キャッシュレス比率が高い店ほど、入金サイクルを把握しておく必要があります。
罠2:減価償却で、帳簿と現金がズレる
開業時には、内装工事、厨房機器、空調、看板、家具、レジ、保証金などに大きなお金が出ていきます。
ここで理解しておきたいのが、減価償却です。
たとえば、内装や厨房設備に1,000万円使ったとします。
現金は、開業時に大きく減ります。
しかし、会計上はその全額を一度に経費にできるとは限りません。資産として扱い、耐用年数に応じて毎年少しずつ経費にすることがあります。
現金:開業時に1,000万円出ていく
会計:数年に分けて経費化される
このズレがあるため、帳簿上は利益が出ているように見えても、実際には開業時にかなり現金を使っていることがあります。
減価償却は会計上必要な仕組みです。
ただ、個人店の資金繰りを見るときは、「経費になったか」より「現金がいつ出たか」を確認する必要があります。
罠3:借入金の元本返済は経費にならない
開業時に融資を受けた場合、毎月返済が発生します。
ここでも、利益と現金がズレます。
借入返済のうち、利息は経費になります。
しかし、元本返済は経費になりません。
| 支払い | 会計上の扱い |
|---|---|
| 借入利息 | 経費になる |
| 借入元本返済 | 経費にならない |
つまり、毎月20万円を返済していても、その全部が経費として利益を減らすわけではありません。
帳簿上は利益が残っている。
でも、口座からは返済で現金が出ていく。
ここを見落とすと、「利益は出たはずなのに、手元に何も残らない」という感覚になります。
個人飲食店では、月次の損益だけでなく、借入返済後の現金残高を見ることがかなり重要です。
罠4:黒字になるほど税金が後から来る
もう一つ怖いのが税金です。
利益が出るのは良いことです。
しかし、利益が出れば、所得税、住民税、個人事業税、消費税などの支払いが後から来ます。
特に、開業後に売上が伸びた店では、翌年以降の納税で資金繰りが急に重くなることがあります。
| 税金・負担 | 注意点 |
|---|---|
| 所得税 | 確定申告後に納付が必要 |
| 住民税 | 翌年度に負担が出る |
| 個人事業税 | 業種や所得によって発生する |
| 消費税 | 課税事業者になると納付が必要 |
| 社会保険・労働保険 | 人を雇う場合は確認が必要 |
国税庁は、個人事業者の消費税について、原則として課税期間は1月1日から12月31日までで、申告・納付期限は翌年3月31日までと案内しています。
ここで大事なのは、消費税は預かっている性格のお金だという感覚です。
売上と一緒に入ってきたからといって、全部を仕入れや生活費に使ってしまうと、納税時に現金が足りなくなります。
黒字になったら安心ではありません。
黒字になったら、税金用の現金を先に分けておく必要があります。
黒字倒産を防ぐ3つの防衛策
黒字倒産を防ぐには、利益計算だけでなく、現金の守りを作る必要があります。
最低限やりたいのは次の3つです。
| 防衛策 | 内容 |
|---|---|
| 入金サイクルを確認する | キャッシュレス、予約サイト、デリバリーの入金日を把握する |
| 固定費数か月分の現金を残す | 家賃、人件費、生活費、返済を払える余力を持つ |
| 資金繰り表をつける | 月初現金、入金、支払い、月末現金を毎月見る |
特に大事なのは、資金繰り表です。
難しい表である必要はありません。
月初現金
+ 現金売上
+ キャッシュレス入金
− 仕入れ
− 人件費
− 家賃
− 水道光熱費
− 借入返済
− 税金
= 月末現金
これを毎月見るだけでも、店の危険度はかなり分かります。
月末現金が減り続けているなら、早めに打ち手が必要です。
値上げ、メニュー整理、営業時間の見直し、広告費削減、仕入れ条件の見直し、借入条件の相談。
現金が尽きてからでは、選択肢は一気に減ります。
飲食店の最低防衛資金はいくら必要か
資金繰りを守るうえで、最低限の防衛ラインを決めておくと判断しやすくなります。
個人飲食店なら、まずは固定費と生活費の3か月分を目安にしたいところです。
最低防衛資金
= 家賃
+ 人件費
+ 店主の生活費
+ 借入返済
+ 水道光熱費などの固定的支出
× 3か月
たとえば、毎月の支払いが次のような店を考えます。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 家賃 | 20万円 |
| 人件費 | 30万円 |
| 店主の生活費 | 20万円 |
| 借入返済 | 10万円 |
| 水道光熱費など | 10万円 |
この場合、毎月の固定的な現金流出は90万円です。
90万円 × 3か月 = 270万円
つまり、この店では最低でも270万円前後を「使ってはいけない現金」として残しておきたい、という感覚になります。
もちろん、業態や季節変動によって必要額は変わります。
夏と冬で売上が大きく変わる店、キャッシュレス比率が高い店、借入返済が重い店、人を多く雇う店は、3か月分では足りないこともあります。
大切なのは、通帳残高をすべて使えるお金だと思わないことです。
防衛資金を下回ったら、出店、内装追加、広告強化、新メニュー開発より先に、資金繰りの立て直しを優先した方がいいです。
通帳残高だけを見ても足りない
「通帳の残高を見る」は大事です。
ただし、残高だけを見て安心するのも危険です。
なぜなら、その残高の中には、これから払う税金、仕入れ、給料、家賃、返済に使うお金が含まれているからです。
見るべき順番はこうです。
通帳残高
− 今月中に払う固定費
− 仕入れ予定
− 給料
− 借入返済
− 税金の積立分
= 本当に使える現金
口座に100万円あっても、月末までに80万円の支払いがあるなら、自由に使えるお金は20万円です。
逆に、口座に50万円しかなくても、入金予定が確実で支払いが少なければ、すぐに危険とは限りません。
重要なのは、残高そのものではなく、入金予定と支払い予定を並べて見ることです。
まとめ:利益ではなく、現金が店を生かす
飲食店にとって、利益は大事です。
でも、利益だけでは店は続きません。
家賃を払うのも、仕入れをするのも、従業員に給料を払うのも、借入を返すのも、税金を納めるのも現金です。
黒字倒産を防ぐには、次の4つを毎月確認します。
利益は出ているか
↓
現金は残っているか
↓
入金より先に支払いが来ていないか
↓
税金と返済分を別に確保しているか
利益は会計上の数字に過ぎません。
家賃を払うのも、仕入れをするのも、従業員に給料を払うのも現金です。
経営者が守るべきものは、利益だけではありません。
通帳の残高と、その先の資金繰りです。
本記事は、飲食店経営の資金繰りを理解するための一般的な解説であり、個別の税務、融資、会計処理、法務判断を助言するものではありません。実際の申告、納税、借入、資金繰り改善については、税務署、税理士、金融機関、日本政策金融公庫などに確認してください。
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