飲食店開業・経営シリーズ

このシリーズでは、個人飲食店の開業から資金繰り、融資、物件選び、店舗投資、利益の再投資までを順番に整理しています。

結論だけ先に

飲食店オーナーが毎月見るべきものは、利益だけではありません。

最低限、次の3つを分けて見ます。

見るもの意味
売上お客さんが払った金額
利益売上から会計上の経費を引いた数字
現金銀行口座とレジに実際に残っているお金

店が止まるのは、利益がゼロになった瞬間ではありません。

支払日に現金が足りなくなった瞬間です。

だから、飲食店経営では「今月いくら儲かったか」より先に、「月末にいくら現金が残るか」を見なければなりません。

利益は計算式、現金は銀行口座

まず、利益と現金は別物です。

利益 = 売上 − 経費
現金 = いま口座とレジにあるお金

この2つを混同すると、店は危なくなります。

帳簿上の利益が出ていても、現金がないと支払いはできません。家賃も、仕入れも、給料も、税金も、借入返済も、最後は現金で出ていきます。

ここで大事なのは、会計上の利益が「悪い数字」ではないということです。

利益は事業の採算を見るために必要です。

ただし、店を今日も明日も開けるためには、現金の動きまで見なければ足りません。

罠1:キャッシュレス売上の入金は遅れてくる

個人飲食店で最初に起きやすいのが、入金と支払いのズレです。

現金払いなら、その場でレジにお金が入ります。

しかし、クレジットカード、QRコード決済、電子マネーでは、売上が立っても、実際の入金は後日になることがあります。

決済方法現金の入り方
現金その場で入る
クレジットカード決済会社の入金サイクル次第
QRコード決済サービスごとの入金日次第
グルメサイト経由決済手数料や入金タイミングに注意

たとえば、月商300万円のうち8割がキャッシュレスだったとします。

売上は300万円です。

でも、240万円分の入金が翌月以降なら、今月の口座にはまだ入っていません。

その間にも、仕入れ代、家賃、アルバイト代、水道光熱費は出ていきます。

売上はある
↓
でも入金はまだ
↓
支払いだけ先に来る
↓
現金が詰まる

これがキャッシュギャップです。

キャッシュレス比率が高い店ほど、入金サイクルを把握しておく必要があります。

罠2:減価償却で、帳簿と現金がズレる

開業時には、内装工事、厨房機器、空調、看板、家具、レジ、保証金などに大きなお金が出ていきます。

ここで理解しておきたいのが、減価償却です。

たとえば、内装や厨房設備に1,000万円使ったとします。

現金は、開業時に大きく減ります。

しかし、会計上はその全額を一度に経費にできるとは限りません。資産として扱い、耐用年数に応じて毎年少しずつ経費にすることがあります。

現金:開業時に1,000万円出ていく
会計:数年に分けて経費化される

このズレがあるため、帳簿上は利益が出ているように見えても、実際には開業時にかなり現金を使っていることがあります。

減価償却は会計上必要な仕組みです。

ただ、個人店の資金繰りを見るときは、「経費になったか」より「現金がいつ出たか」を確認する必要があります。

罠3:借入金の元本返済は経費にならない

開業時に融資を受けた場合、毎月返済が発生します。

ここでも、利益と現金がズレます。

借入返済のうち、利息は経費になります。

しかし、元本返済は経費になりません。

支払い会計上の扱い
借入利息経費になる
借入元本返済経費にならない

つまり、毎月20万円を返済していても、その全部が経費として利益を減らすわけではありません。

帳簿上は利益が残っている。

でも、口座からは返済で現金が出ていく。

ここを見落とすと、「利益は出たはずなのに、手元に何も残らない」という感覚になります。

個人飲食店では、月次の損益だけでなく、借入返済後の現金残高を見ることがかなり重要です。

罠4:黒字になるほど税金が後から来る

もう一つ怖いのが税金です。

利益が出るのは良いことです。

しかし、利益が出れば、所得税、住民税、個人事業税、消費税などの支払いが後から来ます。

特に、開業後に売上が伸びた店では、翌年以降の納税で資金繰りが急に重くなることがあります。

税金・負担注意点
所得税確定申告後に納付が必要
住民税翌年度に負担が出る
個人事業税業種や所得によって発生する
消費税課税事業者になると納付が必要
社会保険・労働保険人を雇う場合は確認が必要

国税庁は、個人事業者の消費税について、原則として課税期間は1月1日から12月31日までで、申告・納付期限は翌年3月31日までと案内しています。

ここで大事なのは、消費税は預かっている性格のお金だという感覚です。

売上と一緒に入ってきたからといって、全部を仕入れや生活費に使ってしまうと、納税時に現金が足りなくなります。

黒字になったら安心ではありません。

黒字になったら、税金用の現金を先に分けておく必要があります。

黒字倒産を防ぐ3つの防衛策

黒字倒産を防ぐには、利益計算だけでなく、現金の守りを作る必要があります。

最低限やりたいのは次の3つです。

防衛策内容
入金サイクルを確認するキャッシュレス、予約サイト、デリバリーの入金日を把握する
固定費数か月分の現金を残す家賃、人件費、生活費、返済を払える余力を持つ
資金繰り表をつける月初現金、入金、支払い、月末現金を毎月見る

特に大事なのは、資金繰り表です。

難しい表である必要はありません。

月初現金
+ 現金売上
+ キャッシュレス入金
− 仕入れ
− 人件費
− 家賃
− 水道光熱費
− 借入返済
− 税金
= 月末現金

これを毎月見るだけでも、店の危険度はかなり分かります。

月末現金が減り続けているなら、早めに打ち手が必要です。

値上げ、メニュー整理、営業時間の見直し、広告費削減、仕入れ条件の見直し、借入条件の相談。

現金が尽きてからでは、選択肢は一気に減ります。

飲食店の最低防衛資金はいくら必要か

資金繰りを守るうえで、最低限の防衛ラインを決めておくと判断しやすくなります。

個人飲食店なら、まずは固定費と生活費の3か月分を目安にしたいところです。

最低防衛資金
= 家賃
+ 人件費
+ 店主の生活費
+ 借入返済
+ 水道光熱費などの固定的支出
× 3か月

たとえば、毎月の支払いが次のような店を考えます。

項目月額
家賃20万円
人件費30万円
店主の生活費20万円
借入返済10万円
水道光熱費など10万円

この場合、毎月の固定的な現金流出は90万円です。

90万円 × 3か月 = 270万円

つまり、この店では最低でも270万円前後を「使ってはいけない現金」として残しておきたい、という感覚になります。

もちろん、業態や季節変動によって必要額は変わります。

夏と冬で売上が大きく変わる店、キャッシュレス比率が高い店、借入返済が重い店、人を多く雇う店は、3か月分では足りないこともあります。

大切なのは、通帳残高をすべて使えるお金だと思わないことです。

防衛資金を下回ったら、出店、内装追加、広告強化、新メニュー開発より先に、資金繰りの立て直しを優先した方がいいです。

通帳残高だけを見ても足りない

「通帳の残高を見る」は大事です。

ただし、残高だけを見て安心するのも危険です。

なぜなら、その残高の中には、これから払う税金、仕入れ、給料、家賃、返済に使うお金が含まれているからです。

見るべき順番はこうです。

通帳残高
− 今月中に払う固定費
− 仕入れ予定
− 給料
− 借入返済
− 税金の積立分
= 本当に使える現金

口座に100万円あっても、月末までに80万円の支払いがあるなら、自由に使えるお金は20万円です。

逆に、口座に50万円しかなくても、入金予定が確実で支払いが少なければ、すぐに危険とは限りません。

重要なのは、残高そのものではなく、入金予定と支払い予定を並べて見ることです。

まとめ:利益ではなく、現金が店を生かす

飲食店にとって、利益は大事です。

でも、利益だけでは店は続きません。

家賃を払うのも、仕入れをするのも、従業員に給料を払うのも、借入を返すのも、税金を納めるのも現金です。

黒字倒産を防ぐには、次の4つを毎月確認します。

利益は出ているか
↓
現金は残っているか
↓
入金より先に支払いが来ていないか
↓
税金と返済分を別に確保しているか

利益は会計上の数字に過ぎません。

家賃を払うのも、仕入れをするのも、従業員に給料を払うのも現金です。

経営者が守るべきものは、利益だけではありません。

通帳の残高と、その先の資金繰りです。

本記事は、飲食店経営の資金繰りを理解するための一般的な解説であり、個別の税務、融資、会計処理、法務判断を助言するものではありません。実際の申告、納税、借入、資金繰り改善については、税務署、税理士、金融機関、日本政策金融公庫などに確認してください。

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参考

本記事は、公開情報に基づいた教育的・情報提供のみを目的としており、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容や将来の投資成果を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけますようお願い申し上げます。