まず結論
エブリーは「レシピアプリ会社」と見ると実態を外します。売上の中心は、デリッシュキッチンの利用者接点を使い、食品メーカーや小売企業へ広告・販促・DX支援を提供するMarketing Solutionビジネスです。2025年6月期の売上構成比は74%。Consumerビジネスは10%にとどまります。
成長ストーリーは分かりやすい。レシピ検索や閲覧データに、店頭サイネージ、人流、POS購買データを重ね、広告が実売につながったかを示す。効果を確認できれば、広告主は単発案件から継続出稿、複数ブランド、複数ソリューションへ広げやすくなります。
ただし、「ユーザーが多いから買い」という話ではありません。広告事業は景気と予算配分に左右されます。上場直後は既存株主の売出しも多く、業績が良くても需給が株価を抑える場面はあり得ます。判断は、公開価格の安さより、黒字化後の利益率とキャッシュが続くかで分けたいところです。
企業概要と収益モデル
エブリーは2015年設立。主力のデリッシュキッチンを起点に、メーカー、小売流通、生活者をつなぐ食生活プラットフォームを運営しています。
| 事業 | 顧客 | 主な収益源 | 2025年6月期の売上構成比 |
|---|---|---|---|
| Marketing Solution | 食品・飲料メーカー、小売企業など | 広告配信、コンテンツ制作、小売DX支援 | 74% |
| Consumer | 個人ユーザー | プレミアム会員、EC・冷凍宅配食 | 10% |
| その他 | 法人顧客 | 受託制作・開発など | 16% |
Marketing Solutionでは、アプリやSNSのタイアップ広告、ディスプレイ広告、店頭サイネージのストアビジョン広告などを提供します。小売企業向けにはアプリ開発や保守運用も手掛けます。広告主からの配信・制作収入に加え、小売DXの開発・運用収入を得る構造です。
Consumerはプレミアム課金と冷凍弁当「ミールズ」など。こちらは生活者との関係を深める役割を持ちますが、現時点の利益評価では法人向け事業の伸びを先に見るべきです。
業績は赤字縮小から利益拡大へ移れるか
2024年6月期は売上高33.59億円、営業損失6.42億円。2025年6月期は売上高42.50億円まで増え、営業損失は0.24億円へ縮小しました。2026年6月期第3四半期累計は売上高38.30億円、営業利益3.23億円で黒字転換しています。
会社の2026年6月期予想は次の通りです。
| 指標 | 2025年6月期実績 | 2026年6月期会社予想 | 変化・見方 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 42.50億円 | 50.16億円 | 前期比18.0%増 |
| 営業損益 | 0.24億円の赤字 | 3.45億円の黒字 | 営業利益率6.9% |
| 経常損益 | 0.30億円の赤字 | 3.35億円の黒字 | 上場関連費用などを含む |
| 純損益 | 0.32億円の赤字 | 3.31億円の黒字 | 会社予想EPS16.88円 |
3Q累計の営業利益は通期予想の93.8%まで進んでいます。ただし、会社は第4四半期に大型顧客の受注減、人件費、上場手続き費用の増加を見込んでいます。高い進捗率だけを見て上振れを前提にするのは早い。ここからは売上より利益、利益よりキャッシュです。
成長性を支える4つの仕組み
大規模な生活者接点
2026年4月末時点で、デリッシュキッチンのアプリ・Web合算MAUは3,100万超、SNSフォロワーは1,300万超、プロコンテンツは5万7,000本超です。店頭サイネージも全国1万1,000台超へ広がりました。
注意したいのは、MAUがアプリとWebの重複を除いていない点です。リーチの大きさは確認できますが、実利用者数や広告価値をそのまま表す数字ではありません。利用頻度、広告接触、購買転換までつながって初めて収益力になります。
オンラインと店頭データの接続
レシピの検索・閲覧、ユーザー属性、食の嗜好に、店頭のPOS購買、人流、サイネージ視聴を組み合わせる構想です。食品は店頭購入の比率が高く、広告閲覧から購買までをつなげられれば、広告主にとって費用対効果を測りやすくなります。
これは競争優位になり得ます。ただし、会社資料の競合比較や「唯一」という表現は会社自身の評価です。優位性が本物かは、広告効果の再現性、利用できる小売データの範囲、競合が同様の計測基盤を構築する速度で検証する必要があります。
ロイヤル顧客へのアップセル
会社は年間取引額1,000万円以上の顧客を「ロイヤル顧客」と定義しています。ロイヤル顧客数は2024年6月期42社、2025年6月期62社、2026年6月期3Q累計66社へ増えました。全体の顧客単価も4.0百万円から5.3百万円へ上昇しています。
成長の筋は、新規顧客数を急増させるより、既存顧客から継続出稿を取り、複数ブランド・複数施策へ広げることです。これは営業効率を上げやすい半面、大口顧客の予算削減が業績に響きやすくなる構造でもあります。
リテールメディアとAIへの拡張
小売アプリでは決済、ポイント、チラシ、クーポンを統合し、広告枠と購買データを増やす構想です。「デリッシュAI」では、料理を決める前の曖昧な要望を取り込み、提案精度とユーザー体験の向上を狙います。
AIという見出しだけでは利益になりません。見るべきは、検索回数や継続率が上がったか、プレミアム課金につながったか、広告主向けのインサイトとして単価上昇に効いたかです。開発・推論コストを含め、利益貢献が数字に表れるまでは成長オプションとして扱うのが妥当です。
競争優位性はどこまで強いか
エブリーの強みは、メディア、広告制作、店頭配信、購買効果測定を一社でつなげられる点にあります。単なる広告枠販売より、広告主の認知から購買までを支援できれば、価格競争から離れやすくなります。
伊藤忠食品との提携も大きい。同社はエブリー株式の11.98%を保有し、サイネージの営業、設置、保守、広告販売で協業しています。食品卸の小売ネットワークにアクセスできるため、オンライン企業だけでは作りにくい店頭接点を持てます。
同時に、これは依存リスクです。提携条件や伊藤忠食品の方針が変われば、サイネージ事業の拡大速度と収益に影響します。競争優位と特定パートナー依存は表裏一体です。
公開価格230円の評価
公開価格230円と上場時発行済株式数2,073万8,108株から計算すると、時価総額は約47.7億円です。2026年6月期会社予想を基準にした単純な評価は、予想PER約13.6倍、予想PSR約1.0倍となります。
| 評価軸 | 公開価格ベース | 読み方 |
|---|---|---|
| 時価総額 | 約47.7億円 | 上場時発行済株式数ベース |
| 予想PER | 約13.6倍 | 会社予想EPS16.88円ベース |
| 予想PSR | 約1.0倍 | 会社予想売上高50.16億円ベース |
| 予想営業利益率 | 6.9% | 黒字化後の持続性が焦点 |
| 会社が掲げる時価総額目標 | 早期に100億円以上 | 業績予想ではなく経営上の目標 |
公開価格だけなら、黒字化する広告・DX企業として過熱感は強くありません。ただし、会社が掲げる100億円以上の時価総額は公開価格ベースの約2.1倍です。現在の純利益3.31億円のまま時価総額だけが100億円になれば、利益に対する評価は約30倍まで上がります。目標達成には、ロイヤル顧客、顧客単価、営業利益を同時に伸ばす証明が要ります。
また、公募110万5,300株に対し、売出しは481万5,100株、オーバーアロットメントは最大88万8,000株です。上場直後は事業評価だけでなく、既存株主の換金と新規投資家の需要が株価を動かします。公開価格の指標が低く見えても、需給が落ち着くまで評価は定まりません。
強気シナリオ
強気シナリオは、Marketing Solutionの売上が20%前後の成長を続け、販管費の伸びを抑えながら営業利益率を引き上げる展開です。
- ロイヤル顧客が増え、単発広告から継続出稿へ移る
- サイネージと小売アプリが増え、POSデータによる効果測定の範囲が広がる
- 複数ブランド・複数ソリューションへの横展開で顧客単価が上がる
- 売上増に対して人件費の伸びが緩やかとなり、営業レバレッジが効く
- Consumer事業とAI機能が利用継続や課金に寄与する
この形なら、エブリーは「知名度の高いレシピメディア」から「食品・小売の販促基盤」へ評価を変えられます。市場が高く評価するのはMAUではなく、データを使って広告主の継続予算を獲得できたときです。
弱気シナリオ
弱気シナリオは、広告市場が伸びてもエブリーの利益が残らない展開です。
- 景気減速や食品メーカーの予算見直しで広告出稿が鈍る
- 大口顧客の案件終了で四半期売上が振れる
- 広告代理店、食品卸、外部媒体への手数料が増え、粗利成長が鈍る
- サーバー、開発、人材採用の費用が先行し、営業利益率が低下する
- 個人情報・購買データの管理事故や広告案件の炎上で信用を損なう
- 伊藤忠食品との協業条件が変わり、サイネージ展開が遅れる
- 上場後の売り圧力が続き、好業績でも株価が反応しにくい
広告効果の可視化は魅力的ですが、一つの成功事例がすべての顧客で再現できるとは限りません。成果測定が案件ごとにばらつけば、継続出稿と単価上昇の前提が崩れます。
投資家が見るべきKPI
| KPI | 現在確認できる水準 | 次に見ること |
|---|---|---|
| Marketing Solution売上高 | 2026年6月期予想40.15億円 | 前期比27.7%増を達成できるか |
| ロイヤル顧客数 | 66社(3Q累計) | 通期・次期も増加するか |
| 顧客単価 | 5.2百万円(3Q累計) | 期間差を調整しても上昇するか |
| 営業利益率 | 通期予想6.9% | 黒字化後にさらに伸ばせるか |
| MAU | 3,100万超 | 重複を含む規模より利用頻度を見る |
| 店頭サイネージ | 1万1,000台超 | 設置台数が広告売上と利益につながるか |
| 営業キャッシュ・フロー | 3Q累計は未開示 | 利益と現金収入が一致するか |
特にロイヤル顧客数と営業利益率を並べて見たいところです。顧客数が増えても利益率が下がるなら、案件獲得コストや外部配信費が重い可能性があります。逆に、顧客単価と利益率が同時に上がれば、統合ソリューションの価値が数字で裏づけられます。
まとめ
「エブリーは買いか」という問いに、上場初日の株価が形成される前から一つの答えを置くのは適切ではありません。公開価格230円では、会社予想PER約13.6倍、PSR約1.0倍。指標だけなら手が届きやすく見えます。
事業の面白さは、デリッシュキッチンの知名度ではなく、オンラインの食行動と店頭購買をつなぎ、広告主へ成果を返す仕組みにあります。ロイヤル顧客の増加と黒字化は、その仮説を支える初期の証拠です。
まだ足りないものも明確です。通期決算、営業キャッシュ・フロー、上場後の顧客単価、営業利益率、そして需給の落ち着き。これらがそろえば「安いIPO」から「利益成長を評価できるリテールメディア企業」へ見方が変わります。そろわなければ、MAUと市場規模の大きさだけが先行した評価に戻ります。
関連ページ
出典
- 株式会社エブリー「事業計画及び成長可能性に関する事項」、2026年8月4日公表
- 株式会社エブリー「東京証券取引所グロース市場への新規上場承認に関するお知らせ」
- 株式会社エブリー「2026年6月期の業績予想について」、2026年6月30日公表
- 株式会社エブリー「会社情報」
- 株式会社エブリー「サービス」
- 日本取引所グループ「新規上場会社情報」
- 日本取引所グループ「新規上場会社概要 株式会社エブリー」、2026年6月30日公表
※MAU、SNSフォロワー数、レシピ本数、店頭サイネージ台数は2026年4月末時点。市場規模と競合比較は会社資料の推計・評価を含みます。