株式信用取引の国際比較 倍率だけでは比べられない 1 当初保証金 注文時に必要な自己資金 逆数で倍率を計算 2 維持率・追証 保有中に守る担保水準 当初倍率とは別の数字 3 会社独自基準 銘柄・集中度・信用審査 規制値より厳しくなる 同じ「140%」でも、何を分子・分母にするかで意味が変わる

まず結論

国別比較では、次の式を使える制度だけ倍率に直します。

総建玉倍率 = 株式の購入額 ÷ 投資家が当初負担する資金

購入額に対する保証金率が30%なら約3.3倍、50%なら2倍です。ところが、シンガポールのように「口座のエクイティ÷借入残高」、香港やオーストラリアのように「借入残高÷担保評価額」で管理する制度もあります。これらを保証金率と同じように逆数計算すると、実態と異なる倍率になります。

以下は、個人による上場株の信用買い・購入資金のマージン融資が対象です。先物、オプション、個別株CFD、レバレッジETF、空売り、IPO申込融資、資金使途を問わない一般的な証券担保ローンは除きます。

11の国・地域を比較

国・地域当初基準最大倍率の読み方維持基準・追証制度上の注意点
日本約定額の30%以上、かつ30万円以上約3.3倍法定最低20%証券会社がより高い保証金率・維持率を設定できる
米国原則50%2倍FINRA最低25%非適格株は100%。ハウスマージンは30~40%以上になることがある
中国本土融資保証金比率100%融資買付額は保証金相当まで取引所・証券会社基準2026年1月に80%から100%へ引き上げ。既存契約等は旧基準
台湾自己資金40%、融資60%2.5倍口座全体で130%130%未満は原則2営業日以内に不足額を補う
シンガポール証券会社・担保別一律値なしエクイティが借入残高の110%以下で追加担保140%の新規取引基準は2025年4月に削除
インドF&O対象Group I株はVaR+3×ELM、その他の対象株等はVaR+5×ELM必要証拠金率の逆数同率を維持し、値下がり分も徴収銘柄と相場で必要率が変わる
カナダReduced Margin対象株は30%対象株は約3.3倍銘柄区分・会社基準通常銘柄はより高率、信用不適格なら全額負担
韓国証券会社・商品・銘柄別全国一律値なし証券会社別例としてSamsung Securitiesは45~60%、維持率140~160%
香港証券会社が銘柄別に設定一律値なし証券会社が設定流動性・変動率・集中度に応じて掛目や融資枠が変わる
英国・EU契約・金融機関別共通倍率を算出しない契約・金融機関別個別株CFDのレバレッジ制限とは別の取引
オーストラリア貸し手がLVRを設定。一般例は上限70%LVR70%なら約3.3倍LVR超過でマージンコール銘柄別LVRとバッファーを確認する

表の「最大倍率」は、規制上の最低資金だけを置いた計算です。担保に株式を使う場合は評価額に掛目が入り、集中投資や値動きの大きい銘柄では借入可能額が下がります。実際に画面へ表示される余力は、この表より小さいことがあります。

数字を修正して読むべき国

中国本土:100%でも「現物だけ」とは限らない

上海・深圳・北京の各取引所は2026年1月、新規の信用買いに必要な融資保証金比率を80%から100%へ戻しました。保証金100に対して融資による買付額は100まで、という関係です。したがって「融資買付額÷保証金」は1倍ですが、差し入れた保証金も投資家の資産であるため、口座全体の総エクスポージャーをどう数えるかで見かけの倍率は変わります。

シンガポール:140%は現行の当初基準ではない

SGXの旧規則には、新規取引後のエクイティを借入残高の140%以上とする条文がありました。しかし、現行のSGX-ST Rule 3.10では、この当初基準に当たるRule 3.10.6が2025年4月1日付で削除されています。現在も、エクイティが借入残高の110%以下になった場合の追加担保・新規取引制限は残っています。

したがって、2026年7月時点で「シンガポールは規制上3.5倍」とするのは不正確です。実際の借入可能額は、証券会社の融資方針と担保の評価額で決まります。

インド:掛け算の位置で必要証拠金が変わる

インドの現行基準は、F&O対象のGroup I株が「VaR+3×ELM」、その他のGroup I株と株式ETFが「VaR+5×ELM」です。「(VaR+ELM)×3」ではありません。NSEの例ではVaR12.5%、ELM5%の対象株は当初27.5%となり、単純な総建玉倍率は約3.6倍です。維持率も同じ考え方で管理され、値下がりによる不足分は別途反映されます。

韓国:注文保証金と信用融資条件を混ぜない

韓国は銘柄別の委託保証金率が20~100%で表示されることがありますが、それだけで信用融資の最大倍率は決まりません。融資商品の保証金率、担保維持率、信用供与対象銘柄を証券会社ごとに確認する必要があります。2026年7月から全国一律40%になったわけではありません。

倍率より先に確認したい4項目

  • 率の定義:購入額に対する保証金か、借入残高に対する担保価値か
  • 会社の上乗せ:規制最低値より厳しい「ハウスマージン」がないか
  • 銘柄の掛目:低流動性株、低位株、集中保有で融資率が下がらないか
  • 強制売却の手順:追証期限、会社の裁量、通知なしで売却される条件

ここでつまずきやすいのが、「最大3.3倍まで使える」と「3.3倍で持ち続けられる」を同じ意味にすることです。限度いっぱいで買えば、小幅な下落でも維持率へ近づきます。金利や手数料も保証金余力を削るため、規制上限は安全な利用水準を示す数字ではありません。

まとめ

購入額に対する当初保証金だけなら、日本は約3.3倍、米国は2倍、台湾は2.5倍、カナダのReduced Margin対象株は約3.3倍と比較できます。中国は融資保証金比率100%、インドはVaRとELMによる変動制です。シンガポール、韓国、香港、英国・EU、オーストラリアは、単一の倍率だけで並べると誤解が生じます。

海外口座で実際に使うなら、国名よりも「口座契約・対象銘柄・担保掛目・追証期限」の4点を見る方が現実的です。制度や証券会社の条件は変わるため、発注前に最新の公式条件を確認してください。

出典

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