Strategy Note 2026.6.30 自動運転IPOをどう値付けするか 量産AIソフトウェア vs オープンエコシステム Momenta 量産車AI 搭載台数・ライセンス Capital Market 収益モデルを評価 赤字の中身を見る TIER IV Autoware基盤 社会実装・継続収益 技術競争からビジネスモデル競争へ

導入|2026年7月、自動運転市場は新たな評価フェーズへ

2026年7月、東アジアの自動運転業界で象徴的な出来事が起きます。中国のMomentaが7月8日に香港証券取引所へ、日本のティアフォーが7月22日に東京証券取引所グロース市場へ上場します。

これは単なるIPO日程の重なりではありません。

自動運転ビジネスの「収益化モデル」を、資本市場がどう評価するのかを映すイベントです。自動運転は長く、技術デモ、実証実験、レベル4解禁、AIモデルの進化といった言葉で語られてきました。けれど上場市場に出ると、問いはもっと冷たくなります。

売上になるのか。粗利が残るのか。継続収益になるのか。赤字をどこまで許容できるのか。

Momentaとティアフォーの同時期上場は、この問いに対する2つの答えを並べて見せています。

つまり今回のIPOは、「自動運転技術の優劣」ではなく、「どの収益モデルなら資本市場が長期赤字を許容するのか」を見るイベントでもあります。

1. 資本市場が評価したのは「技術」ではなく「収益モデル」

Momentaの目論見書では、Offer Price 295.60香港ドルベースの時価総額は約696億香港ドルです。一方、ティアフォーの想定時価総額は、想定発行価格1,015円ベースで約644.8億円です。

この差を、技術力の単純な優劣として読むのは危うい。

Momentaは、量産車向けソフトウェアをOEMへ供給し、車両販売台数に応じてライセンス収益を積み上げるモデルです。目論見書では、2025年12月末時点で累計170車種のノミネーション、SOP到達68車種、搭載台数68万台超を示しています。つまり、投資家は「すでに車に入っているソフトウェア」として評価しやすい。

ティアフォーは、Autowareを中心に、自治体、物流、公共交通、自動車メーカー、研究機関を結ぶオープンプラットフォーム型の会社です。自動運転EVバスの導入支援、OEM向け開発支援、ソフトウェアライセンス、政府委託を含むソリューション収入を組み合わせ、社会実装を進めています。

資本市場は、それぞれ異なる時間軸で企業価値を評価しています。

Momentaは、量産台数が増えればライセンス収入が積み上がる可能性を見られます。ティアフォーは、Autowareの採用が広がり、実証・導入支援が継続収益に変わるかを見られます。

同じ自動運転でも、投資家が買う物語は別物です。

2. 赤字は問題ではない。「何に投資しているか」が問われる

両社とも赤字企業です。ただ、赤字というラベルだけでは何も分かりません。

Momentaは2025年12月期に売上高2,412.5百万元を計上しました。前年比82.1%増です。一方で、同年の当期損失は3,457.9百万元でした。売上は伸びていますが、研究開発、株式報酬、優先株関連の評価損益などを含め、損益はまだ重い。

ティアフォーも、2026年9月期予想で売上高8,484百万円、営業損失11,239百万円を見込んでいます。研究開発費は9,550百万円。売上高を上回る研究開発投資を続ける計画です。

ここで投資家が見るのは、赤字の大きさだけではありません。

赤字が、将来の収益モデルに変わる投資なのか。

Momentaでは、搭載車種数、SOP到達モデル数、Urban NOA搭載台数、ライセンス収益の比率が重要になります。ティアフォーでは、Autoware採用企業、社会実装地域、レベル4商用案件、Solution Serviceの継続収益化が企業価値を左右します。

同じ赤字企業でも、市場が評価する指標はまったく異なります。売上より利益、利益よりキャッシュ。そしてその前に、赤字の中身です。

3. 二つのプラットフォーム戦略

両社の違いは、自動運転をどのような産業として捉えているかにも表れています。

Momentaは、自社AIを量産車へ深く組み込むモデルです。目論見書では、Mercedes-Benz、BMW Group China、Audi、Toyota、Honda、Dongfeng Nissanなど、24の主要OEMとの関係を説明しています。量産車に入るソフトウェアとして、車種が増え、搭載台数が伸びれば、収益機会も広がる。

これは、垂直統合に近い発想です。

OEMとの関係を深くし、車両プラットフォームに入り込み、Urban NOAなどの機能を量産車へ展開する。自動運転を「車に搭載されるAIソフトウェア」として捉えるモデルです。

一方、ティアフォーはAutowareというオープンソース基盤を軸に、多様な企業や自治体が参加できる水平分業型のエコシステムを構築しています。公共交通、物流、OEM開発、研究機関、政府プロジェクトをまたぐ形で、自動運転を社会インフラへ落とし込む会社と見るほうが近い。

競争力の源泉は、自社だけではありません。

Autowareを使う参加者が増え、車両、センサー、通信、保険、運行管理、自治体案件がつながるほど、ネットワーク効果が生まれます。この構図は、テクノロジー業界で繰り返されてきた「垂直統合型」と「オープンプラットフォーム型」の競争にも重なります。

どちらが正解かはまだ分かりません。量産車への組み込みは収益化が速い。一方、社会インフラ型は時間がかかるが、標準になれば強い。市場はこの時間差を価格に織り込みます。

4. IPO後に市場が注目するKPI

上場はゴールではなく、評価のスタートラインです。

Momentaで見るべきKPIは、搭載車種数、SOP到達モデル数、ライセンス収益比率、海外OEMへの展開です。特に、売上成長が開発サービスだけでなく、台数連動のライセンス収入へ移っているかが重要になります。

ティアフォーで見るべきKPIは、Autoware採用拡大、レベル4商用案件の増加、実装地域数、Development Serviceの顧客数、Solution Serviceのライセンス・継続収益化です。2026年9月期も営業赤字が大きいため、上場資金を使ってどこまで社会実装と収益化の橋を架けられるかが問われます。

見るKPIMomentaティアフォー
搭載・導入SOP到達車種、Urban NOA搭載台数実装地域数、商用レベル4案件
顧客基盤OEM数、海外OEM展開自治体、交通事業者、OEM、研究機関
収益化台数連動ライセンス収入ライセンス、保守、導入後の継続収益
費用研究開発費、販売費、株式報酬研究開発費、人員増、導入支援コスト
リスクWVR構造、香港テックIPO需給、OEM依存赤字継続、公募規模、社会実装の時間軸

両社を同じ「自動運転銘柄」として比較すると、見誤りやすい。Momentaは量産AIソフトウェアのスケールを、ティアフォーはオープンエコシステムの普及速度を見ます。

5. 日本株投資家にとっての読み方

日本株投資家にとって、ティアフォーのIPOはかなり見やすいテーマです。自動運転、AI、SDV、公共交通の人手不足、物流省人化。言葉だけなら、どれも強い。

ただし、テーマが強いIPOほど、上場後は数字で冷やされることがあります。

ティアフォーの想定吸収金額は、オーバーアロットメントを含めて約250.0億円です。東証グロースIPOとしては軽くありません。2026年9月期予想では営業損失が売上高を上回り、研究開発費も大きい。初期の株価形成では、自動運転テーマへの期待と、公募規模・赤字幅への警戒がぶつかります。

ここでMomentaとの比較が役に立ちます。

市場は自動運転企業に対して、単に「すごい技術」を求めているわけではありません。車に搭載されているのか。継続課金になるのか。導入後に粗利が残るのか。公共交通や物流の現場で、実証から商用運用へ進むのか。

ティアフォーを見るなら、Autowareの理念だけでなく、Development ServiceとSolution Serviceがどれだけ量産・継続収益へ近づくかを見たいところです。

結論|市場が値付けするのは「AI」ではなく「産業構造」

2026年7月の二つのIPOは、自動運転技術そのものの優劣を競うイベントではありません。

量産車への搭載を軸にソフトウェアを収益化するモデルと、社会インフラとして自動運転基盤を普及させるモデル。そのどちらがより持続的な価値を生み出すのかを、資本市場が価格という形で示す最初の機会です。

だからこそ、この二つのIPOは単なる新規上場ではありません。自動運転産業が「技術競争」から「ビジネスモデル競争」へ移行したことを象徴する節目です。

上場後に見るべきものは、株価の初値だけではない。Momentaなら搭載台数とライセンス収益、ティアフォーならAutowareの採用拡大と継続収益化。そこに答えが出てきます。

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