長鑫科技の科創板上場とDRAMサイクル 発行価格、2025年PER、2026年上期利益とDRAM市況の評価軸 長鑫科技(CXMT)科創板上場 DRAM特需をどこまで織り込むか 2026年7月27日 / 証券コード 688825 発行価格 8.66元 2025年実績PER 308.92倍 上期年率換算PER 約5倍台 低PERではなく、シクリカルなピーク利益の可能性を見る kabutrack.com

まず結論

長鑫科技は、中国のDRAM国産化を担う戦略企業であり、2026年上期には売上高と利益が急拡大する見通しです。発行価格だけを2026年上期の利益と比べれば、割高感はほとんど見えません。

しかし、ここでPERの低さをそのまま割安さと読むのは危険です。

DRAM企業は、市況の上昇局面で販売価格、稼働率、在庫評価が同時に改善します。固定費の大きい製造業であるため、売上高の伸び以上に利益が増え、PERは急低下します。逆に市況が反転すると、利益が急減してPER自体が意味を失うことがあります。

長鑫科技の投資評価で見るべきものは、2026年上期の利益額ではなく、次の四点です。

  • DRAM価格の上昇が2026年下期以降も続くか
  • 価格効果を除いても歩留まりと稼働率が改善しているか
  • 設備投資と減価償却を営業キャッシュフローで吸収できるか
  • 米国規制下でも装置、材料、技術の更新を続けられるか

上場直後は低い流通比率と高い申込倍率が株価を押し上げる可能性があります。ただし、それは企業価値の確定ではなく、初期需給による価格形成です。今回のIPOは「成長株」よりも、利益変動の大きいメモリー株として評価する必要があります。

上場条件

長鑫科技は2026年7月27日、上海証券取引所の科創板へ上場します。証券コードは688825です。

項目内容
発行価格8.66元
発行株式数約66.88億株
上場後発行済み株式数約668.81億株
上場時時価総額約5,791.88億元
手取り調達額約576.38億元
2025年実績基準の発行後PER308.92倍
発行後PBR5.06倍
上場初期の無制限流通株約45.03億株、総株式数の6.73%

超過配售選択権が全額行使された場合、発行株式数は約76.91億株、手取り調達額は約663.10億元となります。

当初の募集資金計画は295億元でしたが、最終的な発行価格と発行株式数に基づく手取り額は約576億元まで膨らみました。2025年売上高617.99億元の約93%に相当する大規模な資金調達です。

上場公告書では、資金使途として量産ラインの高度化、DRAM技術の更新、次世代技術の研究開発が示されています。メモリー製造では工場、装置、研究開発への継続投資が必要なため、調達額の大きさは技術ロードマップの実行力に直結します。

2026年上期は売上高7倍へ

会社が示した2026年1~6月期の業績予想は、上場時の評価を大きく変える内容です。

項目2025年上期2026年上期予想
売上高154.38億元1,100~1,200億元
純利益▲40.88億元660~750億元
親会社株主帰属利益▲23.32億元500~570億元
調整後親会社株主帰属利益▲23.87億元520~580億元

売上高は前年同期比612.53~677.31%増、前年の約7.1~7.8倍になる見通しです。2025年通期売上高617.99億元と比べても、2026年上期だけで約1.8~1.9倍を稼ぐ計算になります。

会社は増収・黒字転換の理由として、DRAM業界の需給改善、製品価格の上昇、事業規模の拡大を挙げています。

一方、この上期予想は監査法人による監査やレビューを受けておらず、利益予想や業績保証ではありません。さらに会社は、現在のDRAM価格が高位にあり、需要の伸びが供給能力の増加を下回れば、上期の大幅増益が持続しないリスクを明記しています。

PER308倍と5倍台が同居する理由

発行価格8.66元に対する2025年実績基準の発行後PERは308.92倍です。上場公告書に記載された業界平均76.32倍、比較企業平均134.62倍を大きく上回ります。

一方、2026年上期の親会社株主帰属利益500~570億元を単純に2倍すると、年率換算利益は1,000~1,140億元です。

上場時価総額5,791.88億元 ÷ 年率換算利益1,000~1,140億元
= 約5.1~5.8倍

2025年実績では約309倍、2026年上期の年率換算では約5倍台になります。

これは、わずか半年で企業価値が割安になったことを意味しません。比較する利益の局面が違いすぎるためです。2025年は黒字転換直後、2026年上期はDRAMの供給不足と価格上昇が強く反映された局面です。

メモリー株では、好況期のPERが最も低く、不況期のPERが最も高く見えることがあります。通常の成長株とは逆に、低PERが市況ピークへの警戒信号になる場合があります。

株価別の簡易評価

2026年上期利益を単純に年率換算した場合の株価別PERは、次の通りです。

株価発行価格比時価総額年率換算PER推定PBR
8.66元発行価格約5,792億元約5.1~5.8倍5.06倍
12.99元50%高約8,688億元約7.6~8.7倍約7.59倍
17.32元2倍約1兆1,584億元約10.2~11.6倍約10.12倍
25.98元3倍約1兆7,376億元約15.2~17.4倍約15.18倍

この表は株価水準ごとの期待の強さを測る感応度分析であり、適正株価を示すものではありません。利益を上期水準のまま年率換算しているため、市況が反転すればPERは急上昇します。

比較企業の平均PBRは9.30倍です。単純計算では15.9元前後で同水準になりますが、比較対象にはサムスン電子、SKハイニックス、マイクロンだけでなく、TSMCや中芯国際など事業構成の異なる企業も含まれます。平均値への収れんを前提にすることはできません。

強気材料

中国DRAM国産化の戦略企業

DRAM市場はサムスン電子、SKハイニックス、マイクロンを中心とする寡占市場です。長鑫科技は、中国国内でDRAMの国産化を担う数少ない大規模メーカーです。

株主には国家集積回路産業投資基金二期、安徽省・合肥市に関係する投資主体などが入っています。国家資本と地方政府の支援は、巨額設備投資を長期間続けるうえで強みになります。

ただし、政策的重要性はプレミアムの根拠になる一方、米中摩擦の対象になりやすい理由でもあります。政策支援と地政学リスクは、同じ構造の表裏です。

576億元の調達で増産と技術更新を加速

今回の手取り調達額は約576.38億元です。超過配售選択権の全額行使時には約663.10億元へ増えます。

この資金は、生産能力の拡大だけでなく、製造プロセス、歩留まり、高性能DRAM、次世代メモリーの研究開発に使われます。調達後に見るべきなのは設備投資額そのものではなく、投資1元当たりの増産効果、歩留まり改善、製品単価の上昇です。

上場初期の流通比率は6.73%

上場初期に売買可能な株式は約45.03億株で、発行後総株式数の6.73%にとどまります。オンライン申込の初期有効倍率も約243.93倍でした。

低い流通比率と強い申込需要は、上場初期の需給を引き締める要因です。ただし、流通株時価総額は発行価格でも約390億元あります。小型IPOのように少額の資金だけで価格が維持される規模ではありません。

五つの主要リスク

1. DRAM価格は典型的な循環商品

上場公告書によると、DRAM価格は2015~2025年に1GB当たり1.78~7.89ドルの範囲で動きました。長鑫科技の主要DRAM製品の平均販売価格は、2024年に前年比55.08%、2025年に33.69%上昇しています。

2026年上期の利益急増は、この価格上昇に大きく依存しています。AI投資の減速、クラウド企業の設備投資縮小、海外大手の増産、PC・スマートフォン需要の低迷が重なると、需給は反転し得ます。

2. 固定資産と減価償却が重い

2025年末の固定資産は約1,830.24億元で、総資産の54.34%を占めます。2025年の減価償却費は約246.80億元でした。

価格上昇時には大規模設備が利益を押し上げますが、市況が悪化しても減価償却費は残ります。2023~2025年の親会社株主帰属利益は、▲163.40億元、▲71.45億元、18.75億元と大きく変動しました。

2025年末には約366.50億元の累積未処理損失があり、会社は短期的に現金配当できない可能性も示しています。

3. 在庫評価損が利益を揺らす

2025年末の在庫残高は約293.90億元です。DRAM価格が製造原価を下回れば、在庫評価損が発生します。

DRAM不況だった2023年には約115億元の在庫評価損が計上されました。現在の価格が高いほど、反落時には在庫評価への警戒が必要です。

4. 重要子会社への経済持分が低い

長鑫科技は重要子会社の長鑫新橋を直接・間接に30.68%、長鑫集電を31.72%保有しています。一致行動契約を通じた議決権はそれぞれ73.01%、75.32%で、両社を連結しています。

ただし、子会社利益のすべてが長鑫科技株主に帰属するわけではありません。2026年上期も純利益660~750億元に対し、親会社株主帰属利益は500~570億元です。評価には連結純利益ではなく、親会社株主帰属利益を使う必要があります。

5. 米中摩擦と輸出規制

米国国防総省は2026年6月8日、国防権限法1260H条に基づく中国軍関連企業リストへ、長鑫科技の子会社である長鑫存儲を追加しました。

会社は現時点で日常的な生産活動や継続企業としての能力に重大な悪影響はないと説明しています。ただし、1260Hリストと輸出管理上のエンティティー・リストは別制度です。今回の指定だけで米国製品の輸出が直ちに全面禁止されるわけではありません。

それでも今後、装置、部品、材料、EDA、保守サービスへの規制が強化されれば、微細化と量産計画に影響する可能性があります。

上場初日の需給

科創板のIPO銘柄は、上場後最初の5営業日に値幅制限がありません。6営業日目以降は原則として前日比20%の値幅制限が適用されます。

長鑫科技は上場初日から信用取引・貸借取引の対象となります。買い需要だけでなく売り需要も入り得るため、低い流通比率が必ず上昇につながるわけではありません。

上場後30日間は超過配售選択権、いわゆるグリーンシューが設定されています。主幹事証券は市場価格が発行価格を下回る局面で買い戻しを行う可能性がありますが、8.66元での価格維持を保証する制度ではありません。

市場が初日に試すのは、中国半導体国産化への期待だけではありません。約5,792億元という巨大な時価総額を、A株市場がどの価格まで受け入れられるかです。初値が大きく上昇するほど、上期利益の持続を先に織り込むことになります。

投資家が見るべきKPI

KPI確認する意味
DRAM平均販売価格利益増加のうち市況要因を測る
出荷量と稼働率増産と規模効果の進捗を見る
粗利率価格、歩留まり、製品構成を総合確認する
DDR5・LPDDR5/5X比率高付加価値品への移行を測る
設備投資と減価償却費将来成長と固定費負担を比較する
営業キャッシュフロー会計利益が投資資金に変わっているかを見る
在庫残高と評価損市況反転の兆候を確認する
親会社株主帰属利益少数株主利益控除後の価値を測る
装置・材料の調達状況米国規制の実務的影響を追う

特に重要なのは、2026年7~12月期の粗利率と親会社株主帰属利益です。上期に近い水準を維持できれば、価格上昇以外の改善も評価しやすくなります。反対に、販売価格の横ばいにもかかわらず利益率が急低下するなら、上期利益の年率換算は成立しません。

リスクシナリオ

強気シナリオ

AIサーバー、DDR5、LPDDR5/5Xの需要が続き、DRAMの供給不足が2027年まで長期化する。長鑫科技は増産と歩留まり改善を同時に進め、海外大手との差を縮めます。上期の利益が一時的な価格効果だけではないと確認されれば、国産化プレミアムを維持しやすくなります。

中立シナリオ

DRAM価格の上昇は鈍化するものの、出荷量と製品構成の改善が補う。2026年下期利益は上期を下回っても黒字を維持し、調達資金による設備投資が次の製品世代へつながります。この場合、上期年率換算PERより高い正常利益ベースの評価へ移ります。

弱気シナリオ

海外大手の増産とAI投資の減速が重なり、DRAM価格が反落する。高い減価償却費と在庫評価損が利益を圧迫し、2026年上期の利益が市況ピークだったと判明します。米国規制が装置や材料調達へ広がれば、増産と技術更新も遅れます。

強気シナリオの反証条件は、平均販売価格の下落前から粗利率が低下すること、設備投資に対して出荷量や歩留まりが伸びないことです。弱気シナリオの反証条件は、価格上昇が一服しても営業キャッシュフローと親会社株主帰属利益が安定することです。

まとめ

長鑫科技は、中国DRAM国産化を象徴する大型IPOです。発行価格8.66元に対し、2025年実績PERは308.92倍ですが、2026年上期利益を年率換算すると約5倍台まで下がります。

この落差は割安さより、DRAM事業の利益変動の大きさを示しています。

上場直後は、流通比率6.73%、約244倍の申込倍率、半導体国産化への期待が需給を支える可能性があります。しかし株価が上昇するほど、市場はDRAM特需の継続と高い利益率を先に織り込みます。

上場後に見るべきなのは初値ではなく、2026年下期の平均販売価格、粗利率、営業キャッシュフロー、在庫評価、親会社株主帰属利益です。長鑫科技が「政策テーマを持つDRAM企業」から「市況悪化時にも利益を残せるメーカー」へ進めるかは、次の下落局面で初めて明確になります。

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