10月時点で、どこまでの件数が分かるか

「2026年の不正アクセス件数」を調べる際は、資料の公表年と被害の発生年を分けます。令和8年警察白書の統計資料にある不正アクセス認知件数の推移は、令和3〜7年、つまり2021〜2025年が対象です。

統計・資料対象期間確認できた数字数字の意味
金融庁・証券会社等の不正アクセス2026年1〜8月1,492件証券会社等から報告された発生日ベースの暫定値。当サイトが月別値を合計
同資料の不正取引2026年1〜8月779件不正アクセスのうち、不正取引まで行われた件数
警察庁・ランサムウェア被害2026年上半期123件半期として過去最多の被害報告件数。証券口座統計とは別
警察庁・不正アクセス行為の認知件数2025年通年7,190件2026年3月に公表された前年の全国認知件数

2026年1〜10月の全国不正アクセス認知件数は、今回確認した公表資料では確認できませんでした。2025年の7,190件を2026年の被害件数として使うことも、上の異なる統計を足して「総被害件数」にすることもできません。

2026年1〜10月の月別状況:証券口座は8月まで確認

金融庁が2026年9月9日に更新した資料の数値を使用します。9月と10月は、今回確認した同資料に月別値が掲載されていません。10月は記事確認日現在、月の途中です。

月2025年の不正アクセス2026年の不正アクセス前年同月比
1月144件330件+129.2%
2月97件217件+123.7%
3月2,321件158件−93.2%
4月5,490件337件−93.9%
5月3,404件222件−93.5%
6月1,864件171件−90.8%
7月1,099件18件−98.4%
8月1,448件39件−97.3%
9月325件同資料に掲載なし比較できず
10月778件月の途中・同資料に掲載なし比較できず
1〜8月合計15,867件1,492件−90.6%

前年同月比は当サイト計算。2025年9月・10月は参考値で、2026年の値が未確認のため、1〜8月合計には含めません。

同期間の比較2025年2026年増減
証券会社等の不正アクセス・1〜8月15,867件1,492件90.6%減
同・不正取引・1〜8月9,015件779件91.4%減
ランサムウェア被害・上半期116件123件7件増・約6.0%増

証券口座統計は両年とも同じ2026年9月9日版で集計しました。ランサムウェアの比較は警察庁の公表資料による別統計で、証券口座の件数とは合算しません。

件数は被害者数や被害企業数と同義ではありません。また、不正取引件数は不正アクセス件数に含まれるため、1,492件と779件を合算しません。

金融庁の原表末尾には不正アクセス19,207件という「合計」もありますが、これは2025年分を含む掲載期間全体の合計です。2026年だけの合計は、1〜8月を足した1,492件です。暫定値は追加報告などで修正されるため、過去の発表版と最新の発表版を混ぜずに集計します。

分析1:証券口座では前年同期比90.6%減、8月は増加

同じ2026年9月9日版の資料で比べると、2025年1〜8月の不正アクセスは15,867件、2026年1〜8月は1,492件です。減少率は次の式で計算しました。

(15,867 − 1,492)÷ 15,867 × 100 = 約90.6%

2026年は4月の337件が1〜8月で最多。7月には18件まで減りましたが、8月は39件となり、前月から21件増えています。不正取引も5件から25件へ増え、不正取引が発生した証券会社等は1社から4社になりました。

ここからは分析です。 2026年1月・2月は前年同月より多く、3月以降は前年を大きく下回っています。累計90.6%減には、2025年3〜5月に被害が集中して比較対象が大きくなったことも表れています。全ての月で一様に減ったわけではありません。前年の大きな被害集中局面に比べ、証券口座の報告件数は減っています。一方、8月の再増加を踏まえると、単月の減少だけで被害の収束を判断するのは早計です。9月以降の月別値と、過去月の修正値を継続して追う必要があります。

金融庁は、証券会社等でパスキー認証などフィッシングに耐性のある多要素認証の必須化が進められていると説明しています。ただし、この集計だけでは、件数減少のうちどれだけが認証強化の効果かを切り分けられません。

分析2:証券口座の減少を、サイバー被害全体に広げない

警察庁の2026年上半期のランサムウェア被害報告件数は123件で、半期として過去最多です。証券会社等の不正アクセスが減る一方で、別の集計対象では被害が高水準にあります。

証券口座の不正アクセスと、企業・団体へのランサムウェア攻撃では、被害の形も対策も異なります。前者ではアカウント情報の窃取や不正取引、後者ではシステム停止や復旧対応が問題になります。全国のサイバー被害が一律に減った、または一律に増えたと、片方の数字だけから結論付けることはできません。

センサーが観測する脆弱性探索などの不審なアクセスも、侵入が成功した被害件数とは別です。「アクセス」「認知」「被害報告」「漏えいした情報の件数」を区別すると、ニュースの規模を読み違えにくくなります。

分析3:売買金額は被害者の損失額ではない

金融庁は、不正取引の売却金額と買付金額について、被害口座内で行われた取引額の合計であり、顧客の損失額とは一致しないと説明しています。同じ口座で不正取引が繰り返されると、その売買金額が累積します。

企業の情報漏えいでも、対象となる情報の件数を、攻撃の回数や金銭的損失にそのまま置き換えることはできません。投資家が企業の被害公表を読むときは、次の項目を確認すると影響を整理できます。

  • 事業停止の範囲と期間:受注、出荷、決済など、どの業務が止まり、いつ再開したか。
  • 調査・復旧・補償費用:確定額と見積額、未算定の費用を区別する。
  • 情報流出の確度と範囲:確認済みの流出と、流出の可能性を調査中の情報を分ける。
  • 業績への影響と追加開示:業績予想の修正、顧客対応、再発防止策の公表を追う。

全国の統計から個別企業の損失額や株価変動を直接推定することはできません。公表時点で分からない影響は、追加開示を待って評価します。

2026年の企業リスク:infoQの事例で見る停止と補償

GMOリサーチ&AIは2026年10月5日、アンケートサイト「infoQ」への不正アクセスと会員情報の持ち出しを公表しました。使用していたソフトウェアの脆弱性が悪用され、10月3日からサービスを停止しています。対象となる情報は最大94万8,498件で、一部会員のポイント不正交換611件・286万9,500円を確認し、全額補填する方針です。

停止に伴い受託調査の一部にも影響が出ています。同社は、今回の対象に取引先情報は含まれず、infoQ以外のサービスへの不正アクセスも確認されていないと説明しています。以上は10月5日の公表内容で、調査・再開状況は追加発表で確認する必要があります。

この事例からの分析として、企業が負う負担は、確認された不正交換額だけでは収まりません。業務停止による納期や売上への影響、専門会社の調査・復旧費用、会員対応などが論点になります。ただし、その総額や将来の顧客離れは同資料から算定できず、発生額を推測で加算しません。最大94万8,498件は情報の対象件数であり、不正アクセスの発生件数でも、全件の漏えいが個別に確定した人数でもありません。

2026年の企業対策を考えるうえでは、次の4つが事業継続と費用管理の論点です。以下は統計的な順位ではなく、本記事の分析上の整理です。

企業が確認する問題業務・収益への影響対応体制で確認すること
公開サービスの脆弱性情報持ち出し、サービス遮断資産の把握、更新の適用、診断、防御設定
認証情報の悪用口座・管理画面の不正操作認証強化、権限制限、ログ監視
停止後の復旧納期遅延、受注・顧客対応の停滞バックアップからの復元検証、代替業務、連絡体制
委託先・クラウド・生成AI利用の管理自社で把握しにくい経路からの情報流出リスク契約・責任分担、利用状況と持ち出し情報の把握

セキュリティー関連3銘柄:需要を売上と利益に分けて読む

下表は事業内容と本記事で確認した開示の比較です。トレンドマイクロとデジタルアーツは決算実績、サイバーセキュリティクラウドは事業・製品の開示を基に分析しています。決算期間が異なるため、金額の単純な横並びで優劣を決めません。

銘柄・市場主な事業・製品今回確認した材料分析上の確認点
トレンドマイクロ(4704・プライム)法人向けTrendAI Vision One、個人向けセキュリティー2026年1〜6月の売上高11.0%増、営業利益23.5%減契約成長とクラウド・AI関連費用の釣り合い
デジタルアーツ(2326・プライム)i-FILTER、m-FILTER、Z-FILTER2026年4〜6月の売上高19.4%増、営業利益30.2%増契約残高の売上化、企業と公共の需要構成
サイバーセキュリティクラウド(4493・グロース)攻撃遮断くん、WafCharm、SIDfm、CloudFastenerWeb防御、WAF運用、脆弱性管理、クラウド監視を展開継続課金の伸び、顧客単価、運用・開発費用

トレンドマイクロ:増収でも営業利益は減少

2026年12月期上半期の連結売上高は1,485億9,600万円、営業利益は217億9,200万円。前年同期から売上高は11.0%増えた一方、営業利益は23.5%減りました。会社は人件費、AIトークンコストを含むクラウド関連費用、新ブランド推進費用などの増加を説明しています。

会社が重視するARR(年間の継続収益)は為替影響を除いたベースで前年同期比5%増でした。Vision Oneの成長と、非Vision One製品のARR減少が混在しています。8月13日には通期営業利益予想を564億円から444億円へ下方修正しました。

分析: セキュリティー需要の拡大は売上の支えになりますが、AI活用や運用基盤の費用も増えています。営業利益率は当サイト計算で前年上半期の約21.3%から約14.7%へ低下。次の決算では、ARRの成長と費用増加率、利益予想に対する進捗を合わせて読みたい銘柄です。

デジタルアーツ:契約増と売上計上の時間差を見る

2027年3月期第1四半期、すなわち2026年4〜6月の連結売上高は27億1,100万円、営業利益は10億3,500万円。契約高は34億9,800万円で前年同期比51.7%増でした。会社は、企業向けのクラウド案件、GIGAスクール構想第2期、省庁向け案件などの獲得を説明しています。

クラウドサービスは契約期間にわたり売上を計上するため、契約高の伸びが同じ四半期の売上高に全て表れるわけではありません。また、企業向けの契約高は15.5%増で、全社の51.7%増と区別して読む必要があります。

分析: 契約残高の積み上がりは将来の売上基盤を評価する材料です。一方、全社成長を企業の不正アクセス対策需要だけに帰することはできません。公共・教育案件の時期、契約更新、通信費や開発費も確認します。営業利益率は当サイト計算で約38.2%ですが、費用の増減や案件構成を見ずにその水準が続くと仮定しないことが大切です。

サイバーセキュリティクラウド:Web防御から継続的な運用まで

同社の公式資料によると、「攻撃遮断くん」はWebサイトへの攻撃対策、「WafCharm」はWAFの運用支援を担います。WAFはWebアプリケーションへの通信を検査する防御機能です。このほか、脆弱性情報の管理を支援する「SIDfm」、AWSのセキュリティーサービスを24時間365日管理・運用する「CloudFastener」を展開しています。

分析: 公開Webサービスの防御と、人手が必要な運用の支援を合わせて見られる銘柄です。契約数だけでなく、既存顧客への追加販売、顧客単価、解約、監視・サポートに伴う費用が、継続収益と利益率の確認点になります。本稿では事業構造の分析に限定し、直接確認できなかった直近決算の数値は掲載していません。

infoQの事例と同社の製品領域にはWeb防御という接点がありますが、当該事案で同社製品の利用有無は確認していません。特定の製品を導入していれば被害を防げた、と断定することはできません。

銘柄選びでは「需要・利益・株価評価」を順に確認

3社を比較すると、同じテーマでも収益の表れ方に違いがあります。トレンドマイクロは利益率と費用管理、デジタルアーツは契約残高と市場別の成長、サイバーセキュリティクラウドはWeb防御・運用サービスの継続収益が、分析の入口になります。

決算実績で事業の伸びを確認した後は、その成長が株価にどこまで織り込まれているかを検討します。利益が出ている会社では予想PERと利益予想の信頼性、継続課金型の事業ではARRの伸びと利益率・キャッシュ創出を組み合わせて比較します。単一の評価倍率だけでは、成長性や費用構造の違いを捉えきれません。

本稿は直近株価やPERを算出しておらず、3銘柄の割安順位を決めたものではありません。被害ニュースの増加だけを買い材料にするのではなく、契約の獲得、売上計上、費用負担、利益予想、株価評価までつなげて判断するための分析です。

口座を守るため、今確認したい設定

金融庁の注意喚起に沿って、証券口座では次の設定と利用方法を確認しておきたいところです。

  1. 証券会社が提供するパスキーなど、フィッシングに耐性のある認証方式を設定する。
  2. ログイン・取引・出金などの多要素認証と通知機能を有効にする。
  3. メールやSMSのリンクを使わず、登録済みの正しいブックマークからアクセスする。
  4. パスワードを使い回さず、口座の取引履歴と登録情報をこまめに確認する。

身に覚えのないログインや取引がある場合は、利用する証券会社等の窓口への連絡が先決です。

10月時点での判断材料は、公表済みの件数の推移と、自分の口座・保有企業の対応です。未公表月を補完した年間推計は使わず、対象期間が明示された公式データで確認します。

出典