住宅ローン・家計財務攻略シリーズ

このシリーズでは、住宅ローンを「借りられる金額」ではなく、家計のキャッシュフローとリスク管理の視点から整理していきます。

年収倍率で予算を決めると危ない

住宅購入の現場では、「年収の7倍まで」「ペアローンなら年収の10倍近くまで」といった話を聞くことがある。

しかし、年収倍率だけで予算を決めるのはかなり粗い。

同じ年収700万円でも、家計の余裕は世帯によってまったく違う。

違い家計への影響
子どもの人数教育費、保育料、習い事、進学費用が変わる
車の有無維持費、保険、駐車場代、買い替え費用が変わる
年齢定年までの返済期間、老後資金の準備期間が変わる
共働き継続片働き化、育休、介護、転職リスクが変わる
貯蓄額収入減や金利上昇への耐性が変わる

つまり、予算は年収から決めるものではない。

家計が毎月いくらまでなら安全に返せるか。その出口から逆算するほうが、住宅ローンでは現実的である。

最大借入額を出す3ステップ

住宅ローンの最大借入額は、次の順番で考える。

1. 手取り月収から毎月の安全な返済額を決める
2. 逆算に使う金利を決める
3. 返済額・金利・返済期間から借入額を逆算する

1. 毎月の安全な返済額を決める

前回記事の考え方では、住宅ローン返済額は手取り月収の20〜25%以内を目安にしたい。

たとえば手取り月収45万円の世帯なら、次のようになる。

返済比率毎月返済額
20%約9.0万円
25%約11.3万円

この金額は、ローン返済だけの目安である。管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険、修繕費の積立は別に見ておきたい。

2. 金利を保守的に置く

借入額を逆算するとき、現在の最低金利だけで計算すると借り過ぎになりやすい。

変動金利で借りる場合でも、安全な予算を決める段階では、将来の上昇を見込んで1.5%程度でストレスをかけておくほうがよい。

固定金利の場合は、実際に適用される固定金利で計算する。この記事では、2026年6月時点のフラット35水準を意識し、固定金利の目安として3.2%を使う。

金利タイプ逆算に使う金利の例考え方
変動金利1.5%当初金利ではなく、上昇後も耐えられるかを見る
固定金利3.2%返済額が固定される前提で、現実の水準に近い金利を見る

3. 返済額から借入額を逆算する

次の表は、返済期間35年、元利均等返済、ボーナス払いなしで試算した最大借入額の目安である。手数料、保証料、団信差額、税金、繰上返済は含めていない。

毎月の安全な返済額変動金利を想定する場合(1.5%で試算)固定金利を想定する場合(3.2%で試算)
8万円約2,610万円約2,020万円
10万円約3,270万円約2,530万円
12万円約3,920万円約3,030万円
15万円約4,900万円約3,790万円
18万円約5,880万円約4,540万円
20万円約6,530万円約5,050万円

ここで大事なのは、固定金利で安全に借りる場合、借入可能額がかなり下がることだ。

毎月12万円を返済上限にすると、変動金利を1.5%で見積もった場合は約3,920万円、固定金利3.2%では約3,030万円になる。差は約890万円ある。

この差は、固定金利が悪いという意味ではない。固定金利は返済額を確定させる代わりに、最初から高い金利を払う。その分、同じ毎月返済額で借りられる元本が小さくなる。

借入額と物件価格は同じではない

早見表で出した金額は、あくまで住宅ローンの借入額である。

そのまま「買える物件価格」になるわけではない。

実際の購入可能額は、次のように考える。

購入可能額 = 住宅ローン借入額 + 自己資金 - 諸費用

住宅購入では、登記費用、ローン手数料、火災保険、仲介手数料、修繕積立基金、引っ越し費用などがかかる。目安として、諸費用は物件価格の5〜10%程度を見ておきたい。

たとえば、安全な借入額が3,500万円、自己資金が300万円、諸費用が200万円なら、物件価格の上限はおおむね3,600万円である。

3,500万円 + 300万円 - 200万円 = 3,600万円

借入額だけを見て3,800万円の物件を選ぶと、諸費用分の現金が足りなくなる。足りない分を追加借入や家具家電ローンで埋めると、家計の固定費はさらに重くなる。

住宅購入では、「ローンで借りられる金額」と「物件に使ってよい金額」を分けて考えたい。

年収700万円の家計で見ると現実はかなり厳しい

額面年収700万円、手取り月収45万円の世帯を例にする。

手取り25%を上限にすると、毎月返済額は約11.3万円である。

この場合、借入額の目安は次の通りだ。

金利前提最大借入額の目安
変動金利を1.5%で試算約3,690万円
固定金利を3.2%で試算約2,850万円

一方、金融機関の審査や不動産会社の提案では、もっと大きな借入額を見せられることがある。

たとえば5,500万円を0.50%で35年借りると、当初返済額は約14.3万円である。手取り月収45万円に対して約32%だ。

この時点でも重いが、金利が上がればさらに厳しくなる。5,500万円を35年で借りた場合、金利2.0%なら毎月約18.2万円、金利3.0%なら毎月約21.2万円になる。

住宅ローンは、当初返済額だけを見ると軽く見えることがある。

しかし、将来の金利上昇や教育費のピークを重ねると、貯蓄を取り崩すリスクが高まる。ここを見ずに「借りられる額」まで借りると、家計はかなり窮屈になる。

35歳以降に買う人は返済期間を疑う

最大借入額の早見表は、35年ローンを前提にしている。

しかし、誰でも35年間を同じ収入で返せるわけではない。

フラット35では、借入期間について「35年」と「80歳から申込時年齢を差し引いた年数」の短いほうが上限とされている。制度上は長いローンを組めても、家計上は定年後の返済が大きな問題になる。

たとえば40歳で35年ローンを組むと、完済は75歳である。会社員の場合、60歳から65歳以降は再雇用や年金生活に入り、収入が下がる可能性が高い。

定年後もローンが残る場合、次のどちらかを考えておく必要がある。

対応内容
定年前に繰上返済する定年時の残高に近い資金を別枠で準備する
返済期間を短くする25年、30年でも返せる借入額まで下げる

「80歳まで借りられる」と「80歳まで無理なく返せる」は違う。

住宅ローンの本当のリスクは、審査に通ることではなく、収入が下がった後も返済が残ることである。

予算が足りないときにやるべきこと

安全な最大借入額を計算すると、買いたい物件価格に届かないことがある。

これは珍しいことではない。むしろ、物件価格が高い地域では自然な結果だ。

そのときに、変動金利の当初返済額だけを使って借入額を増やす、ペアローンで限界まで枠を広げる、ボーナス払いで帳尻を合わせる、といった対応は慎重に考えたい。

ペアローンで借入可能額を増やす場合は、どちらか一方の収入が減少したケースでも返済できるかを確認したい。夫婦それぞれが返済義務を負うため、購入時点の世帯年収だけでなく、出産・育休・転職・介護・病気などで収入計画が変わった場合の家計も見ておく必要がある。借入枠を広げられることと、長く安全に返せることは別である。

家計を守る選択肢は、次の3つである。

対応効果
自己資金を貯める借入額を減らし、返済額と金利リスクを下げる
物件条件を見直すエリア、広さ、新築中古、駅距離で価格を調整する
返済義務のない資金を使う親族からの住宅取得資金贈与などを検討する

住宅は生活を豊かにするための器である。

その住宅のために、教育費、老後資金、日々の生活、転職の自由を失うなら、予算設定を見直したほうがいい。

最大借入額は、銀行が決めるものではない。家計が決めるものだ。

次は繰上返済を考える

最大借入額を下げる方法として、頭金を多く入れる、早めに繰上返済するという考え方がある。

ただし、手元資金をすべて住宅に入れるのが常に正解とは限らない。

住宅ローン金利、運用利回り、生活防衛資金、教育費、団信、住宅ローン控除、流動性を合わせて考える必要がある。

次回は、「繰上返済は本当に得か」というテーマで、手元に現金を残す意味と、早く返すメリットを比較する。

出典

本記事は、公開情報に基づいた教育的・情報提供のみを目的としており、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容や将来の投資成果を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけますようお願い申し上げます。