住宅ローン・家計財務攻略シリーズ
このシリーズでは、住宅ローンを「借りられる金額」ではなく、家計のキャッシュフローとリスク管理の視点から整理していきます。
- フラット35が初の3%突破|5,000万円借入で総返済額は約2,880万円変わる
- 【5,000万円借入】固定金利と変動金利の金利上昇シナリオを比較
- 年収別・住宅ローンの返済比率は何%までが本当の安全圏か
- 家計が破綻しにくい住宅ローンの最大借入額の計算方法(この記事)
- 繰上返済は本当に得か|手元資金を残すべきか、住宅ローンを早く返すべきか
- 住宅ローンは資産か負債か|家計のバランスシートで考える住宅ローン論
- 変動金利が本当に上がったらどう動く|金利上昇時の3つの防衛行動マニュアル
- 住宅ローンを借りながら新NISAを活用する|リスク許容度別ポートフォリオモデル
- レバレッジ戦略を成功させる負動産の見分け方|10年後も売れる・貸せる家の条件
年収倍率で予算を決めると危ない
住宅購入の現場では、「年収の7倍まで」「ペアローンなら年収の10倍近くまで」といった話を聞くことがある。
しかし、年収倍率だけで予算を決めるのはかなり粗い。
同じ年収700万円でも、家計の余裕は世帯によってまったく違う。
| 違い | 家計への影響 |
|---|---|
| 子どもの人数 | 教育費、保育料、習い事、進学費用が変わる |
| 車の有無 | 維持費、保険、駐車場代、買い替え費用が変わる |
| 年齢 | 定年までの返済期間、老後資金の準備期間が変わる |
| 共働き継続 | 片働き化、育休、介護、転職リスクが変わる |
| 貯蓄額 | 収入減や金利上昇への耐性が変わる |
つまり、予算は年収から決めるものではない。
家計が毎月いくらまでなら安全に返せるか。その出口から逆算するほうが、住宅ローンでは現実的である。
最大借入額を出す3ステップ
住宅ローンの最大借入額は、次の順番で考える。
1. 手取り月収から毎月の安全な返済額を決める
2. 逆算に使う金利を決める
3. 返済額・金利・返済期間から借入額を逆算する
1. 毎月の安全な返済額を決める
前回記事の考え方では、住宅ローン返済額は手取り月収の20〜25%以内を目安にしたい。
たとえば手取り月収45万円の世帯なら、次のようになる。
| 返済比率 | 毎月返済額 |
|---|---|
| 20% | 約9.0万円 |
| 25% | 約11.3万円 |
この金額は、ローン返済だけの目安である。管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険、修繕費の積立は別に見ておきたい。
2. 金利を保守的に置く
借入額を逆算するとき、現在の最低金利だけで計算すると借り過ぎになりやすい。
変動金利で借りる場合でも、安全な予算を決める段階では、将来の上昇を見込んで1.5%程度でストレスをかけておくほうがよい。
固定金利の場合は、実際に適用される固定金利で計算する。この記事では、2026年6月時点のフラット35水準を意識し、固定金利の目安として3.2%を使う。
| 金利タイプ | 逆算に使う金利の例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 変動金利 | 1.5% | 当初金利ではなく、上昇後も耐えられるかを見る |
| 固定金利 | 3.2% | 返済額が固定される前提で、現実の水準に近い金利を見る |
3. 返済額から借入額を逆算する
次の表は、返済期間35年、元利均等返済、ボーナス払いなしで試算した最大借入額の目安である。手数料、保証料、団信差額、税金、繰上返済は含めていない。
| 毎月の安全な返済額 | 変動金利を想定する場合(1.5%で試算) | 固定金利を想定する場合(3.2%で試算) |
|---|---|---|
| 8万円 | 約2,610万円 | 約2,020万円 |
| 10万円 | 約3,270万円 | 約2,530万円 |
| 12万円 | 約3,920万円 | 約3,030万円 |
| 15万円 | 約4,900万円 | 約3,790万円 |
| 18万円 | 約5,880万円 | 約4,540万円 |
| 20万円 | 約6,530万円 | 約5,050万円 |
ここで大事なのは、固定金利で安全に借りる場合、借入可能額がかなり下がることだ。
毎月12万円を返済上限にすると、変動金利を1.5%で見積もった場合は約3,920万円、固定金利3.2%では約3,030万円になる。差は約890万円ある。
この差は、固定金利が悪いという意味ではない。固定金利は返済額を確定させる代わりに、最初から高い金利を払う。その分、同じ毎月返済額で借りられる元本が小さくなる。
借入額と物件価格は同じではない
早見表で出した金額は、あくまで住宅ローンの借入額である。
そのまま「買える物件価格」になるわけではない。
実際の購入可能額は、次のように考える。
購入可能額 = 住宅ローン借入額 + 自己資金 - 諸費用
住宅購入では、登記費用、ローン手数料、火災保険、仲介手数料、修繕積立基金、引っ越し費用などがかかる。目安として、諸費用は物件価格の5〜10%程度を見ておきたい。
たとえば、安全な借入額が3,500万円、自己資金が300万円、諸費用が200万円なら、物件価格の上限はおおむね3,600万円である。
3,500万円 + 300万円 - 200万円 = 3,600万円
借入額だけを見て3,800万円の物件を選ぶと、諸費用分の現金が足りなくなる。足りない分を追加借入や家具家電ローンで埋めると、家計の固定費はさらに重くなる。
住宅購入では、「ローンで借りられる金額」と「物件に使ってよい金額」を分けて考えたい。
年収700万円の家計で見ると現実はかなり厳しい
額面年収700万円、手取り月収45万円の世帯を例にする。
手取り25%を上限にすると、毎月返済額は約11.3万円である。
この場合、借入額の目安は次の通りだ。
| 金利前提 | 最大借入額の目安 |
|---|---|
| 変動金利を1.5%で試算 | 約3,690万円 |
| 固定金利を3.2%で試算 | 約2,850万円 |
一方、金融機関の審査や不動産会社の提案では、もっと大きな借入額を見せられることがある。
たとえば5,500万円を0.50%で35年借りると、当初返済額は約14.3万円である。手取り月収45万円に対して約32%だ。
この時点でも重いが、金利が上がればさらに厳しくなる。5,500万円を35年で借りた場合、金利2.0%なら毎月約18.2万円、金利3.0%なら毎月約21.2万円になる。
住宅ローンは、当初返済額だけを見ると軽く見えることがある。
しかし、将来の金利上昇や教育費のピークを重ねると、貯蓄を取り崩すリスクが高まる。ここを見ずに「借りられる額」まで借りると、家計はかなり窮屈になる。
35歳以降に買う人は返済期間を疑う
最大借入額の早見表は、35年ローンを前提にしている。
しかし、誰でも35年間を同じ収入で返せるわけではない。
フラット35では、借入期間について「35年」と「80歳から申込時年齢を差し引いた年数」の短いほうが上限とされている。制度上は長いローンを組めても、家計上は定年後の返済が大きな問題になる。
たとえば40歳で35年ローンを組むと、完済は75歳である。会社員の場合、60歳から65歳以降は再雇用や年金生活に入り、収入が下がる可能性が高い。
定年後もローンが残る場合、次のどちらかを考えておく必要がある。
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| 定年前に繰上返済する | 定年時の残高に近い資金を別枠で準備する |
| 返済期間を短くする | 25年、30年でも返せる借入額まで下げる |
「80歳まで借りられる」と「80歳まで無理なく返せる」は違う。
住宅ローンの本当のリスクは、審査に通ることではなく、収入が下がった後も返済が残ることである。
予算が足りないときにやるべきこと
安全な最大借入額を計算すると、買いたい物件価格に届かないことがある。
これは珍しいことではない。むしろ、物件価格が高い地域では自然な結果だ。
そのときに、変動金利の当初返済額だけを使って借入額を増やす、ペアローンで限界まで枠を広げる、ボーナス払いで帳尻を合わせる、といった対応は慎重に考えたい。
ペアローンで借入可能額を増やす場合は、どちらか一方の収入が減少したケースでも返済できるかを確認したい。夫婦それぞれが返済義務を負うため、購入時点の世帯年収だけでなく、出産・育休・転職・介護・病気などで収入計画が変わった場合の家計も見ておく必要がある。借入枠を広げられることと、長く安全に返せることは別である。
家計を守る選択肢は、次の3つである。
| 対応 | 効果 |
|---|---|
| 自己資金を貯める | 借入額を減らし、返済額と金利リスクを下げる |
| 物件条件を見直す | エリア、広さ、新築中古、駅距離で価格を調整する |
| 返済義務のない資金を使う | 親族からの住宅取得資金贈与などを検討する |
住宅は生活を豊かにするための器である。
その住宅のために、教育費、老後資金、日々の生活、転職の自由を失うなら、予算設定を見直したほうがいい。
最大借入額は、銀行が決めるものではない。家計が決めるものだ。
次は繰上返済を考える
最大借入額を下げる方法として、頭金を多く入れる、早めに繰上返済するという考え方がある。
ただし、手元資金をすべて住宅に入れるのが常に正解とは限らない。
住宅ローン金利、運用利回り、生活防衛資金、教育費、団信、住宅ローン控除、流動性を合わせて考える必要がある。
次回は、「繰上返済は本当に得か」というテーマで、手元に現金を残す意味と、早く返すメリットを比較する。
出典
- 住宅金融支援機構・フラット35「商品ラインナップ フラット35」
- 住宅金融支援機構・フラット35「フラット35 ご利用条件」
- 住宅金融支援機構・フラット35「年収による借入額などの制限はありますか。」