住宅ローン・家計財務攻略シリーズ
このシリーズでは、住宅ローンを「借りられる金額」ではなく、家計のキャッシュフローとリスク管理の視点から整理していきます。
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試算の前提
今回のシミュレーションでは、前回記事と同じく5,000万円を35年で借りるケースを使う。
借入金額: 5,000万円
返済期間: 35年
返済方式: 元利均等返済
ボーナス払い: なし
手数料・保証料・団信差額・税金: 含めない
固定金利は、フラット35相当として年3.21%を35年間固定とする。
| 金利タイプ | 金利 | 毎月返済額 | 総返済額 |
|---|---|---|---|
| 固定金利 | 3.21% | 約198,333円 | 約8,330万円 |
変動金利は、当初0.50%からスタートし、5年ごとに金利が変わるものとして再計算する。
ここで注意したいのは、これは「金利上昇の感度」を見るための簡略モデルだという点だ。実際の住宅ローンでは、金利見直しのタイミング、返済額見直しルール、125%ルールの有無、未払利息の扱い、繰上返済の有無で結果は変わる。
シナリオA:5年ごとに0.25%ずつ上がる場合
まずは、変動金利がゆっくり上がるケースを考える。
1〜5年目: 0.50%
6〜10年目: 0.75%
11〜15年目: 1.00%
16〜20年目: 1.25%
21〜35年目: 1.50%
この場合、返済額の推移は次のようになる。
| 期間 | 適用金利 | 毎月返済額の目安 | 期間終了時の元本残高 |
|---|---|---|---|
| 1〜5年目 | 0.50% | 約129,793円 | 約4,338万円 |
| 6〜10年目 | 0.75% | 約134,606円 | 約3,681万円 |
| 11〜15年目 | 1.00% | 約138,732円 | 約3,017万円 |
| 16〜20年目 | 1.25% | 約142,123円 | 約2,332万円 |
| 21〜35年目 | 1.50% | 約144,732円 | 0円 |
このシナリオでは、変動金利の総返済額は約5,877万円になる。
固定金利3.21%の総返済額約8,330万円と比べると、変動金利のほうが約2,453万円少ない。
金利が最終的に1.50%まで上がっても、当初20年間を低めの金利で通過できるため、総返済額への影響は限定的だ。
ただし、これはあくまで「ゆっくり上がった場合」である。変動金利が有利という結論を、すべての金利上昇局面に一般化してはいけない。
シナリオB:15年で3.50%まで上がる場合
次に、金利上昇がかなり急なケースを置く。
1〜5年目: 0.50%
6〜10年目: 1.50%
11〜15年目: 2.50%
16〜35年目: 3.50%
この場合、返済額は一気に重くなる。
| 期間 | 適用金利 | 毎月返済額の目安 | 期間終了時の元本残高 |
|---|---|---|---|
| 1〜5年目 | 0.50% | 約129,793円 | 約4,338万円 |
| 6〜10年目 | 1.50% | 約149,718円 | 約3,744万円 |
| 11〜15年目 | 2.50% | 約167,942円 | 約3,169万円 |
| 16〜35年目 | 3.50% | 約183,806円 | 0円 |
この試算は特定の金利推移を前提とした参考モデルであり、実際の総返済額は金利上昇のタイミングや借入条件によって大きく変わる。
このシナリオでは、変動金利の総返済額は約7,096万円になる。
固定金利3.21%の総返済額約8,330万円と比べると、まだ変動金利のほうが約1,234万円少ない。
一見すると、「3.50%まで上がっても変動金利のほうが有利なのか」と見える。
ここが一番誤解されやすい。
この結果は、あくまで「最初の5年間は0.50%、次の5年間は1.50%、その後に2.50%、16年目以降に3.50%」という特定の仮定によるものだ。
住宅ローンでは、金利上昇の影響は借入初期ほど大きい。借入直後は元本残高が大きいため、同じ1%の金利上昇でも利息額への影響が大きくなる。逆に返済後半は元本が減っているため、同じ金利上昇でも総返済額への影響は相対的に小さくなる。
だから、15年かけて3.50%へ上がるシナリオと、借入から数年以内に3.50%へ急上昇するシナリオは、まったく別物である。
もし最初の5〜10年に3%台後半まで急騰するなら、変動金利の総返済額は大きく増え、固定金利との差は一気に縮む。条件次第では固定金利を上回ることもある。
なぜ総返済額の差は縮まるのか
シナリオAでは、固定金利との差は約2,453万円だった。
シナリオBでは、差は約1,234万円まで縮まった。
差が縮まる理由は単純だ。変動金利の低金利メリットが、金利上昇によって少しずつ削られていくからである。
ただし、削られ方は金利上昇の「幅」だけでは決まらない。より重要なのは、上がるタイミングだ。
借入初期は元本が大きい。5,000万円近い残高に対して金利が上がれば、利息負担は一気に増える。一方、返済後半は元本が減っている。残高が2,000万円台、1,000万円台まで下がったあとで金利が上がっても、総返済額への影響は借入初期ほど大きくない。
つまり、住宅ローンの金利リスクは「何%まで上がるか」だけでなく、「いつ上がるか」で大きく変わる。
この視点を持たないまま、シナリオ表だけを見て「変動金利で大丈夫」と判断するのは危ない。
5年ルールと125%ルールを誤解しない
変動金利を選ぶなら、5年ルールと125%ルールの理解は避けて通れない。
一般に、変動金利型の元利均等返済では、金融機関によって次のようなルールが採用されることがある。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 5年ルール | 金利が変わっても、毎月返済額は5年間変わらない |
| 125%ルール | 返済額見直し時の増加幅を、それまでの返済額の125%までに抑える |
このルールは、毎月返済額の急増を抑える仕組みである。
ただし、金利上昇分が消えるわけではない。
金利が上がっても返済額が据え置かれると、毎月返済額の中で利息に回る部分が増え、元本の減り方が遅くなる。さらに金利上昇が大きい場合には、毎月の返済額よりも利息額が大きくなり、未払利息が発生することがある。
「毎月返済額が変わらないから安心」ではない。
見えないところで、元本の減少が想定より進まなくなる可能性がある。
すべての金融機関に5年ルールがあるわけではない
もうひとつ重要なのは、5年ルールと125%ルールはすべての金融機関で共通ではないという点だ。
一部のネット銀行や金融機関では、5年ルールや125%ルールを採用していない。たとえば、SBI新生銀行やソニー銀行は、自社の住宅ローンでこれらのルールを採用していない旨を説明している。
ルールがない場合、金利上昇は毎月返済額により直接反映される。
そのため、未払利息や元本減少の遅れが見えにくくなるリスクは抑えやすい一方で、家計には返済額増加がすぐに来る。これはこれで厳しい。
同じ「変動金利」でも、金融機関によってリスクの出方は違う。
住宅ローンを比較するときは、金利の低さだけでなく、返済額見直しルール、未払利息の扱い、繰上返済のしやすさ、団信、手数料まで見る必要がある。
変動金利を選ぶなら必要な家計の余力
変動金利は、期待値だけで見れば有利に見える場面が多い。
しかし、それは金利上昇時に耐える余力がある家計に限られる。
最低限、次の3つは確認しておきたい。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 返済額上昇に耐えられるか | 月3万円、5万円、8万円増えても生活費と教育費を守れるか |
| 繰上返済の原資があるか | 金利上昇時に元本を圧縮できる現金や金融資産があるか |
| 収入の下振れに耐えられるか | 転職、休職、片働き化、賞与減少が起きても返済できるか |
変動金利は「安い金利」ではなく、「金利変動リスクを自分で管理するローン」だ。
この管理ができるなら強い。できないなら、当初金利の低さだけで選ぶのは危ない。
固定金利を選ぶ意味
固定金利は、総返済額の期待値では不利に見えることがある。
今回のシナリオA、シナリオBでも、単純計算では変動金利のほうが総返済額は少なかった。
それでも固定金利を選ぶ意味はある。
固定金利の価値は、将来の金利上昇を当てにいかなくて済むことだ。
毎月返済額が確定していれば、教育費、老後資金、生活費、修繕費の計画を立てやすい。金利ニュースに振り回されにくい。家計の防御力を買う選択とも言える。
住宅ローンで避けたいのは、最安を逃すことではない。
家計が一度崩れて、売りたくないタイミングで家を手放すことだ。
固定金利は、その最悪シナリオを遠ざけるためのコストとして見ると理解しやすい。
最後は「借り過ぎていないか」に戻る
固定金利か、変動金利か。
この議論は大事だ。
ただ、住宅ローン破綻の根本原因は、金利タイプの選択ミスだけではない。
もっと大きいのは、そもそも家計のキャパシティを超えて借りてしまうことだ。
5,000万円を借りるなら、固定金利3.21%では毎月返済が約19.83万円になる。変動金利0.50%なら当初は約12.98万円で済む。だが、変動金利の当初返済額だけを見て借入額を決めると、金利が上がった瞬間に家計が苦しくなる。
住宅ローンは、借りられる金額ではなく、返せる金額から決めるべきだ。
次に見るべき指標は、返済比率である。
返済比率 = 年間返済額 ÷ 年収
次回は、年収別に住宅ローンの返済比率をどこまでに抑えるべきかを整理する。固定か変動か以前に、借入額そのものが家計に対して大きすぎないか。ここを見ないと、金利タイプをどれだけ検討しても判断を誤る。
出典
- 住宅金融支援機構・フラット35「商品ラインナップ フラット35」
- KAB ONLINE「フラット35 6月適用の最低金利が初の3%超 長期金利の上昇などを受け」(2026年6月1日)
- 三菱UFJ銀行「住宅ローンの5年ルール・125%ルールについて知りたい。」
- SBI新生銀行「変動金利の5年ルールと125%ルールとは?」
- ソニー銀行「住宅ローン5年ルール125%ルール なぜソニー銀行は導入していないの?」