住宅ローン・家計財務攻略シリーズ

このシリーズでは、住宅ローンを「借りられる金額」ではなく、家計のキャッシュフローとリスク管理の視点から整理していきます。

銀行の「貸せる基準」と家計の「返せる基準」は違う

住宅ローンの返済比率は、次のように計算する。

返済比率 = 年間返済額 ÷ 年収

ここで注意したいのは、銀行の審査で使われる年収と、家計が実際に使えるお金は違うという点だ。

多くの審査では、税金や社会保険料を引く前の額面年収が使われる。一方、家計が毎月の返済や生活費に使えるのは、税金や社会保険料を引いたあとの手取りである。

額面年収に対する返済比率が30%でも、手取りベースでは35%から40%近くに見えることがある。

ここに大きなズレがある。

金融機関が使う返済負担率、いわゆるDTIと、家計が実際に感じる返済負担は必ずしも一致しない。

ローン以外の住居費も忘れてはいけない

住宅を買ったあとに出ていくお金は、住宅ローンだけではない。

一戸建てなら、外壁、屋根、給湯器、設備交換のための修繕費を自分で積み立てる必要がある。

マンションなら、管理費、修繕積立金、駐車場代が毎月かかる。将来、修繕積立金が上がることも珍しくない。

さらに、固定資産税や都市計画税もある。

つまり、住宅ローンの返済額だけで「住居費」を見てはいけない。ローン返済に毎月15万円払えると思っていても、管理費や修繕積立金、固定資産税を月割りすると、実質的な住居費は18万円、20万円に近づくことがある。

返済比率を見るときは、できればローン返済だけでなく、住居関連の固定費全体も一緒に確認したい。

本当の安全圏は手取りの20〜25%以内

家計の安全性を重視するなら、住宅ローン返済額は手取り収入の20〜25%以内を目安にしたい。

手取りに対する返済割合家計の見え方
20%以内教育費、貯蓄、投資、修繕費の余力を残しやすい
20〜25%一般的な安全圏。支出管理ができれば現実的
25〜30%注意ゾーン。家族構成や教育費次第で苦しくなる
30%超かなり重い。収入減や金利上昇への耐性が落ちる

もちろん、正解は世帯ごとに違う。

子どもがいない共働き世帯と、子ども2人の片働き世帯では、同じ返済比率でも家計の余裕はまったく違う。車の有無、親への仕送り、奨学金、既存ローン、勤務地、保育料、将来の教育方針でも変わる。

それでも、返済比率を手取りの20〜25%以内に抑えるという考え方は、家計が無理をしていないかを見る強い目安になる。

年収別に見る安全な毎月返済額

次の表は、額面世帯年収ごとに、手取り額から逆算した毎月返済額の目安を置いたものだ。

表の手取り額は、単身または共働きで配偶者控除がない世帯を想定した概算である。扶養家族の有無、社会保険料、賞与比率、住民税、配偶者控除、iDeCo、勤務先制度、自治体、年齢によって手取りは大きく変わる。実際の判断では、源泉徴収票と給与明細の手取り額を確認したい。

額面世帯年収毎月の手取り目安安全圏20%上限目安25%額面35%で借りた場合
500万円約33万円約6.6万円約8.3万円約14.6万円
700万円約45万円約9.0万円約11.3万円約20.4万円
1,000万円約63万円約12.6万円約15.8万円約29.2万円
1,200万円約75万円約15.0万円約18.8万円約35.0万円

額面35%で見ると、かなり大きな金額まで借りられるように見える。

しかし、家計の実感は違う。年収700万円で毎月20万円超の住宅ローンを払うと、手取りの4割以上がローン返済だけで消える。ここに管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険、教育費が乗る。

高年収世帯も油断できない。

年収1,200万円なら月35万円の返済も審査上は見えてくるが、手取り月75万円のうち35万円がローン返済に消えると、住居費の圧迫感はかなり強い。高年収世帯ほど教育費、外食、車、旅行、保険、習い事などの固定支出が膨らみやすい。額面だけで余裕があると判断しないほうがいい。

25%を超えても持ちこたえやすい世帯

物件価格が高い地域では、手取り25%以内に収めるのが難しいこともある。

25%を少し超えても持ちこたえやすいのは、次のような世帯だ。

条件理由
手元資金が厚い収入減や金利上昇時に生活費を守りやすい
将来の昇給確度が高い一時的に返済比率が高くても、数年後に下げられる可能性がある
共働き継続の見通しが強い片方の収入に依存しにくい
子どもや車など大きな支出が少ない住居費以外の固定費を抑えやすい
繰上返済の原資がある金利上昇時に元本を圧縮しやすい

ただし、これは「25%を超えても大丈夫」という意味ではない。

25%を超える場合は、家計簿上の余裕、貯蓄残高、教育費のピーク、収入減のシナリオをかなり保守的に見たい。

25%超が危うい世帯

反対に、25%超を避けたい世帯もある。

条件危うい理由
変動金利の当初返済額でギリギリ金利上昇で返済額が増える余地を吸収できない
ペアローンで双方の収入を限界まで使う出産、育休、病気、転職、賞与減で計画が崩れやすい
ボーナス払いを前提にしている賞与減少や転職で年間返済計画が崩れやすい
教育費のピークがこれから来る中学、高校、大学進学で支出が急増しやすい
車、保険、奨学金など固定費が多い住宅ローン以外の支出を削りにくい

とくに注意したいのは、変動金利の当初返済額だけを見て借入額を決めるケースだ。

0.50%前後の変動金利なら、毎月返済額は軽く見える。しかし、その返済額で家計がぎりぎりなら、金利が1%、2%と上がったときに逃げ場がない。

住宅ローンは、今月払えるかではなく、10年後も払えるかで見る必要がある。

予算は物件からではなく返済比率から決める

家計を守る順番は、物件選びから始めることではない。

先に決めるべきなのは、毎月いくらまでなら安全に返せるかだ。

1. 実際の手取り月収を確認する
2. その20〜25%を毎月返済額の目安にする
3. 管理費、修繕積立金、固定資産税も別枠で見積もる
4. その返済額から借入可能額を逆算する
5. 予算に合う物件を探す

多くの人は、先に物件を見てしまう。

気に入った物件が見つかると、「少し無理すれば買えるかもしれない」と考え始める。そこからペアローン、ボーナス払い、変動金利、返済期間延長で帳尻を合わせる。

この順番が危ない。

住宅ローンは、物件の魅力に家計を合わせるものではない。家計が耐えられる返済額に、物件価格を合わせるものだ。

次に見るべきは最大借入額

返済比率を決めると、次の疑問は自然に出てくる。

「毎月12万円までなら安全だとして、いくらまで借りていいのか」

ここで必要になるのが、返済額から借入額を逆算する考え方だ。

金利、返済期間、固定か変動かによって、同じ毎月返済額でも借りられる金額は大きく変わる。

次回は、家計が破綻しにくい住宅ローンの最大借入額を、毎月返済額から逆算する方法を整理する。

出典

本記事は、公開情報に基づいた教育的・情報提供のみを目的としており、特定の銘柄や金融商品の売買を推奨または勧誘するものではありません。掲載内容の正確性については万全を期しておりますが、その内容や将来の投資成果を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。投資に関する最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただけますようお願い申し上げます。