住宅ローン・家計財務攻略シリーズ
このシリーズでは、住宅ローンを「借りられる金額」ではなく、家計のキャッシュフローとリスク管理の視点から整理していきます。
- フラット35が初の3%突破|5,000万円借入で総返済額は約2,880万円変わる
- 【5,000万円借入】固定金利と変動金利の金利上昇シナリオを比較
- 年収別・住宅ローンの返済比率は何%までが本当の安全圏か(この記事)
- 家計が破綻しにくい住宅ローンの最大借入額の計算方法
- 繰上返済は本当に得か|手元資金を残すべきか、住宅ローンを早く返すべきか
- 住宅ローンは資産か負債か|家計のバランスシートで考える住宅ローン論
- 変動金利が本当に上がったらどう動く|金利上昇時の3つの防衛行動マニュアル
- 住宅ローンを借りながら新NISAを活用する|リスク許容度別ポートフォリオモデル
- レバレッジ戦略を成功させる負動産の見分け方|10年後も売れる・貸せる家の条件
銀行の「貸せる基準」と家計の「返せる基準」は違う
住宅ローンの返済比率は、次のように計算する。
返済比率 = 年間返済額 ÷ 年収
ここで注意したいのは、銀行の審査で使われる年収と、家計が実際に使えるお金は違うという点だ。
多くの審査では、税金や社会保険料を引く前の額面年収が使われる。一方、家計が毎月の返済や生活費に使えるのは、税金や社会保険料を引いたあとの手取りである。
額面年収に対する返済比率が30%でも、手取りベースでは35%から40%近くに見えることがある。
ここに大きなズレがある。
金融機関が使う返済負担率、いわゆるDTIと、家計が実際に感じる返済負担は必ずしも一致しない。
ローン以外の住居費も忘れてはいけない
住宅を買ったあとに出ていくお金は、住宅ローンだけではない。
一戸建てなら、外壁、屋根、給湯器、設備交換のための修繕費を自分で積み立てる必要がある。
マンションなら、管理費、修繕積立金、駐車場代が毎月かかる。将来、修繕積立金が上がることも珍しくない。
さらに、固定資産税や都市計画税もある。
つまり、住宅ローンの返済額だけで「住居費」を見てはいけない。ローン返済に毎月15万円払えると思っていても、管理費や修繕積立金、固定資産税を月割りすると、実質的な住居費は18万円、20万円に近づくことがある。
返済比率を見るときは、できればローン返済だけでなく、住居関連の固定費全体も一緒に確認したい。
本当の安全圏は手取りの20〜25%以内
家計の安全性を重視するなら、住宅ローン返済額は手取り収入の20〜25%以内を目安にしたい。
| 手取りに対する返済割合 | 家計の見え方 |
|---|---|
| 20%以内 | 教育費、貯蓄、投資、修繕費の余力を残しやすい |
| 20〜25% | 一般的な安全圏。支出管理ができれば現実的 |
| 25〜30% | 注意ゾーン。家族構成や教育費次第で苦しくなる |
| 30%超 | かなり重い。収入減や金利上昇への耐性が落ちる |
もちろん、正解は世帯ごとに違う。
子どもがいない共働き世帯と、子ども2人の片働き世帯では、同じ返済比率でも家計の余裕はまったく違う。車の有無、親への仕送り、奨学金、既存ローン、勤務地、保育料、将来の教育方針でも変わる。
それでも、返済比率を手取りの20〜25%以内に抑えるという考え方は、家計が無理をしていないかを見る強い目安になる。
年収別に見る安全な毎月返済額
次の表は、額面世帯年収ごとに、手取り額から逆算した毎月返済額の目安を置いたものだ。
表の手取り額は、単身または共働きで配偶者控除がない世帯を想定した概算である。扶養家族の有無、社会保険料、賞与比率、住民税、配偶者控除、iDeCo、勤務先制度、自治体、年齢によって手取りは大きく変わる。実際の判断では、源泉徴収票と給与明細の手取り額を確認したい。
| 額面世帯年収 | 毎月の手取り目安 | 安全圏20% | 上限目安25% | 額面35%で借りた場合 |
|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 約33万円 | 約6.6万円 | 約8.3万円 | 約14.6万円 |
| 700万円 | 約45万円 | 約9.0万円 | 約11.3万円 | 約20.4万円 |
| 1,000万円 | 約63万円 | 約12.6万円 | 約15.8万円 | 約29.2万円 |
| 1,200万円 | 約75万円 | 約15.0万円 | 約18.8万円 | 約35.0万円 |
額面35%で見ると、かなり大きな金額まで借りられるように見える。
しかし、家計の実感は違う。年収700万円で毎月20万円超の住宅ローンを払うと、手取りの4割以上がローン返済だけで消える。ここに管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険、教育費が乗る。
高年収世帯も油断できない。
年収1,200万円なら月35万円の返済も審査上は見えてくるが、手取り月75万円のうち35万円がローン返済に消えると、住居費の圧迫感はかなり強い。高年収世帯ほど教育費、外食、車、旅行、保険、習い事などの固定支出が膨らみやすい。額面だけで余裕があると判断しないほうがいい。
25%を超えても持ちこたえやすい世帯
物件価格が高い地域では、手取り25%以内に収めるのが難しいこともある。
25%を少し超えても持ちこたえやすいのは、次のような世帯だ。
| 条件 | 理由 |
|---|---|
| 手元資金が厚い | 収入減や金利上昇時に生活費を守りやすい |
| 将来の昇給確度が高い | 一時的に返済比率が高くても、数年後に下げられる可能性がある |
| 共働き継続の見通しが強い | 片方の収入に依存しにくい |
| 子どもや車など大きな支出が少ない | 住居費以外の固定費を抑えやすい |
| 繰上返済の原資がある | 金利上昇時に元本を圧縮しやすい |
ただし、これは「25%を超えても大丈夫」という意味ではない。
25%を超える場合は、家計簿上の余裕、貯蓄残高、教育費のピーク、収入減のシナリオをかなり保守的に見たい。
25%超が危うい世帯
反対に、25%超を避けたい世帯もある。
| 条件 | 危うい理由 |
|---|---|
| 変動金利の当初返済額でギリギリ | 金利上昇で返済額が増える余地を吸収できない |
| ペアローンで双方の収入を限界まで使う | 出産、育休、病気、転職、賞与減で計画が崩れやすい |
| ボーナス払いを前提にしている | 賞与減少や転職で年間返済計画が崩れやすい |
| 教育費のピークがこれから来る | 中学、高校、大学進学で支出が急増しやすい |
| 車、保険、奨学金など固定費が多い | 住宅ローン以外の支出を削りにくい |
とくに注意したいのは、変動金利の当初返済額だけを見て借入額を決めるケースだ。
0.50%前後の変動金利なら、毎月返済額は軽く見える。しかし、その返済額で家計がぎりぎりなら、金利が1%、2%と上がったときに逃げ場がない。
住宅ローンは、今月払えるかではなく、10年後も払えるかで見る必要がある。
予算は物件からではなく返済比率から決める
家計を守る順番は、物件選びから始めることではない。
先に決めるべきなのは、毎月いくらまでなら安全に返せるかだ。
1. 実際の手取り月収を確認する
2. その20〜25%を毎月返済額の目安にする
3. 管理費、修繕積立金、固定資産税も別枠で見積もる
4. その返済額から借入可能額を逆算する
5. 予算に合う物件を探す
多くの人は、先に物件を見てしまう。
気に入った物件が見つかると、「少し無理すれば買えるかもしれない」と考え始める。そこからペアローン、ボーナス払い、変動金利、返済期間延長で帳尻を合わせる。
この順番が危ない。
住宅ローンは、物件の魅力に家計を合わせるものではない。家計が耐えられる返済額に、物件価格を合わせるものだ。
次に見るべきは最大借入額
返済比率を決めると、次の疑問は自然に出てくる。
「毎月12万円までなら安全だとして、いくらまで借りていいのか」
ここで必要になるのが、返済額から借入額を逆算する考え方だ。
金利、返済期間、固定か変動かによって、同じ毎月返済額でも借りられる金額は大きく変わる。
次回は、家計が破綻しにくい住宅ローンの最大借入額を、毎月返済額から逆算する方法を整理する。
出典
- 住宅金融支援機構・フラット35「年収による借入額などの制限はありますか。」
- 住宅金融支援機構・フラット35「商品ラインナップ フラット35」
- 国税庁「源泉徴収票の見方」