まず結論
暗号資産の個人課税は、制度上かなり大きく変わる方向です。
2026年8月時点の現行制度では、暗号資産を売却・使用することなどによって生じる利益は、事業所得等に該当する場合を除き、原則として「雑所得(その他)」です。給与所得などと合算する総合課税となるため、所得が大きい人ほど所得税率も高くなる可能性があります。
一方、令和8年度税制改正では、金融商品取引法等の改正を前提として、一定の「特定暗号資産」の譲渡等による所得を、他の所得と分離して20%(所得税15%・個人住民税5%)で課税する制度が盛り込まれました。
さらに、対象となる暗号資産取引で生じた損失について、一定の要件の下で翌年以後3年間の繰越控除を認める仕組みも導入されます。
これは単なる税率変更ではなく、
総合課税 → 申告分離課税 単年度で終了する損失 → 3年間の繰越控除
という、暗号資産投資の税務構造そのものを変える改正です。
ただし、ここで最も重要なのは、「2028年から仮想通貨は全部20%になる」と理解しないことです。
対象は金融商品取引業者登録簿に登録される暗号資産等を前提とした「特定暗号資産」など一定の範囲であり、取引相手・取引方法によって課税区分が異なる可能性があります。
また、適用開始日は金融商品取引法の改正法の施行時期に連動しているため、2026年8月時点では最終的な施行日と実務詳細を確認しながら準備する必要があります。
仕組み
現行ルール(2026年)
- 個人の暗号資産取引による利益は、原則として「雑所得(その他)」に区分されます。
- 雑所得の計算上生じた損失を、給与所得など他の所得から差し引くことは原則できません。
- 暗号資産取引全体で損失になっても、その損失を翌年以降の暗号資産利益へ繰り越して控除する一般的な制度はありません。
現行制度では、利益額そのものだけでなく、給与所得などを含めた所得全体によって所得税率が変わります。
そのため、暗号資産で大きな利益を得た年には、所得税・住民税を合わせた負担も大きくなる可能性があります。
一方、損失が出た年については、その損失を給与所得などと相殺したり、翌年の暗号資産利益へ繰り越したりすることが原則できません。
つまり現行制度は、
利益が大きい年
→ 総合課税で税負担が増える可能性
損失が大きい年
→ 翌年以降へ原則持ち越せない
という非対称性があります。
大綱レベルの方向性
- 一定の「特定暗号資産」の譲渡等による所得を、他の所得と分離して20%(所得税15%・個人住民税5%)で課税します。
- 対象となる暗号資産取引で控除しきれない損失は、一定の要件の下で翌年以後3年間の対象所得から繰越控除できる制度になります。
- 特定暗号資産を原資産とする一定の暗号資産デリバティブについても、先物取引に係る課税特例の対象へ加える仕組みが盛り込まれています。
ここでいう「特定暗号資産」は、すべての暗号資産を意味するわけではありません。
税制改正大綱では、金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等を前提として定義されています。
そのため、海外取引所、DeFi、ウォレット間取引、暗号資産同士の交換などが新制度でどのように扱われるかについては、最終的な制度・政省令・税務上の取扱いを確認する必要があります。
概念式(分離課税時)
課税所得 = 対象となる暗号資産の利益 - 対象となる必要経費 - 適用可能な繰越損失 納税額 ≒ 課税所得 × 申告分離税率
※税制改正大綱では所得税15%・個人住民税5%の合計20%とされています。復興特別所得税などを含む実際の税額計算については、適用年度の法令・申告ルールを確認する必要があります。
具体例
Aさんの例(単位: 円)
- 2028年:対象となる暗号資産取引で70万円の損失
- 2029年:対象となる暗号資産取引で30万円の利益
現行
- 2028年に70万円の損失が出ても、給与所得など他の所得との損益通算は原則できません。
- その70万円を2029年の暗号資産利益30万円から繰越控除する一般的な制度もありません。
- そのため、2029年に30万円の利益が出れば、その年の所得として課税関係を考えることになります。
大綱の考え方(対象取引に適用された場合)
- 2028年の対象取引で生じた70万円の損失を、一定の要件を満たせば翌年以後3年間繰り越せます。
- 2029年に30万円の対象利益が出た場合、前年から繰り越した損失70万円の一部と相殺できます。
- この場合、30万円を差し引いた後も40万円の繰越損失が残り、期限内であればその後の対象利益と相殺できる可能性があります。
2028年
▲70万円
↓ 繰越
2029年
+30万円
-30万円(前年損失)
=課税対象 0円
残る繰越損失
▲40万円
この仕組みが導入されれば、価格変動の大きい暗号資産では、年度をまたいだ損益を税務上ある程度平準化できるメリットがあります。
ただし、損失繰越を利用するためには一定の要件を満たす必要があり、確定申告や取引記録の保存などが重要になると考えられます。
注意点
- 「2028年開始」は固定日ではない:税制の適用開始日は、金融商品取引法の改正法の施行日の属する年の翌年1月1日とされています。2028年開始が想定される制度設計ですが、最終的な施行時期は正式な政令等で確認する必要があります。
- すべての暗号資産が対象とは限らない:20%の申告分離課税は「特定暗号資産」など一定の要件を満たす取引が対象です。海外取引所や対象外暗号資産などについては別の課税関係が残る可能性があります。
- 帳簿の精度が重要:損失繰越を使う場合、どの年に、どの対象取引で、いくら損失が生じたかを証明できる記録管理がより重要になります。
- 報告制度も変わる:改正では暗号資産取引業者に、利用者や取引内容などを記載した報告書を税務当局へ提出する仕組みも盛り込まれています。
特に注意したいのが、現行制度と新制度の境界です。
改正前に発生した損失を、新制度開始後の利益へそのまま繰り越せるとは限りません。
また、国内の対象業者を通じた取引と、海外サービスやDeFiなどを利用した取引で課税区分が分かれる場合、同じ暗号資産でも取引方法によって税務処理が異なる可能性があります。
「暗号資産=20%」と覚えるのではなく、
どの暗号資産か
↓
どの業者・方法で取引したか
↓
どの課税区分に入るか
↓
損益通算・繰越ができるか
という順番で確認することが重要になります。
使い方(制度が動く前にやること)
- 2026年分は現行制度に従い、取引履歴・取得価額・売却価額・手数料などを取引所別・暗号資産別に保存する。
- 年次損益だけでなく、取得価額をどの計算方法で求めたかまで再現できるよう、継続的に取引台帳を整備する。
- 国内業者・海外業者・DeFi・暗号資産同士の交換など、取引形態ごとに記録を分け、新制度の対象判定ができる状態にしておく。
- 改正制度の施行日・対象範囲・経過措置が確定したら、現行課税と新しい申告分離課税の境界を最新の法令・国税庁資料で確認する。
特に重要なのは、制度変更を予想して2026年の申告方法を変えないことです。
新制度が予定されていても、適用開始前の所得については現行制度で処理する必要があります。
また、「新制度が始まるまで利益確定を待つべきか」といった判断も、税金だけで決めるのは適切ではありません。
暗号資産は価格変動が大きいため、
税負担の差 < 価格変動による損失
となる可能性もあります。
税制は投資判断の一要素として考え、価格リスク・資産配分・投資目的と合わせて判断する必要があります。
まとめ
暗号資産税制は、2026年8月時点で大きな転換点にあります。
令和8年度税制改正では、一定の特定暗号資産について、
総合課税 → 申告分離課税20% 損失繰越なし → 翌年以後3年間の繰越控除
という大きな変更が盛り込まれました。
さらに、金融商品取引法等の改正法は2026年7月15日に成立しており、新しい暗号資産規制の法整備も進んでいます。
一方で、最も重要なのは「仮想通貨の税金が全部20%になる」と単純化しないことです。
新制度では対象となる暗号資産や取引に条件があり、
対象取引 対象外取引 施行日前の取引 デリバティブ 海外サービス等
で税務処理が分かれる可能性があります。
また、損失繰越の導入は大きなメリットですが、その恩恵を受けるためには、過去の損失額を正確に証明できる取引記録と申告管理が重要になります。
2028年を見据えて今から行うべきことは、新しい税率を前提に売買することではありません。
現行制度で正しく申告できる記録を残し、新制度開始後も同じ取引履歴を追跡できる状態にしておくことが最も実務的な準備です。
出典
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(2025年12月26日閣議決定)
- 金融庁「令和8年度税制改正について」
- 金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」(2026年7月15日成立)
- 国税庁「暗号資産の取引に係る収入がある場合」
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」