10月1日、「月8.8万円以上」の条件がなくなる
これまで、正社員の4分の3未満の時間で働く短時間労働者が厚生年金・健康保険へ加入する場合、一定の企業では主に次の条件がありました。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 学生ではない(例外あり)
- 2カ月を超えて雇用される見込みがある
- 企業規模などの適用要件を満たす
月額8.8万円を年収換算すると約106万円になるため、この賃金要件が「106万円の壁」と呼ばれてきました。
10月1日から、この月額8.8万円以上という賃金要件が撤廃されます。
なお、最低賃金の減額特例許可の対象者で月額賃金が8.8万円未満の場合は、被用者保険の被保険者としない特例があります。本人が希望すれば任意で加入でき、事業主の同意は不要です。
なぜ今、撤廃するのか
2025年に成立した年金制度改正法では、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めたうえで、賃金要件を撤廃するとしていました。
厚生労働省によると、すべての都道府県で最低賃金が1,016円以上となりました。
時給1,016円で週20時間働くと、年収換算でおよそ106万円に達します。そのため、月8.8万円という別の基準を残す必要性が薄れ、10月から撤廃されました。
「年収」より「週20時間」へ
今回の変更で大きいのは、短時間労働者が「106万円を超えないように働く」という調整を意識する必要が薄れることです。
厚生労働大臣は9月29日の会見で、今後は週の所定労働時間が20時間以上であるかどうかによって、被用者保険の適用を判断すると説明しています。
加入すると、厚生年金による上乗せが生じます。健康保険では、要件を満たせば傷病手当金や出産手当金を受けられます。
一方、保険料の本人負担が発生するため、加入直後は手取りが減るケースがあります。
すべての「年収の壁」がなくなるわけではない
今回なくなるのは、厚生年金・健康保険の短時間労働者への適用に使われていた「月額8.8万円以上」という賃金要件です。
「130万円の壁」など、扶養や社会保険に関係する別の基準まで同時になくなるわけではありません。
また、税制上の年収基準とも別制度です。
税と社会保険では判定に使う収入や条件も異なるため、一つの年収額だけでは加入や扶養の扱いを判断できません。
企業規模要件はまだ残る
もう一つ注意したいのが企業規模です。
短時間労働者への社会保険適用について、企業規模要件は一度に撤廃されるのではなく、今後段階的に対象企業を広げます。
| 時期 | 対象となる企業規模 |
|---|---|
| 現在 | 51人以上 |
| 2027年10月 | 36人以上 |
| 2029年10月 | 21人以上 |
| 2032年10月 | 11人以上 |
| 2035年10月 | 企業規模要件を撤廃 |
表の人数は単純な従業員総数ではなく、企業の厚生年金被保険者数を基準とします。週20時間以上でも、勤務先の適用状況や雇用期間などによって加入の扱いは異なります。
企業側も社会保険料を負担
厚生年金・健康保険の保険料は、原則として労働者と企業が分担します。
加入対象者が増えれば、企業側にも社会保険料負担が発生します。
特にパート・アルバイト比率の高い、
- 小売
- 外食
- スーパー
- ドラッグストア
- 介護
- サービス
- 物流
などでは、社会保険料を含む人件費がどう変わるかが焦点です。
一方、社会保険加入を避けるための就業調整が減れば、人手不足の企業が既存従業員の勤務時間を増やしやすくなる可能性もあります。
小規模企業への適用は段階的
企業規模要件は2035年まで段階的に縮小されます。
その過程で新たに社会保険の対象となる比較的小規模な事業所については、短時間労働者本人の保険料負担を軽減できる「保険料調整」の仕組みも導入されます。
事業主が通常より多く保険料を負担し、加入直後の手取り減少を和らげる仕組みです。
制度変更による就業調整を抑える狙いがあります。
日本株では何を見る?
今回の変更だけで個別企業の業績が直ちに大きく変わるわけではありません。
ただ、パート・アルバイトを多く雇う企業では、社会保険適用の拡大が今後の人件費や採用戦略に影響します。
投資家が確認したいのは、
- パート・アルバイト比率
- 社会保険料を含む人件費
- 人手不足の状況
- 省人化投資
- セルフレジやDXの導入
- 価格転嫁の余地
です。
小売・外食では、人件費の増加を客単価や省人化で補えるかが利益率を左右します。
勤務先ごとの適用条件を確かめる
賃金要件の撤廃後も、週20時間、雇用期間、学生の扱い、勤務先の企業規模が加入判断に関わります。「106万円」だけで就業時間を調整する前に、自分の勤務先が適用対象かを確かめる場面です。